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第九章:道に迷う
9-28お帰り
しおりを挟むガリーの村でドーナッツ大会に巻き込まれ約一週間くらいは村から出られなかった。
「コルネル長老たち大丈夫かな?」
「うーん、ロックワームとか平気だったから普通の魔物が相手なら問題無いと思うけど」
「あ見えてきましたね」
目的の封印のひょうたんも手に入って村の外で待っているコルネル長老たちと合流する。
デルバの村の住人は実はオーガで今まで人の姿で封印されていた。
村はこの辺でもかなり奥まった場所にあったために周りの村との交流も少なく、たまに行商人とかが行き来するくらいで村の人たちも何故かあまり村からも出ないし、やってくる人もイリカさんのような変わった人でもない限り長々と村に滞在する人もいないでほとんど人との交流が断たれていた。
ただ、二年前にイリカさんが移住してからは近所に生える毒キノコや有毒の薬草を薬などに変えて有用活用し始めたので近年ではそこそこ交流が出来たとか。
出来たのはいいけど、封印が解かれちゃったら村の皆さんは元のオーガの姿に戻っちゃったからさあ大変。
とはならなかった。
村の人たちは。
「お~い、みんないるぅ~??」
ルラは皆さんが待っているはずの洞窟に向かって声をかける。
しかし、しばらくしても何の反応もない。
「あれ? みんないないのかな??」
「うーん、もしかして食糧調達に行っているのかもしれませんね?」
「ガリーの村から沢山ドーナッツ貰って来たんですけどね……」
村を出る時に大量のドーナツを持たされた。
土産だとか言うけど、大会で食べきれなかったドーナッツを押し付けられた感じだった。
まあ、コルネル長老たちもお腹すかせているかもしれないからちょうどいいだろうけど。
『あんれ? イリカでねが??』
後ろの森から声が聞こえた。
振り返ってみるとオーガの、えーと多分バージさん?
「ただいま戻りました。皆さん何処へ行ってたんですか?」
『ああ、食いモン無くなったんでみんなで狩りさ行ってたださね』
やっぱりそうか。
一週間も放置されたのだ、食糧調達もしなきゃだもんね。
そう思っているとその後ろから皆さんぞろぞろと戻ってきた。
『おう、イリカさおかえんり。ひょうたんあっただがに?』
「コルネル長老、ただいま戻りました。すみませんね戻るのが遅くなって。ガリーの村のドーナッツ大会に巻き込まれまして……」
『ああ、それなら知ってるだがに。帰り遅いんで様子見に行ったら村が閉鎖されてただがに。立て看板みたからなにさおこってっが分かってるだわさ』
そう言ってコルネル長老は大笑いする。
相変わらず豪快な人だな。
そして背負っていたオークを降ろす。
『ちょうどオーク狩って来ただがに、今からさばくからイリカたちも食うけ?』
いやちょっと待て。
オークって豚が人型になったような魔物で、よく薄い本で私たちエルフの女性があーんな事やこーんな事されちゃうと言う事で有名な魔物だけど、人型だよ?
それさばくの!?
食べちゃうの!!!?
「あの、コルネル長老、ガリーの村で沢山ドーナッツ貰って来たんでそれ食べませんか?」
早速目の前でオークをさばこうとするのに見かねて私はドーナッツを差し出し提案する。
するとコルネル長老はあの子供に見せちゃいけない笑顔でにっこりと笑って言う。
『ガリーの村のドーナッツけ! それはごちそうだがや!! みんな、ドーナッツだがや!!』
『『『おおぉっ!』』』
すぐに大きめな葉っぱのお皿を準備してその上に魔法のポーチから大量のドーナッツを引っ張り出して山積みにする。
「さあどうぞ、私たちはもう十分ガリーの村でドーナッツ食べさせられましたから皆さん遠慮なく全部食べちゃってください!」
もう当分見たくもないドーナッツをこれで一気に処分できる。
私とルラ、イリカさんは苦笑を浮かべながら喜んでドーナッツを食べるオーガの皆さんを見るのだった。
* * * * *
「次の封印のひょうたんって何処にあるんですか?」
「次のはあの山と山の間ですね。その向こうには街道があってその先には町があります。それをさらに南下すればリルさんたちが目指している港町ですけど……」
イリカさんはそう言ってこの辺の地図を出して説明してくれる。
私たちの目的である港町。
そうか、順調に行っていればもうとっくの昔にその港町に着いているんだっけ。
南方に存在するその港町はサージム大陸との交易が盛んな港で、定期便も出ている。
そこからサージム大陸に戻って、北上して私たちの住む「迷いの森」のエルフの村に帰る。
私たちの旅の目的でもある。
私がそちらの方向をじっと見ているとイリカさんはもじもじとしながら聞いてくる。
「リルさんとルラさんはそのまま港町に向かいますか?」
そう聞いてくるイリカさんに私は小さく笑って言う。
「乗り掛かった舟です。封印のひょうたん集めが終わるまではちゃんと手伝いますよ」
私がそう言うとイリカさんは嬉しそうにして頷く。
「ありがとうございます。これでもっとリルさんとルラさんを研究できる! 今日もしっかりとエルフの生態について教えてもらいますよぉ!」
そう言うイリカさんに今度は苦笑して私は言う。
「はいはい、分かりましたから夜寝ている時に服脱がさないでください」
「え~、だって気になるじゃないですか? エルフの体臭は森の香りがするとか聞きますし~」
いやあの、それって人間で言う汗臭いって事だからね?
私としては恥ずかしい事だからね?
ガサガサ……
「ひっ!?」
ジト目でイリカさんを見ていると、草の茂みが揺れて旅人らしき人が現れた。
彼は私たちを見て尻もちをつく。
「オ、オーガの群れ!? うわっ! こ、これはオークの死骸? ひっ! 女性と女の子がオーガに捕まっている!?」
「あ、いやこれは……」
『なんね? 旅人け? そだ、おめさんも食うけ?』
コルネル長老はあの子供に見せちゃいけない笑顔でフレンドリーでその旅人に接する。
するとその旅人は大慌てで悲鳴を上げて逃げだした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ! オ、オーガに食い殺されるぅっ!!!!」
「あっ」
脱兎のごとく逃げ出す彼。
まあこんな光景をいきなり見せられてトドメに長老のスーパーフレンドリースマイル見せられればそうもなるか……
私は彼が逃げていった方向が山と山の間にあるという町の方向だと気付く。
「うーん」
まあ大丈夫だとは思うけど。
その時私は比較的お気軽な気持ちでそう思うのだった。
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