上 下
173 / 437
第九章:道に迷う

9-17疲れたのでカニ玉で腹ごしらえ

しおりを挟む

 大地の精霊、ノーム君たち約十体はすぐに地面に潜り込み岩山のどこかにあるはずの封印のひょうたんが納められた祠を探しに行った。


「お姉ちゃん、一度にあんなに土の精霊呼び出して大丈夫?」

 ルラは水筒を私に差し出しながら聞いてくる。

「ん、ありがと。流石に結構魔力持って行かれちゃったかな。疲れた」

「なるほど、やはり一度に数体の精霊を行使するのは魔力が膨大に必要と言う事ですね!?」

 私が精霊魔法を使っているのを見てイリカさんは興奮しながら手帳に何か書き込んでいる。
 そして私にいくつか聞いてくる。

「私たち魔術師が使う魔法と精霊魔法は全くと言って系列が違います。魔術師の中には精霊魔法を使えるものもいますが、それって稀でなかなか精霊の制御が出来ないんですよね。エルフはなぜそこまで精霊の行使が上手いのですか?」

 イリカさんは私に顔を近づけてきてそう言う。


「近い、近いですってば! 私たちエルフは精霊は友人と思っています。私も【水生成魔法】などの初歩の魔法は習ったので使えますけど、精霊魔法はそう言った魔法と根本的違うと思います。精霊魔法は精霊たちを友人として、エルフ語でその精霊たちにお願いをして協力をしてもらっています。そしてその力の源として魔力供給をするんです。だから精霊がへそを曲げたり、無理を言うと協力してもらえない時があるんですよ」

 一応論理的に話したつもりだけど、イリカさんたち魔術師にも理解できるだろうか?


「つまり、友人にお願いをして手伝ってもらっていると言う事ですか?」

「簡単に言うとそう言う事ですね。だから事有る毎にエルフ語で語らないといけないんですよ。それに魔術のように特に決まった呪文みたいのも無いですしね」


 この世界の魔術は女神様の御業を私たちも使えるようにするためにその手順や目的を呪文として詠唱してイメージをして、そして魔力を流し込むと言う事をするらしい。
 エルフはもともと精霊と樹木から作られた種族と言う事で、保有する魔力が人族より多い。
 そして半人半精霊の為精霊たちが見えやすく、私たちエルフの言葉も精霊に伝わりやすと聞いた。
 トランさんやカリナさんから教わった事だけど、その事を忘れずシェルさんにも言われた「精霊は友人」で命令するのではなくお願いをする事が精霊魔法をうまく使うコツだと言うのを今一度思い出す。


「なるほど…… 精霊魔法とは私たちが使う魔術とは根本的に違うと言う事なんですね。女神様の御業を体系化して行使するのではなく、精霊たちに協力してもらうと言う。なるほど、その理論はどこかの書物で目にした気もしますね。なるほど……」

 イリカさんはそう言ってぶつぶつメモを取っている。


『時に腹減ってきただなっす』

『んだ、団子でも食うけ?』

『しっかし団子さ食うなら酒も欲しいだがや』


 オーガの皆さんはそう言ってごそごそともらったジビ団子に袋をあさる。
 しかしこの先まだまだ封印を探しに行かなきゃならないんだから、ジビ団子は温存しておきたい。
 だってこれって保存がもの凄く効いていて、村を出発してもう数日だと言うのにまだまだ柔らかく美味しいままなんだもの。


「あの、ジビ団子食べちゃうのもったいないから前に残しておいたビックスパイダーとオオトカゲの卵で何か作りましょうか?」

 魔法のポーチに入れたままだから鮮度も何もその時のままなので美味しくいただける。
 幸い道具も調味料も、そして食材もあるので魔力の回復に少し美味しいものが食べたい。


「リルさんが作ってくれるのですか?」

「ええ、良ければ」

「やった! 久しぶりにお姉ちゃんのごはんだ!」


 イリカさんは私を見てちょっと興味を持つ。
 大方エルフの食生活の一部でも見るつもりなのだろう。

 もっとも、私が作るのはエルフ料理とは程遠いけど……


「取りあえず久々にカニ玉が食べたいのでそれ作りますね」


 私はそう言ってポーチから食材を取り出すのだった。


 * * * * *


「お姉ちゃん、カニ玉ってあの中華料理屋さんの?」

「うん、ビックスパイダーのお肉まだ残ってるし、オオトカゲの卵もあるからね。私カニ玉好きなのよ~♪」


 あのふわとろのカニ玉は何時食べても美味しい。
 特にあんかけが絶品なんだけど、いかんせん今まではカニ玉を作りたくても蟹が手に入らなかった。
 でもビックスパイダーの塩茹でしたものは蟹によく似ているので今ならいける! 

 私はポーチから食材を引っ張り出す。
 そしてまずはビックスパイダーの脚の肉をほぐしておく。
 次いでオオトカゲの卵をお椀に割ってかき混ぜるけど、確かに黄身がオレンジ色位色が濃く、味も濃厚そうだ。


「卵料理ですか?」

「はい、これに具材を入れて焼いてソースをかけるんですよ」


 イリカさんは物珍しそうに見ている。
 オーガの皆さんも私が料理しているのを集まって見ている。


 かき混ぜた卵に刻んだエシャレット、身をほぐしたビックスパイダーの脚、そしてオリーブ油を少々入れ、塩も少し入れて掻き回す。

 それと同時にコンスターチの粉に水、ワインビネガー、魚醤、お砂糖にごま油、セサミーも入れて掻き回しておく。


「さてと、準備は出来たっと」


 言いながら焚火を準備してそこへフライパンを準備する。
 ちょっと多めにオイルを流し込んで熱したら準備しておいた卵を流し込む。


 じゅぅ~っ!


 油を多めに入れておくとふわっと卵が広がるのでさっと掻き回す。
 フライパンに焦げ付かないようにゆすりながら焼き固めていくけど、焼き面が固まったら裏返す。真ん中は掻き回して半熟だったのでこんもりと盛り上がっているので、それが完全に固まる前にお皿に出す。

 それを材料のある限り作り溜めする。


「うわぁ~卵焼きぃ~!」

「まだ駄目よ、これからあんを作るからね」


 焼きたてのふわとろ卵焼きを美味しそうに見ているルラのつまみ食いを牽制しつつあんかけを作る。

 先ほどのフライパンにそのまま準備しておいたあんの元を掻き回しながら流し込む。

 
 じゅぅ~!


 ここで最初は熱いのでじゅうじゅう言うけど、トロトロの美味しいあんを作るには強火ではダメだ。

 焚火から少し離して中火か弱火くらいでよくかき混ぜながらとろみがつくのを待つ。
 強火でやると固まる速度が速すぎてゴテゴテのあんになってしまうからだ。
 多少時間がかかってもせっかくのカニ玉、美味しくいただきたい。

 くるくるとへらで掻き回しながら均等にとろみがつくまで混ぜる。

 多少白く濁るけど、それで大丈夫。
 しばらく火にかけてゆっくり混ぜているとだんだん透明のあのあんになる。


「よし、出来た!」


 私は出来あがったあんを卵の上にかけて行く。
 それはとろっと卵を包み込んで紛れもないあのカニ玉になる。
 そして軽く刻んだエシャレットを真ん中に少し載せて出来上がり。


「さあ出来た! ビックスパイダーのカニ玉よ!」


 おおぉ~!


 途端に周りから感嘆の声が上がる。


「これってエルフ料理ですか? 美味しそうですね」

「わーい、カニ玉だぁ~」

『なんねこれ、うまそうだがや!』

『オオトカゲの卵さうまいけんの~』

『儂、卵焼き大好物だがや!!』

 
 残っていた材料は全部使っちゃったけどせっかく美味しいものを食べるのだからここは大奮発した。
 スプーンを取り出し皆さんに渡してさっそく食べ始める。


「いただきまーす! は~むっ! ぅんぅうむっ、おいひぃ~!」

 あんかけが熱いのでハフハフしながらルラはカニ玉をほうばる。
 私も早速スプーンでそれをすくい口に。

「あ~むっ、んんっ! トロトロで美味しいぃ~!」


 卵焼きはまだ中が半熟でふわとろ。
 オオトカゲの卵は意外と癖が無く卵の黄身が濃い味なので旨味が強い。
 そこへ蟹そっくりなビックスパイダーのほぐし身と、アクセントのエシャレットを刻んだものがあいまってボリューミーになる。

 更に更にそこへしっかりと作り込んだあんが程よい酸味と甘み、ごま油の中華的な香りも相まってふわとろでぼやけてしまう味を引き締めてくれる。


「な、何ですかこれ! 美味しいっ!!」


 イリカさんもカニ玉を口に運び驚きながら幸せそうな顔をする。

 うん、女性なら分かる卵のふわとろの境地!
 これってたまらないのよねぇ~。
 オムレツとか、オムライスとかもこの卵ふわとろが病みつきになっちゃうのよねぇ~。


『なんえこげは! うまいだがに!!』

『んだんだ、こげなウマい卵焼きは初めてだがに!!』

『まんずおったまげただや!』


 オーガの皆さんもスプーンでカニ玉を口に運びながら喜んでくれている様だった。


「あー、これで白いお米があれば最高なのにぃ~」


 ルラはそう言ってパクパクとカニ玉を口に運ぶ。

 ううぅ、確かにこのまま天津飯にしてみたい。
 トロトロのあんと一緒に白いご飯も……

 あ、ちなみに本場中国には天津飯って無いんだって。
 横浜の中華街に行って初めて知ったけど、似たものは香港にはあるらしい。

 ……なんで天津なんだろうね?


「そう言えばお米、ライスがサージム大陸にあると聞いた事がありますね?」

「えっ? イリカさん、それ本当ですか!? 村ではお米なんか聞いた事無かったのに!?」


 エルフの村がある迷いの森は南の大陸、サージム大陸にある。
 自然豊かなこの大陸は南の方は湿地帯が多く、水上都市スィーフなんかは沼の上に街があると聞いた事がある。

 でもお米があるとは聞いた事は無い。


「何分需要がそれほどないとかで限られた市場にしか出回らないと聞きます。確かに豆とかに比べると小さいし、ゴマのように収穫が楽ではなありませんからね」

 いやいやいや、お米の美味しいさを知ったらみんな絶対に作るって!

 あの白くてつやつやのご飯。
 どんなおかずにも合う噛めば噛むほど甘みの出てくるご飯。


「イリカさん! それもっと詳しく教えてください!!」

「ちょ、ちょっとリルさん近い近い!」

 思わずイリカさんを押し倒してしまいそうになるほど私はイリカさんの顔に自分の顔を近づける。
 もう鼻と鼻がくっつく位。


「お姉ちゃん、その話は後にした方が良いみたい。ノーム君たちが戻って来たよ?」

「へっ?」



 ルラに言われ後ろを見るとノーム君たちが集まって来ていたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

ハッピーエンドを待っている 〜転生したけど前世の記憶を思い出したい〜

真田音夢李
恋愛
『やぁ‥君の人生はどうだった?』86歳で俺は死んだ。幸せな人生だと思っていた。 死んだ世界に三途の川はなく、俺の前に現れたのは金髪野郎だった。もちろん幸せだった!悔いはない!けれど、金髪野郎は俺に言った。『お前は何も覚えていない。よかったな?幸せだ。』 何言ってんだ?覚えてない?何のこと?だから幸せだったとでも?死ぬ前の俺の人生には一体何が起こってた!?俺は誰かも分からない人物の願いによってその人生を幸せに全うしたと? 一体誰が?『まさに幸せな男よ、拍手してやろう』そう言って薄ら笑いを浮かべてマジで拍手してくるこの金髪野郎は一体なんなんだ!?そして、奴は言う。ある人物の名前を。その名を聞いた途端に 俺の目から流れ落ちる涙。分からないのに悲しみだけが込み上げる。俺の幸せを願った人は誰!? 分からないまま、目覚めると銀髪に暁色の瞳をもった人間に転生していた!けれど、金髪野郎の記憶はある!なのに、聞いた名前を思い出せない!!俺は第二の人生はテオドールという名の赤ん坊だった。此処は帝国アレキサンドライト。母親しか見当たらなかったが、どうやら俺は皇太子の子供らしい。城下街で決して裕福ではないが綺麗な母を持ち、まさに人知れず産まれた王子と生まれ変わっていた。まさか小説のテンプレ?身分差によって生まれた隠された王子?おいおい、俺はそんなのどうでもいい!一体誰を忘れてるんだ?そして7歳になった誕生日になった夜。夢でついに記憶の欠片が・・・。 『そんな都合が言い訳ないだろう?』 またこいつかよ!!お前誰だよ!俺は前世の記憶を取り戻したいんだよ!

初恋に敗れた花魁、遊廓一の遊び人の深愛に溺れる

湊未来
恋愛
ここは、吉原遊郭。男に一夜の夢を売るところ。今宵も、一人の花魁が、仲見世通りを練り歩く。 その名を『雛菊』と言う。 遊女でありながら、客と『情』を交わすことなく高級遊女『花魁』にまでのぼりつめた稀な女に、今宵も見物人は沸く。しかし、そんな歓声とは裏腹に雛菊の心は沈んでいた。 『明日、あちきは身請けされる』 情を売らない花魁『雛菊』×吉原一の遊び人『宗介』 華やかな吉原遊郭で繰り広げられる和風シンデレラストーリー。果たして、雛菊は情を売らずに、宗介の魔の手から逃れられるのか? 絢爛豪華な廓ものがたり、始まりでありんす R18には※をつけます。 一部、流血シーンがあります。苦手な方はご自衛ください。 時代考証や廓言葉等、曖昧な点も多々あるかと思います。耐えられない方は、そっとブラウザバックを。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

処理中です...