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第九章:道に迷う
9-15二つ目の封印の場所
しおりを挟むデルバの村はドドスの街から南の港町に行く途中、山々に囲まれた盆地のような場所にある森の真ん中にある村だった。
そしてこの村は実はオーガ族の人たちが魔王に仕えてオーガとしての姿を封じられていた場所でもあった。
そんなデルバの村は魔王が封じた巨人族のお目付け役が本来の目的だったのに人の姿に封じられ時代が過ぎるとともにその目的も忘れ去られていた。
「と言うのが調べて分かった事なんですが、皆さんが手を出さなくてもリルさんとルラさんがいれば何とかなっちゃうのではとたまに思いますね……」
流石にイージム大陸。
巨人族だけが脅威ではなく、森の中を歩いていたらビッグスパイダーの群れに襲われた。
オーガはもともと戦闘民族の様でずっと人の姿に封じられていてもここぞと言う時は力を振ってくれた。
ただ、あまり頭を使わないと言うかその……
「『消し去る』! はい、これで大丈夫ですよ」
『まんず助かっただがや』
私は最後の一人を蜘蛛の巣から解放する。
大体二メートルくらいのビックスパイダーはオーガの人たちを糸にからめ、あっという間に包み込んでしまっていた。
この後毒を流し込まれ生きたままバリバリと食べられてしまうらしい。
勿論その前に私やルラ、まだ捕まっていないオーガの人たちでさっくりとビックスパイダーを倒したけどこいつ等って本当に近くで見ると気持ち悪い。
『だども、ビックスパイダーがこんなにおんとはなぁ、こいつら美味いんじゃが』
「はい?」
長老はそう言ってビックスパイダーの脚を斧で切り始める。
表面の所々に毛が生えていてぞっとする。
『こいつさ塩茹でにすんと赤くなって中の身が美味いんさね』
『おお、いいだがやね、長老今晩はこいつで一杯だがや!』
『そう言えばあっちにオオトカゲもおっただがや。卵もあったから狩っといただがや!』
わいわいと魔物たちを切り刻んで持ち寄るオーガの皆さん。
「確かに危ないけど美味しい食材ばかりなんですよね~。ああ、長老ビックスパイダーの頭入りませんよ? そこ毒ありますから」
なんかイリカさんもウキウキとしている。
この流れってもしかして……
「た、食べるんですか? この魔物たち??」
ぞっとしながらイリカさんにそう聞くときょとんとされた。
「え? もしかしてエルフ族は食べないんですか? 美味しいのに」
美味しんだ……
その外見とは裏腹に美味しいらしいそれらをオーガの人たちは嬉々として掻き集めている。
そして今晩は酒盛りが確定なのだけど、早い所次の封印の場所にいかなければならない。
「とは言え、今日はここまでか。まさか次の一番近い封印場所まで二日もかかるとは」
「この森意外と大きいですからね。そう言えばエルフの村がある『迷いの森』って結界が張られているって本当ですか?」
「ああ、そう言えばそんな話がありましたね。長老も私たちだけで結界に入るなって言ったし」
あの村の周りには結界がしてあって、森に入った人は迷子になって森から吐き出される仕組みになっている。
勿論それはエルフも同じで迷ったが最後ちゃんとした門からでないと村には出入りが出来ない。
私たち仕事を与えられていないエルフの子供は結界の中の森でよく遊ぶけど大体は近くに大人たちがいる。
なので今まで結界自体には入った事無かった。
「リルさんその辺をもう少し詳しく!」
「近い近い! 今日はどうせこの後野営するんでしょ? その時に話しますってば」
私はため息をつきながらそう言うのだった。
* * * * *
「美味しぃ~!」
「こ、これってほとんど蟹の味……」
野営をしてさっきやっつけたビッグスパイダーの脚を塩茹でにしてみんなで食べている。
足に生えていた毛は切り落として茹でると、殻が赤くなってまるで蟹の脚のように見える。
塩茹でにしているので塩味も効いていてなかなかの美味しさ。
『まんずこれとデルバの村の酒の組み合わせは最高だがに!』
『んだんだ』
『儂、ビックスパイダーのミソと酒混ぜたの好きなんじゃが毒がのぉ』
あちらでもお酒片手にオーガの皆さんも盛り上がっている。
確かに蟹はお酒とよく合うって生前のお父さんは言ってたな。
でもここまで蟹に似た味だと私はお酢が付けたくなるな……
「そうだ!」
思い出しポーチからお椀とワインビネガーを取り出す。
それを少量お椀に入れてビックスパイダーの脚のお肉をつけて……
ぱくっ!
「んっ! やっぱりだ。ルラこれるけて食べてみて!」
「ん~? なにこれ」
「お酢よお酢。蟹食べる時付けなかった?」
小学生だと付けないかもしれないけど、やっぱり蟹にはお酢が合う。
ルラは首をかしげながらお酢をちょっとつけてからビックスパイダーの脚食べる。
「ふわっ! なにこれ甘みが増して美味しい!!」
「でしょ? これって美味しい蟹の食べ方なのよ!」
言いながら私も、もう一度お酢をつけて食べる。
わずかな酸味が蟹の甘みを引き出す。
やっぱ蟹って言ったら脚よね~。
「でもこれって蜘蛛なんだよね~」
「う”っ!」
いつの間にか蟹として食べていたけど、そう言えばこれって蜘蛛なんだった……
美味しいのは美味しいけどあの八つの目を思い出してげんなりとする。
だってビックスパイダーってあの目の下にでかい顎と牙があるんだもの、おっかないったらありゃしない。
まるで昔見た映画の肉食エイリアンみたい。
「リルさん、それなんですか?」
そんなこと思っているとイリカさんが私たちを覗き込む。
さっきまでエルフの「迷いの森」について話をしていたけど、蜘蛛の脚が茹で上がってからはイリカさんもそっちに真剣だった。
「ああ、これってワインビネガーなんですけどね、本当は蟹に付けて食べると美味しんですよ。でもこの蜘蛛も蟹みたいな味だからもしかしてと思いましてね」
そう言ってお椀をイリカさんに差し出す。
イリカさんはそれを受け取って早速蜘蛛の脚をつけて口に運ぶ。
「むぅっ! なにこれ美味しい!!」
「酸味が甘みを引き出すんですよ。それにお肉も柔らかくなりますしね」
私がそう説明していると他のオーガの人たちもこちらに気付いてやってきた。
『イリカさ、なんねそれ?』
『なんね、うまい喰い方だがや??』
『儂も試したいだがや!!』
口々にそう言うオーガの皆さん。
私は笑いながら更にお椀とワインビネガーを引っ張り出すのだった。
* * * * *
「さてと、これで良しっと」
「お姉ちゃん蜘蛛の脚の肉そんなに掻き集めてどうするの?」
昨日食べきれなかったビッグスパイダーの脚の肉だけをお椀に掻き集めポーチにしまう。
見た目はあれだけど味は確かに蟹だった。
なので捨てるのももったいないのでポーチにしまっておくことにする。
……なんだかんだ言って魔物食べるのにだんだん抵抗が無くなってきたな。
まあ旅をしていると人里から離れれば自給自足は鉄則だけど。
オオトカゲの卵も美味しいと聞く。
なのでしっかりそれも分けてもらってしまっておいた。
「さて、それじゃ行きましょうか。二つ目の封印はもうすぐです」
イリカさんはそう言って石版を見ながら森から見える険しい岩山を指さすのだった。
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