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第八章:ドドスでのエルフ料理?

8-6クレープ祭り

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「ほうっ! これは旨い!!」


 今ここ「鉄板亭」には夕食を食べにウスターさんの工房の人たちが来ている。
 皆さん屈強な男性陣ばかりだけどお料理とお酒をしっかり食べたり飲んだりした後にデザートで出した試作のクレープを食べている。

「リルの嬢ちゃんよ、これは初めての味わいじゃの。薄い皮のくせしてしっかりとその存在をアピールしておる。もちもちしっとりとはこう言う事かの、パンケーキとは全く違った歯ざわり、舌触りじゃい」

「クレープは生地を焦がし過ぎないのが肝ですからね。それに包み込まれた生クリームや果物なんかを楽しむモノですから」

 どんどん焼いて山積みにしていたはずなのにもう少しでなくなってしまいそうだ。
 宣言している通りウスターさんはかなりの甘党らしい。
 フルーツヨーグルトなんかも出してみたけどぺろりと平らげてしまった。

「しかし、これだけでは客が来るとは限らんぞ?」

「ええ、なので後二、三品何か開発しようと思うんですがかなり難しんですよね。何せ牛乳とかを凍らせる方法がないので……」

 本当は冷凍庫なんかがあればジェラートとかもできるのだけど流石にそれは難しい。
 シーナ商会のようなお金のある所なら魔法で氷とか作って保存したりしている様だけど、常に冷やすのなんて難しい。


「ふむ、そうすると凍らせる道具があればまたこう言った美味いモノが喰えるのじゃな?」

「そうですね、せめて鉄板だけでも冷やせれば……」

 私がそう言うとウスターさんはしばし考えてから言う。

「魔力をクレープ焼き台より使うが、鉄自体を冷やす方法はあるの。良し、作ってみるかの!」

「え? いいんですか??」

「その代わり出来たらたらふく食わせてくれると言う条件じゃぞ?」

 そう言ってウスターさんはニカっと笑う。


「ウスターさんには世話になりっぱなしだ。かまわんよリルちゃん」


 追加のクレープを持ってきた亭主さんがお皿を置きながらそう言う。
 厨房では作り方と焼き台の使い方を覚えたメリーサさんが一生懸命クレープを焼いている。
 勿論おかみさんも手伝っているのでどんどん出来上がって来る。


「ふむ、坊主の許可も出たからこれで心置きなく食いに来れるわい。で、リルの嬢ちゃんよ欲しいのはどんなものなんじゃい?」

 私もクレープを一つ貰いながら説明を始める。

「クレープって生クリームが多いのでどうしてもだんだん油っこくなってくるんですよ。そこでこれに氷菓子を入れると更に美味しくそしてさっぱりと食べられるようになるんですよ」

「ほう、氷菓子とな? 冷たい甘味は大好物じゃぞ?」

 そう言ってウスターさんは乗り出して来る。
 私は笑いながら説明を続ける。

「獅子牛の乳にバニラエッセンス、卵、そしてお砂糖に生クリームを少々入れたものをよく混ぜ、冷やした鉄板の上に流し込みます。そしてヘラとかでどんどん氷り始めるモノを掻き回し空気をなるべく入れてジェラートを作ります。最後には液体は固形に近くなるのでそれをクレープに挟んで食べると言う感じですね。あ、勿論ジェラート自体を食べても美味しいですけど」

 アイスを作る機械は流石に難しいけど冷やした鉄板に薄く流し込んだジェラートの原液は薄く引き伸ばす事で氷結する。
 それをへらとかで剥がしながら掻き回せば空気も入ってふわっとなる。

 問題はその冷やした鉄板だけど、この説明でウスターさん分かるかな?


「ふむ、つまりはクレープの焼き台の原理と同じで逆に冷やす機構にすればいいのじゃな? よし、作ってやろう!」


 出来るんだ。
 これって手間だけどジェラート入りのクレープも作れる。
 いや、ジェラートがあるならもっといろいろできそうだ。

 私はクレープをかじりながら思う。
 この味にアイスが入れば!


「むふふふふ、もっと美味しく成るのは確定ね」


「リルちゃ~ん、生地無くなっちゃったよ~」

 私がジェラートに何の味付けしようかと考え始めたらメリーサさんが厨房から出てきてそう言う。

「あれ? 余分に作っておいたはずですが?」

「ごめん、最初の方で結構失敗して破れたり穴が空いたりしたのがあるのよ」

 なるほど、失敗したので生地の元が足らなくなったか。
 仕方ない、もう少し生地の元作るか。

 そう思い厨房に行くと結構な失敗作があった。
 メリーサさんはそれを捨てようとするけどもったいないのであることを思いつく。


「メリーサさん、それ捨てないでください。再利用しますから!」

「え? 破れてたりしてるけど使えるのこれ?」


 そう言うメリーサさんの手元から失敗したクレープを引き取る。
 そしてまずは一枚まな板の上に軽く粉を振ってから載せてもう一枚載せる。
 これで穴とかは無くなったのでそこへ生クリームをへらで薄く塗る。
 そしてその上にまた破れたクレープを乗せ、またクリームを塗る。
 これを何度か繰り返すうちにそれは見事なミルクレープ、確か正式にはミルフィーユクレープだっけ?
 それが出来あがる。


「なにこれ、ケーキみたい!」

「お姉ちゃんこれってお寿司屋さんで回っていたアレ?」


 私がミルクレープを作っているとメリーサさんとルラが覗き込んで聞いてくる。

「ミルクレープと言うお菓子ですよ。失敗したクレープとかはこうして再利用できます。そしてこれにこうしてこうすると~」

 生クリームを絞り器で奇麗にデコレートして、所々に果物載せて蜂蜜を添えれば完成!


 「さあ出来ましたよ、特製ミルクレープです!」


 おおぉ~!


 私はそれをウスターさんたちの所へ持ってきって切り分ける。
 そして皆さんに配りながらメリーサさんやルラにも渡す。
 ちょっと人数いるから少な目になっちゃったけどまあ味見は出来るからいいか。


「リルの嬢ちゃんよこれは?」

「ミルクレープって言うケーキみたいなものです。本当はこれをよく冷やすともっと美味しいんですけどとりあえず味見してください」

 私がそう言うとウスターさんはフォークでぷすっと刺して一口で口の中に放り込んでしまった。


 もごもご……


「おおっ! なんじゃこれは!? ケーキよりずっとうまいぞ!?」

「ほんとだ、なにこれしっとりしていておいしい!」

「もにゅもにゅ、ごくん。うんお寿司屋さんのあれだ~」


 味見をした皆さんも驚いている。
 中にはクレープよりこっちの方が美味いからもっと食わせてくれと言う人もいるほどだ。


「クレープの失敗が出来てもこう言った物も作れますからね。残さず美味しく食べる方法ですけど、これはこれで美味しんですよね~」

「凄いよリルちゃん! これで気兼ねなく失敗できるね!?」


 満面の笑顔でそう言うメリーサさんなんだけど、出来れば失敗は減らしてもらいたい。
 あくまでも副産物なんだから。


「さて、そうすると早速その冷やす台を作るかのぉ。これほど美味いモノだ、そのジェラートとか言う氷菓子も楽しみじゃて」

 そう言って立ち上がるウスターさん。
 懐からお金を出してテーブルの上に置く。

「え? これって」

「取っておけ、晩飯代とこのミルクレープの分じゃよ」

「でもかなり多いんじゃないですか?」

「何、次への投資みたいなもんじゃ。氷菓子、楽しみにしておるぞい」

 そう言ってウスターさんが大笑いしながらお弟子さんたちを引き連れて帰って行ってしまった。
 メリーサさんがお代を数えて驚きの声をあげていたのを聞きながら私は思う。



 ジェラート、かなり期待されてしまったなと。
 
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