上 下
136 / 437
第七章:夢の中で

7-4七大使徒魅惑だったアンダリヤ

しおりを挟む

「こ、殺してやるぅ! 貴様ら二人ともまとめて我が最大魔法で消し炭にしてやるぅ!!」

 
 まるで般若のような形相で呪文を唱えるアンダリヤ。
 するとルラは状況が分かっていないようで首をかしげる。

「なんでアンダリヤさんがあんなに痩せちゃってるの? それに怒っているみたいだし??」

「ルラ! 彼女は悪の秘密結社ジュメルの幹部よ! 悪いやつよ!!」

 私は服を身に付けながらそう言うとルラは表情を明るくして私に聞いてくる。


「悪の幹部!? じゃあ怪人は!? 戦闘員は!?」

「今まであんたは操られていたの! 怪人も戦闘員ももういないの! 後は悪の幹部よ! やっちゃえルラ!!」


 ルラに合わせて私はそう言うとルラはいきなりやる気になって身構える。

「よぉ~しぃ! あたしは『最強』!! いっくっぞぉ~っ!!」

 
 ばっ!


 ルラはチートスキル「最強」を発動させてアンダリヤに飛び込む。


「馬鹿め! 喰らえ【火球】ファイヤーボール!!」


 しかし飛び込んだ先にアンダリヤが唱えていた魔法が完成して大きな火球が出来あがり飛び込むルラに向けられる。

 「あたしは防御も『最強』!!」

 しかし寸での所でルラは「最強」スキルを防御に極振りしてその【火球】を受ける。
 途端にルラを真っ赤な炎が包み爆発するかのように燃え上がる。


「ふはははははははっ! 馬鹿め! 魔法の【火球】の火はそうそう簡単に消せない、消し炭になれ!!」


 高笑いするアンダリヤだったけど、次の瞬間炎の中から飛び出したルラに驚く。

「うぉおおおおぉぉぉっっ!」

「なっ!? 馬鹿なっ!!」


 ばっ!
  

 炎の中から全くと言って良いほど無傷なルラが飛び出る。
 問題はルラの服が燃えて真っ裸と言う事だけど……


「くっ! 【絶対防壁】!!」


 ガンっ!!


 しかし飛び掛かるルラにアンダリヤは口早に呪文を唱え目の前に見えない壁を展開する。
 ルラの放った拳はその見えない壁に遮られ止められてしまった。

「くそっ! 一体どう言う事よ!? なんでこのエルフは無傷なのよ!?」

「まだまだぁ!」

 
 びきっ!
 びきびきびきっ!!

 パキーンっ!


「馬鹿な!? 【絶対防壁】を突き破るだなんて!? 物理攻撃も魔法も絶対に防御できる最上級魔法が!?」

「あたしは『最強』! こんなモノであたしは止められないの!! 必殺ぱーんち!」


 ばきっ!


「ぐはっ!」

 ルラの放った拳はアンダリヤを見事にとらえ、殴り飛ばして壁にたたきつける。
 哀れアンダリヤは壁にぶつかった衝撃で気を失い白目をむいている。


「ルラ、もしかして殺しちゃったの?」

「手加減はしてるから死んでないと思うよ? それよりお姉ちゃん、これで悪の幹部は倒したんだよね!?」


 びしっ!


 なんか変な決めポーズを取っているけど真っ裸なので様にならない。
 私は慌ててポーチから代えの服を取り出しルラに着させる。

「とにかくここは悪の秘密結社ジュメルの『賢者の石』を作る為の施設だったの。メリーサさんも他の女性もこいつらに魂削られてああなっちゃったんだよ、ここは破壊しなきゃだめだよ!!」

 私はルラにそう言うとルラは頷きすぐに他の部屋に向かうのだった。


 * * *


「このぉっ!」

「ぐはぁっ!」


 ばきっ!


 他の部屋にいた女性スタッフはルラと私の姿を見るとなんと変身して全身黒づくめの戦闘員ぽくなった。
 そしてルラに簡単に倒されるのだけど、倒されるとシュワシュワと泡になって消えて行く。

 なんでこんな所までヒーローもののお約束通りなの……

 しかし、それを見てルラのテンションはさらに上がりどんどんと捕らえられていた女性たちを助け出す。


「皆さん逃げてください! この豊胸は魂を削った一時的なものなのです! 早く逃げてください!!」

 私がそう言うとやはり、ぼう~っとした女性たちはふらふらと立ち上がり私の誘導で店の外へと向かう。

 
「くっ! 貴様ら一体何者だ!? アンダリヤ様はどうなった!?」

「悪の幹部アンダリヤはあたしが倒した! さあ、悪の秘密結社ジュメル覚悟しろ!!」


 びしっ!


 なんか月に変わってお仕置きしそうなポーズを取るルラ。
 この娘、いろんなヒーローもの見てたのね……

 そんなルラに敵いもしないのにお約束で突っ込んでいくジュメルの戦闘員の皆さん。
 これで怪人が出てきたら完全に順序違いなんだけど流石に怪人は用意されてなかったようで、私たちは地下にある秘密っぽい部屋の前まで来ていた。


「どうやらここが『賢者の石』を作っている場所のようね?」

「ここを破壊すればこの悪の組織のアジトは壊滅だね!? よぉ~しぃ!!」


 どがんっ!


 ルラはその扉を蹴り破り中に入る。
 するとそこは無人でガラスの筒がたくさん並べられていた。

 いろいろな化学室に有りそうな道具があって何が何だか分からないけど赤い液体が最後に大きな筒に流れ込んでいた。
 そしてそこには小さな赤い石がいろいろな線に繋がって浮いていた。

「これが『賢者の石』ね? こんなモノがメリーサさんたちの魂を削って作られてたなんて、許せない! そしてあのアンダリヤの胸はこの『賢者の石』のお陰で出来たフェイク…… くっそぉ~、今度こそ本当に胸が大きく成ると思ったのにぃ!!」

 結局はかりそめの豊胸。
 もしこの『賢者の石』が無くなったらあのムチムチのナイスボディーだったアンダリヤも元のがりがりの姿に戻る。
 つまりフェイク!!

 私は、きっ! とそれらの設備を見て手をかざす。


「やっと胸が大きく成ると思ったのにぃ! こんなの全部『消し去る』!! 馬鹿ぁっ!!」


 私のチートスキル「消し去るで」目の前にあった設備一式は奇麗さっぱり消え去った。


「お姉ちゃん、これでこのアジトは壊滅だね! 正義は勝つ!!」


 シャキーン!


 またまたルラは変な決めポーズをして高々と勝利宣言をするのだった。


 * * *


「あ、あれ? 悪の幹部がいない??」

「え? しまった、まさか気が付いて逃げ出したか!? あー、ミスった。先に縄か何かで縛りあげておけばよかった!!」


 ルラが倒した戦闘員はみんな泡になって消えてしまったけど、ジュメル七大使徒の一人、魅惑だったアンダリヤは気を失っていたはずだった。
 そいつを捕まえてこの街の衛兵さんに突き出そうと思ったらすでにいなくなっていた。

 ルラの話だと手加減しているから死んではいないだろうと言う事だったけど、こんなに早く気が付いて逃げ出すとは思っても見なかった。


「仕方ない、とにかく『鉄板亭』に戻ってメリーサさんにこの事実を話さなきゃね。ルラ、戻ろう」

「うん、お姉ちゃん!」


 私たちは壊滅させたジュメルのアジトを後にしたのだった。


 * * * * *


「鉄板亭」に戻って事の顛末をメリーサさんに話そうと思ったら何故か大騒ぎになっていた。


「なにこれ、どう言う事ぉ!?」

「お、落ち着けメリーサ!」


 なにやらメリーサさんの部屋で騒ぎが起こっているらしい。
 私とルラはメリーサさんの部屋に入ってゆく。


「どうしたんですかメリーサさん!?」

「何があったの??」


 私とルラがメリーサさんの部屋に入ると鶏の香味野菜スープを携えたおかみさんと亭主さんがいた。
 そしてベッドの上で取り乱しているメリーサさんも。


「リルちゃん、ルラちゃん!!」


 部屋に入ってきた私たちに気付いたメリーサさんは涙目で私たちを見る。
 そして私は気づいた。

「メ、メリーサさん、その胸は……」

「胸がムズムズして目が覚めたら元のサイズに戻っていたの! あれだけ大きく成り始めていた私の胸が!!」

「あ~、それは悪の秘密結社ジュ…… もごっ!?」

 ルラが真相を言い始めるのを私は慌てて口を手で塞いで止める。


 まさかあの消した「賢者の石」ってメリーサさんたちにも影響を及ぼしていたとは!

 言えない。
 もし私が「賢者の石」を消し去ってその影響力が消えたとか言ったらメリーサさんたちに殺される。


「え、えっとぉ、あの豊胸のお店いきなりお店をたたんでしまったみたいですよ?」

「なっ!? それじゃぁ私の胸は!? 憧れの揺れる胸はぁっ!?」


 メリーサさんと目を合わせない様にして私はルラの口をふさいだまま乾いた笑いをする。
 そしてなんとかいろいろと誤魔化して銭湯に行くと言ってその場を後にするのだった。


 * * * * *


 かぽーん


「お姉ちゃん、なんでメリーサさんに本当の事言わなかったの?」

「あのねルラ、正義のヒーローは内緒で地道に悪の組織と戦うのでしょ? メリーサさんに本当のこと言って今度はメリーサさんが悪の組織に狙われたらどうするのよ?」

「おおっ! なるほど!!」


 湯船に一緒に入りながらルラにそう説明すると簡単に納得してくれた。

 うん、これで「賢者の石」を消し去ったのが私だとばれる事は無くなった。
 そしてここ銭湯にはまたたくさんの胸の控えめな女性客が増えていた。


「さてと、順番札も貰っているしそろそろ体洗ってマッサージを受けに行こうかな?」

「ん~、お姉ちゃんの胸少し大きく成った?」


 ふにょ!


「きゃっ! ル、ルラ、いきなり胸揉まない! あんっ! ちょ、ちょっとぉ!!」

「うーん、お姉ちゃんお胸揉んでるの結構好きかも、おっぱいって小さくてもフニフニしてなんか面白いよね~? あれ、なんか硬くなってくるところがある??」

 お湯の中で胸を揉まれちょっと反応してしまう私。


「もう、やめないさいってば!! ら、らめぇえええええぇぇぇえぇっ♡」


 意外と上手なルラ。
 思わず銭湯の中で変な悲鳴を上げてしまう私だった。  
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

処理中です...