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第六章:ドドス共和国

6-25メリーサ

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「う、うぅん……」

「メリーサ! 大丈夫か!?」


 あの後気を失ったメリーサさんを私とルラで慌てて「鉄板亭」に運び込んだ。
 亭主さんもおかみさんも驚き出て来てすぐにメリーサさんの部屋に連れて行き寝かせたけど、どうやら意識を取り戻したみたい。

 豊胸の施術に行って栄養とかが胸に行ったから軽い貧血でも起こしたのかと思っていたけどなんか様子がおかしい。
 いつも元気だったメリーサさんにあるまじき疲労の様子。
 こんなんじゃ誰だって心配になる。


「メリーサ、大丈夫か?」

「うん、ちょっと疲れたみたい。もう大丈夫だよ……」


 そう言いながらメリーサさんはベッドから起き上がろうとするもまだふらつく様で亭主さんが起き上がろうとするメリーサさんをまたベッドに寝かせる。

「メリーサ、無理はするな。今日はもう大人しく寝てるんだ。良いな?」

「……うん、分かった。ごめんねお仕事できなくて」

「いいから寝てろ、とにかくよく休んで回復するんだ。良いな?」

 亭主さんにそう言われて額に手を当てられるとメリーサさんは気持ちよさそうに笑って言う。

「分かった、今日はもう休むね。ありがと、お父さん」

 そう言うメリーサさんは少し落ち着いたようだ。
 私も安堵の息を吐き、ルラと一緒に部屋を出る。


「すまんかったな、しかしメリーサがああなるとは。こんな事は初めてだよ」

「メリーサさん、疲れてたんでしょ。きっとよく休めば回復しますよ」


 一緒に部屋を出てきた亭主さんにそう言って私たちも自分の部屋に戻る。
 豊胸の施術ってそんなに体力使うのかぁ?

 私はその時はそう思っていたのだった。


 * * * * *


 翌朝いつもと同じく朝食を取りに下の食堂へ来るとメリーサさんがいた。


「おはようございます。メリーサさん、もう大丈夫なんですか?」

「お早う、リルちゃん、ルラちゃん。うん、なんかすっきりはしないけどもう大丈夫だよ。ここまで運んで来てくれてありがとうね」


 見た感じは大丈夫そうだったけど何時もみたいに元気がない。
 が、私は見てしまった。
 朝食を準備してくれているメリーサさんのエプロンの胸元にいつもはあったはずのしわが減っている事を!!


「メ、メリーサさん、ちょっと聞きますけど昨日のアレ効いているのですか?」

「リルちゃん、それなんだけどバッチシよ! 今朝起きてみて真っ先に服を脱いで確認したけど確実に膨らんでいたわ!!」


 ぐっ!
 な、何と言う事だ。
 やはり効果絶大と言う事か!?


「その、違和感とか痛みとかは?」

「ないわね。ただ、疲れが抜けないのは事実ね。二回目以降ちょっとお金もかかるけど、体が安定したら二回目を受ける様言われたわ。初回でこんなに疲れるとは思わなかったけど全ての栄養が胸に流れ込んでいるのは感じるわ!」


 何と、そこまでとは……
 私は戦慄を覚えわなわなと言う。


「あの、それってエルフにも効くんでしょうか?」

「ごめん、それは分からないわ。でも分かっている事は今現在でこれは『育乳の女神様式マッサージ』を凌駕する効果があると言う事よ!!」


 カッ!

 がらがらどがっしゃ~んッ!!


 私は思わず背景を真っ暗にして稲妻を落とす。
 それはそれはもう豪快に。

 そこまでか!?
 そんなにいいのか豊胸施術!!


「メ、メリーサさん、五回って言ってましたよね? 豊胸の施術五回で揺れる胸になれるって言ってましたよね!?」

「そう、たったの五回で憧れの揺れる胸よ! 回復してお金貯めたら絶対に次も行くわ、私!」


 ぐっとこぶしを握るメリーサさん。
 私はもう一度メリーサさんのエプロンの胸元を見て思う。

 
 私も行ってみようと!


「ルラ、こうしてはいられないわ。朝ごはん食べたら例のあの店に行くわよ!」

「ん~? あの店って??」

「忘れたの? 胸を大きくしてくれるってあの店よ!!」


 メリーサさんから朝ごはんを受け取りながらルラは自分の胸を見る。


「あたしはこれより大きく無くてもいいや~」

「ルラは良くても私が嫌なの! とにかく行くからね!!」

 一方的にそう言って私は朝ご飯を食べ始めるのだった。


 * * * * *


 朝ご飯を食べ終わって意気揚々とあの店に行って私は驚いた。


「なんでこんなに人が多いの!?」

「うわぁ~、すっごい並んでるね?」

 まだ時間的にも早いはずなのにお城の向こうの市場入り口近くにあるあの豊胸のお店には女性客が列をなしていた。

 見ればみんな女性の悩みが大きそうな人ばかり。
 服の上からでも分かる残念な胸の持ち主たち。

 ……まあ、私もそうなんだけどね。


「あの、すみません。これってあのお店に並んでいる人たちですか?」

「ええそうよ。あら珍しいエルフの方?」

 最後尾と思われる人に聞いてみると肯定されながら驚かれる。


「エルフの方がこのドドスって珍しいわね。もしかしてあなた方も?」

「はい、知り合いがもの凄い効果があったのでちょっと……」


 私がそう言うとその女性もうんうんと頷きながら言う。
 
「最初は眉唾だったけど噂では先着二百名キャンペーンのうち全員が効果が出たそうよ。どんな人でも確実に効果が出るとうたわれているみたいだから私も思わず来ちゃった」

「どんな人にも!? も、もしかしてエルフにも効果あるんですか!?」

 思わず詰め寄ってしまった。
 するとその女性は得意げに言う。

「噂では草原の民たちでも効果があったらしいわよ? 彼らって成人しても子供にしか見えないのに胸大きく成っちゃったら少し違和感あるのだけどね?」

 話には聞いていた草原の妖精たちか。
 私たちエルフと同じく太古の昔に女神様の世界創世で生み出された草原の民。
 成人しても子供にしか見えないと言う彼らは悪戯好きで、でもレンジャーとしての技能は皆とても優秀と聞く。

 しかしそんな彼らにも効果があるとはきっとエルフにも効果があるはずだ!!

 私は有無を言わさずこの列に並ぶことにする。


「お金に余裕はある。足らなければ回収しておいたあのミスリルゴーレムの残骸を売ればかなりのお金になるってカリナさんも言ってたし。もうここはこれに並ぶしかないわね!!」

 光明を見出した気分だった。

 これであのドワーフにもぎゃふんと言わせる事が出来る。
 それどころかシャルさんにも、もしかしたらシェルさんにも負けないくらいになるかもしれない。

 私はウキウキとする。


「お姉ちゃん、本気でこれに並ぶの? だいぶ前に人いるよ??」

「その位なんだって言うの? 並ぶわよ! 絶対に胸を大きくするんだから!!」


 あきれるルラを他所に私は行列に並び続けるのだった。


 * * * * *


「はい、すみません本日の受付はここまでです。申し訳ございませんがまた明日またお越しいただけますようお願い申し上げます。では」

「はいっ!?」


 パタン


 私の目の前でその扉は締め切られ「準備中」の札に変えられる。
 延々と並び続けそしてやっと私の順番になったと思ったら目の前で締め切られた。


「そ、そんな! あれだけ並んだと言うのに!? ちょっと、せめて登録とか初回の施術予約だけでも!!」


 思わずドアを叩いて懇願してしまう私だったけど頑なに閉められたドアは開かれる事は無かった。


「お姉ちゃん、諦めていい加減お昼ご飯食べに行こうよ。何時間も並んで駄目なんだからまた明日朝早く来ればいいじゃないの?」

「くううううぅぅっ!」



 悔やむ私を引っ張ってこの場を離れるルラだったのである。

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