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第六章:ドドス共和国
6-7やっぱ元から
しおりを挟む「『消し去る』!!」
私は空に向かって精霊たちを束縛すると思われる「力」に対してチートスキル「消し去る」を発動させる。
するとその効力が現れてきたようで土砂降りの雨が徐々に弱くなってくる。
「やったっ! 精霊たちを束縛する力が消えた!!」
目に魔力を込めて精霊たちを見るとぐるぐる上空で回っていたそれらは解き放たれたかのように方々へ拡散を始めた。
それと同時に灰色の空もその濃さを薄め始め、雨足がどんどんと弱くなってゆく。
「よくやったリル。これでもうここへ雨を降らせると言う事は出来なくなるわ!」
カリナさんはそう言って薄くなってきた雲を見るけど徐々に眉間にしわを作り始める。
「ちょっと待って、なんか精霊たちが……」
カリナさんがそう言うと止み始めていた雨がまたその雨足を強くし始める。
ざぁーざぁー
「えっ? なんで??」
「リル、空を見てごらんなさい。また精霊たちが集まり始めているわ……」
「ほんとだ、あっちこっちに行ってた精霊たちが戻ってきている!」
驚く私にカリナさんは空を見るように言い、先に空を見ていたルラが精霊たちが戻ってきていると言う。
私は慌ててまた瞳に魔力を込めてみるとカリナさんの言う通りまた精霊たちが集まり始めている。
そしてそれはさっきと同じくぐるぐると回り始めるのだった。
「リルのスキルでもダメという事か?」
「それとも効いていない?」
「いえ、一旦は雲も薄まり雨足も弱くなりました。多分消された力を再度展開してまた雨を降らせているのでしょう。しかし、ここまでの事を出来るとは…… 通常の魔術師では不可能です。カリナ、やはり天候を操るアイテムか何かがあると思われます」
再び降り始めた土砂降りにトーイさんやザラスさんは窓の外を見上げる。
しかしネッドさんは少し考えてその原因を推測する。
「つまり、何度リルのスキルを使っても消せはするけどまた何度もその魔法らしきものを展開できるって訳ね?」
「ええ、多分。リル、もう一度やってみてください」
ネッドさんに言われ私はもう一度チートスキル「消し去る」を使ってみる。
「『消し去る』!!」
手をかざしスキルを発動させると確かにスキルが効果を現した感触はある。
しかししばらくするとまた先程と同じく精霊たちが集まって雲が厚くなり土砂降りへと戻ってしまう。
「やはりそうですか、リルのスキルは効いてますがあちらも何度もその力を展開できるという訳ですね? これではいたちの追いかけっこになってしまう」
「だとすると、その原因自体を止めないといけないと言う事ね?」
ネッドさんは顎に手を当て思案するけど、やっぱりカリナさんの言う通り大元を何とかしないといけない様だ。
「やっぱりギルドも使って情報を集めなきゃだめね。ネッド、古代遺跡でそれっぽいのを当たって。トーイとザラスはギルドに協力して情報収集。それとリル、ルラ」
カリナさんは私たちを見て言う。
「私から離れないでね。もしかしたら本当の目的はあなたたちかもしれないから……」
「え? 私たち??」
「あたしなんかしたの?」
カリナさんは真顔でそう言う。
なんでユエバの街に雨を降らせるのと私たちがその目的にされるのかが分からない。
「リルやルラのスキルってあなたたちが思っている以上に特別なのよ? ジマの国での事忘れたの?」
ジマの国って……
ジーグの民に狙われるかもしれないとか有ったけど、ディメアさんの記録のお陰でそんな事はもう終わったはず。
それ以外にって……
「あーっ! 悪の組織、秘密結社ジュメル!!」
ルラがいきなり声を上げる。
そして拳を目の前に持って来てぐっと握る。
「もしかしてカリナさん、悪の組織のせいなの? あたしが倒さなきゃいけないの? あたしやるよ!!」
言いながら変なポーズを取る。
まるで特撮ヒーローの決めポーズみたいに。
「落ち着きなさいルラ、可能性はあるわ。何せあのジュメルだもの。過去には何度も迷惑な事してきてるしね。だから用心する必要はあるわ」
カリナさんいそう言われ実感がないけどそんなめんどくさそうな連中に目をつけられるのは嫌だなぁ。
私は頷きルラのいくつかの変なポーズを見るのだった。
◇ ◇ ◇
あれから更に三日が経った。
既に一週間以上土砂降りのせいで近隣の川の氾濫もシャレにならなくなってきていた。
おかげでこのユエバの街に流れ込んできそうな濁流は内緒で私のチートスキル「消し去る」で何度か消し去った。
その都度カリナさんは舌打ちをして「またタダ働きだぁ!」とか言ってるけど、やってるのは私でカリナさんは横で見てるだけのはずなんだけど……
「ふぅ~、まだ何もわからないのですかぁ?」
「それらしい遺跡や過去の記述を調べているわ。でもまだ詳しい事は分かっていないわね?」
ネッドさんはギルドや街の資料館などで過去の記述や伝承を調べている。
トーさんやザラスさんも冒険者ギルドでそれらしい情報を掻き集めている。
なのに私が出来るのは氾濫する濁流を消し去ったり、何度か雲やその力を消し去って少しでも雨足を弱めたりとしているくらいだ。
「まったく、やっぱり元をどうにかしないとダメなんだろうけど……」
カリナさんはそう言いながらお酒を飲んでいる。
街もこのままでは食糧が底をつき本当にやばくなってくる。
そう、私たちがため息をついているとネッドさんが沢山のスクロールや本を抱えてやって来た。
「カリナ! ありました!! それらしい記述が!!」
「本当!?」
ネッドさんはテーブルにそのスクロールや本を置いて開く。
そして指さし一つ一つ言う。
「これは伝承とその記録ですが、古代魔法王国時代の最盛期には天候や気候までも操る魔術が存在していました。古代魔法王国は魔法王ガーベルのもと、天秤の女神アガシタ様から授けられた『賢者の石』による無限とも言われる魔力により島を空に浮かす程の力を誇ったらしいのです。そしてその力を使ってこのイージム大陸を人の住みやすい環境にする為に改造をしていた記録がありました。その中の一つ、天候を操る魔道具が存在していたらしいのです」
ネッドさんはそう言ってスクロールを指さす。
そこにはオーブのような物が描かれていて豪華な台座にはめ込まれていた。
台座にははめ込まれたいくつかの小さな宝石のような物が描かれていてそこには何やら古代文字で書き込みが有った。
「この天候を操る魔道具は『賢者の石』から受ける膨大な魔力によってその天候を変えたそうです。台座についている宝石の位置を変える事によりその天候を変えてきたらしいのです」
「そうするとこの雨はその魔道具のせい?」
ネッドさんの説明にカリナさんはそのスクロールの絵を見ながら言う。
「多分そうでしょう。記録にはこのユエバの街の西側にその昔天候を操る塔が有ったとあります。今現在それがまだあるかどうかわかりませんが可能性はあると思います。ただ……」
「ただ?」
「これほどまでの魔道具を操るに何処からそれ程莫大な魔力供給をしているかが分からないのです。『賢者の石』はとうの昔に失われていると聞きます。いえ、『賢者の石』が無くなってしまったからこそ古代魔法王国は一夜にして崩壊したと伝えられています」
ネッドさんのその説明にカリナさんは考え込む。
そして顔を上げ言う。
「トーイとザラスを呼んで冒険者ギルドへ行きましょう。とにかくそれらしい遺跡の情報が欲しいわ」
私たちはまた冒険者ギルドへ行く事にするのだった。
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