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第五章:足止め

5-29大迷宮の入り口

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「う、うぅ~ん……」

 重い頭を押さえながら起き上がる。
 そして気付く。

 また裸だ……

 すぐに周りを確認すると隣のベッドがもぞもぞ動いている。
 自分のベッドを見てもルラがいない。


「カリナさん! 駄目ぇ、ルラに変な事教えないでぇっ!!」


 慌てて飛び起き隣のベッドのシーツを掴んで、ばっ! と引っぺがす。
 するとそこにはやはり裸のルラがいた。

「あ、あれ?」

 ベッドにはルラだけ裸で寝ていた。
 気持ちよさそうにもぞもぞと動いて寝返りをしている。


「ううぅ~ん、なぁにぃ? もしかして一人寝は寂しいの? 仕方ないなぁ、お姉さんが添い寝してあげようかぁ~?」

 聞こえてきたカリナさんの声は私の後ろからした。
 振り返り見ると私の寝ていたベッドの更に奥にもう一つベッドが有ってやはり裸のカリナさんがのっそりと起き上がっていた。

 カリナさんはシーツをはだけその白い肌をカーテンから漏れ出る朝日に照らしながら大きく伸びをしてあくびをする。


「ふわぁああ~ぁ、良く寝たぁ~。リルってそんなに寂しがり屋だったの? 仕方ないなぁ、お姉さんと一緒にもう少し寝る? 色々教えてあげるわよ?」

「結構です! それに私にはそんな趣味はありませんっ!!」 


 自分でもわかるけど顔が赤くなっている。
 しかしカリナさんはそんな私を見て嬉しそうにカラカラ笑っている。

「大丈夫よ、私もそんな趣味は無いわ。ふぁ~ぁ、流石に昨日は飲み過ぎた。寝る前に薬飲んでおいて正解ね。リルも二日酔いにはなってないでしょう?」

 カリナさんはそう言いながら裸のままベッドから降り、近くのテーブルに置いていた自分の魔法のポーチから水筒を引っ張り出しごくごくと喉を鳴らしながら水を飲む。
 口元から少し水が零れ落ち首筋を伝わって胸の方まで水滴が流れるのが何となくいやらしい。

 私は顔を赤くしながらカリナさんの裸から視線を外す。


「カリナさん、なんだかんだ言って昨日も私たちにお酒飲ませましたね?」

「楽しかったでしょ? それに最後に薬を飲ませてやったから二日酔いにはなってなかったでしょう?」


 確かに以前のように頭痛に悩まされる事は無いけど、やっぱり頭が重い。
 恨めしそうにカリナさんを見てもからからと笑っているだけだ。
 まったく、この人ときたら……


「さてと、そろそろ起きて朝ごはん食べてから出発よ? ユエバの街にまでは歩いて行けば一週間近くかかるからね」

 そう言ってカリナさんは下着を穿き胸当てをつけ始めるのだった。


 ◇ ◇ ◇


「ふう、とうとうここまで来たか。しかしこの迷宮の最深部がああなっていたとはな」


 トーイさんは目の前に見えて来た迷宮の入り口を見てそう言う。
 何故かクロエさんとこの迷宮に入って行ったのが昨日のようにはっきりと思い出せる。

 あの後この迷宮の最深部まで行ってコクさんに出会って、エルハイミさんが逃げ出して、そしてジマの国に転移してジーグの民やディメアさんの問題にかかわって、そしてお料理してと……


「なっがい足止めでしたね……」


「本当よ、あんたたちといると厄介事が向こうからやって来て大変なんだからね。まあ、でも楽しかったのは事実だけどね」

「クロさんやクロエさんも強かったねぇ~」

「いやいや、お前らリルとルラのスキルのせいで俺は自信無くしまくってんだが?」

「スキルは仕方ありませんよ。もしかしたらリルとルラのそのスキルが世界を救う日が来るかもしれませんよ?」


 みんなして世界最大の迷宮と呼ばれるコクさんたちが住まう迷宮の入り口を見る。
 本当にいろいろ有った。

 そしてしっかりと魚醤とわさびもゲットしておいた。

 お醤油は貴重なので使いどころを気をつけないといけない。
 だって美味しいからついつい使ってしまうとすぐなくなっちゃうから。


「さてと、何時までも迷宮に思いをはせていても仕方ない、なんか雲行きも怪しくなってきたから先を急ごうかしら」

 カリナさんのその言葉に私たちは迷宮を後にするのだった。


 * * * * *


「うわー、凄い雨!!」


 たまたま通りかかった岩場近くに洞窟が有ったので助かる。
 外は豪雨と言って良いほどの雨が降っている。

「珍しいですね、この時期にここまでの豪雨とは」

「ん? そうかぁ??」

 ルラは洞窟の外を見ながらそう言っている。
 それを一緒にトーイさんとネッドさんも見ながらそんな事を言っている。

 ポーチにしまい込んである薪とかを引っ張り出しながら焚火をして雨が止むのを待つのだけど、昨日の夕方からずっと降っている。


「こんな所で足止めとはね。はぁ、早い所ユエバの街に戻って体を洗いたいわね」

 カリナさんもそう言いながら憂鬱そうに外を見ている。
 確かにもう三日もお風呂に入っていない。
 女性陣は何だかんだ言ってお湯を作って体を拭いてはいるけど、やっぱりしっかりと洗いたいもんだ。
 特に髪の毛なんかいくらエルフでもだんだんべたべたしてくる。
 そんな事を思っているとカリナさんがふと私の頭を見ながら言う。

「そう言えばリルのその髪留め、もしかしてドワーフが作ったモノ?」

「え? ああぁ、これですか……」

 カリナさんに指さされて私は左のおでこの上に付けている髪留めに手を当てる。

「そうらしいですね。これ、トランさんの形見みたいなものなんです…… お祭りで買ってもらって……」

 決して忘れていたわけではない。
 本気で好きになったし、未来の旦那様になるはずだった人。
 でもトランさんはもういない。
 なのにこれだけは外す気になれずにずっとつけている。

「ふぅん、トランのね…… ごめん余計なこと聞いたわ」

「いえ、もうその事で悔やんでも仕方ないですから。だから私とルラはエルフの村に戻ります。トランさんの家族にこの遺髪を届ける為にも」

 そう言って私はポーチからトランさんの遺髪を取り出す。
 久しぶりに取り出したそれは奇麗な金色をしていた。
 まるでさっき切り取ったかのように。

「うん、リルたちに村に連れて行ってもらうのが良いわね。トラン、安らかに眠ってね……」

 カリナさんもそう言ってその遺髪にそっと手を乗せる。


 
 まだまだエルフの村までは遠いけど、絶対に私とルラはエルフの村に戻る。
 そう、もう一度トランさんの遺髪を前に私は思うのだった。 
 
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