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第五章:足止め

5-26とりあえず最後の三品目

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 コクさんたちがいきなり竜の姿になって飛び去ってしまって呆然としていた私たちはその後大騒ぎだった。


 だって本当にいきなりなんだもん。
 まさに思い立ったがでコクさんがあんなに行動派だとは思わなかった。

 で、勿論大騒ぎなのは王族の方々。

 だって国の防衛の要である黒龍事コクさんたちがいなくなってしまうのだもん。
 そりゃぁ誰だって大騒ぎになるわ。


「黒龍様ぁっ!」


 カーソルテ王なんかは、なんか捨てられた子犬のように永遠とコクさんたちが飛び去ったその先を見ている。


「ふう、となると私たちがこのジマの国に滞在する理由もなくなったわね? これでやっとユエバの街に帰れるわね」

 カリナさんはそう言って口元を拭き立ち上がる。
 そして呆然とする王様たちに明日にはここを出て行く事を宣言する。


「ちょっと待ってください! リルさん、あと一品はどうするのですか?」

 そんな私たちに待ったをかけたのは他でもない料理長のリュックスさんだった。
 とりあえずてんぷらやうどん、お豆腐の作り方やそのアレンジ方法なんかも教えてあるから後は試行錯誤して美味しいモノを作ってもらえばいいのではと私は思う。


「えーと、コクさんたちもいなくなってしまった事ですし今までの品でもういいのでは?」

「いやいやいや! リルさんのその独創的な発想、そして初めて味わう味覚の数々! 是非とも最後の一品もご協力願いたい!!」


 ガシッと掴まれ懇願してくるリュックスさんに思わず私はカリナさんを見る。
 するとカリナさんは頭をぼりぼりと掻きながらため息を吐く。

「はぁ、仕方ないわね、リルが最後の一品を作るまで待ちましょう。でもそれが出来たら今度こそユエバの街に帰るわよ? いいわね?」

 びしっと指を突き付けるカリナさんはそう言うのだった。


 * * * * *


「最後の一品と言われてもなぁ……」


 私は厨房に呼ばれて椅子に座って腕を組んで頭を悩ます。
 だって他に思いつくエルハイミさんの好きそうなモノって何だろう?

 そもそもクロエさんの話でエルハミさんがどうやら納豆を食べていた事から多分和食系が好きなのではないだろうかと推測していた。
 だってエルハイミさんって千年以上生きているのだもの、日本だったら何時代の人?
 それに試していないけど日本語だって知っていそうだったし。
 

 あれやこれやと考えているとルラが私に聞いてくる。

「お姉ちゃん、今日は何作るの?」

「何って、そうだルラあんた何か食べたいものある?」

 ずっとくっついて来て一緒に厨房にいるルラに聞いてみる。

 元同じ世界の日本人。
 当時年齢的には離れていても食べている物は似たようなモノだろう。
 だから参考までに聞いてみる。


「う~ん、ハンバーグとかピザとかスパゲティかなぁ~」

「いや、和食で食べたいものって無いの?」


 ルラらしいと言えばらしいのだけど今は和食を考えている訳でそっち系で食べたい物を聞いてみる。
 するとルラもしばらく腕を組んで悩む。

「う~ん、和食ってうどんとかそばとか炊き込みごはんとかお寿司とか?」

「お米無いからお米じゃないやつが良いわね……」

 そう自分で言ってみて今更ながらに日本はお米文化と言う事に気付かされる。
 ご飯ものは勿論、お寿司やお酒、お酢にぬか漬けのぬかなんかもお米が使われている。
 そう言えば納豆もわらで包んで発酵させるはずだからこれもお米が必要になる。
 いや、お味噌だってそうだ。
 確か米麹とか言うのを一緒に混ぜて寝かせるはず。
 となると、お醤油もか……

 改めてお米ってすごい。

 そう言えば白米って食べてないなぁ……


「じゃあ茶碗蒸し! あれまわるお寿司屋さんで必ず頼んでたの!」


「茶碗蒸し?」

 言われて私は茶碗蒸しを思い出してみる。
 基本卵とだし汁さえあれば出来てしまう料理。
 後は好みで具を入れて蒸すだけ。


「茶碗蒸しかぁ…… うどんの汁も作ったから少し違うけどそれを使えば!」

 頷き厨房を見る。
 蒸し器のような道具もあるし、お茶に使うお砂糖入れとかの瀬戸物は蓋つきだ。
 道具関係は大丈夫みたい。

 私は早速茶碗蒸しを作る為の具材を掻き集め始めるのだった。 


 * * * * *


「『茶碗蒸し』ですか?」

「はい、『茶わん蒸し』です。作るのは簡単なので後は蒸す時間が要注意ですね。蒸し過ぎると硬くなるし、時間が短いと固まらないですから」


 リュックスさんにそう言って卵とだし汁、それとエビとかタケノコ、鶏肉にホタテなんかも準備する。


「なになに、また何か美味しそうなモノ考えついたの?」

「ええ、『茶碗蒸し』って言う食べ物です。えーと、プリンみたいな感じですけど甘く無くてしょっぱいんですよ」

 私が何か作り始めたと聞いたカリナさんは早速厨房に来てる。
 
「プリンみたいですか? という事はデザートの様なものですか?」

「ええと、デザートでも良いですね。但し熱いうちに食べる方が美味しいですけどね」

 リュックスさんにそう答えながら私は準備を続ける。
 どうも皆さん想像がつかないようでまだ首をかしげているけど、そう言えばこの世界ってプリンはあるんだ。
 今度食べて見よう。


 私は卵をよく洗ってからボールに割りよく掻き回し始めるのだった。

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