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第五章:足止め

5-11真実

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 カリナさんが御神体から奪い取った水晶はその輝きを増していった。


「な、なにこれっ!? まさか盗賊対策の罠!!!?」

「おいカリナっ!」

「カリナ!!」

「まずい、【魔力妨害】アンチマジック!!」


 驚くカリナさんはその水晶を放り投げる。
 水晶は地面に転がりそれでも発する光を強める。

 まさか転移魔法のトラップとかじゃないよね!?


「みんな、集まって! 万が一転移魔法だったらシャレにならない!!」


 カリナさんのその指示にみんな慌ててカリナさんの近くに集まるもののネッドさんが首をかしげる。

「カリナ、【魔力妨害】が全く効きません。もしかしたら何かの仕掛けが作動するかもしれません!」

「ええぃ、魔法じゃないっての!?」

 カリナさんはそう言って周りを見る。
 しかし特に異変が起こる訳でもなった。

 そして緊張するその中、水晶は輝きを増しその光の中に一人の女性の姿が現れる。


「カリナさん!」

「分かってる、誰っ!?」


 腰から剣を抜きカリナさんはその光の中に現れた女性に問いかける。


『これを見ていると言う事は誰かがここに気付いたのですね? 私はディメア、暗黒の女神ディメルモと黒龍の間に生まれた娘』


 現れた女性はそう言いながら悲しそうに目を閉じ下を向く。

「ディメア? それって遠い過去に自分の子孫に殺されたって言う……」

 確かにその女性をよくよく見ると長い黒髪にまっすぐな角を生やしていた。
 長いドレスのすそからは尻尾も生えているみたい。
 切れ長な目をしていて今のコクさんとは全く感じが違う。
 ただ、見とれるほどの美貌を持ったお姉さんって感じ。


『これは私が最後に残す記憶です。黒龍であるお母様には申し訳ありませんが私はもう耐える事が出来なくなりました……』

 そう言ってディメアさんはゆっくりと語りだした。

「カリナ、これはどうやら水晶に封じ込められた彼女の記憶のようです。よくよく見れば彼女は映像のようです」

「こんなにはっきりしているのに映像? ちょっと、あなたがディメア様てことは分かったけど、なんでこんな所にこんな祭壇が有るのよ?」

 カリナさんはディメアさんにそう語りかけるけどディメアさんは反応しない。
 それどころかゆっくりと何かを語りだした。

「カリナ、これは過去の映像の記録です。ディメア様自身ではないのですよ」

「過去の映像……」

 カリナさんはそう言ってディメアさんの映像を見る。


『私は我が子たち、そしてその孫たちが年老いそして先に死にゆくのが耐えられないのです……』

 映像のディメアさんはそう言い話を続ける。

『女神と女神殺しの竜の間に生まれたこの身はこれ以上老いる事無くそして寿命と言うモノすら感じる事は出来ない。しかし私と人の間に生まれた子供たちは世代をまたぐほど短命となって行った…… 彼ら彼女らはいつも私の手の中で息を引き取りそしてそれがなん百、何千と繰り返されてゆく……』

 そう言う彼女の表情は苦しそうに歪んでいた。
 そして自分の胸を押さえその服を掴む。


『黒龍であるお母様に相談してもそれは天寿と言い、星となった女神である母に神託を乞うてもそれが自然の摂理と言う…… では残されたこの私は一体何なのか!?』


 彼女はそう言いながら涙を流す。

『私は半神半竜のドラゴンニュート。人の姿に近い者でも人ではない。人との間に子をもうけられてもその子はドラゴンニュートではない……』

 それは切実な彼女の告白だった。

『ローグの民に育てられた私は人として生まれたかった。彼らは私に人としての心をくれた。命の短い人はそれでもその生を精一杯生きる。ときには争いもするけどそれは短いその一生を悔いなく駆け抜ける為…… なのに私はずっとそんな彼らを見守るだけ、そして死にゆく彼らを見届けるだけ…… もうそんな辛い思いは沢山です…… お母様、もしこれを見る事が有れば娘の先立つ不孝をお許しください。私は私の命と魂を根絶する為にローグの民に私を殺させます!!』


 なっ!?


 ちょっと待って、それじゃぁディメアさんは子孫やジーグの民に殺されたんじゃなくて自殺を手伝わせたって言うの!?


「ちょ、ちょっと待ってよ、それじゃぁこれはディメア様の遺言!? まさかいつか黒龍様にその思いを見つけてもらう為のモノ!?」


 カリナさんは大いに驚く。

「俺たち人間には分からねえが、寿命が無いってのはそんなにつらいもんか?」

「そりゃぁ、自分の子供が死んでいくっての見るのは辛いわな……」

 トーイさんやザラスさんはそう言いながらカリナさんをチラ見する。
 その視線を受けてカリナさんも黙り込んでしまう。

「とは言え、これはとんでもないものを見つけましたね」

 ネッドさんはそう言いまたディメアさんの記憶を見る。


『竜族はその首と心臓を一度に切り落としそして貫けば再生の秘術を使う前であれば死ねると聞きます。女神である母もその体を焼き尽くされれば肉体を失ったと聞きます。そして私の魂はこの世で霧散すれば全てのモノの魔素となり皆に使われる事となりましょう。私はこの子供たちが築き上げた街が、国が好きです。願わくば竜の言葉である『ジマ』、家族と言う意味の名をこの国に付けて末永く幸せに暮らして欲しい。我が子たちよ、私はずっとあなたたちともにいる。だから私を殺してください。そしてローグの民よ、今まで私に従ってきてくれてありがとう。あなたたちの先祖は私を『人』として育ててくれた。その恩は決して忘れない。だから悲しまずにその刃で私を殺しなさい!』


 そしてディメアさんはこちらを見てにこりと微笑む。


『お母様、どうか私の我が儘をお許しください。そして私に付き従って来たローグの民をお許しください。彼らは私の願いをかなえただけです。お母様、愛してます。この事がお母様に伝わる頃には私はもうこの世にいないでしょう。どうぞお健やかに。さようなら、お母様……』


 そこまで言ってディメアさんの映像は消えた。

 何とも言えない空気が漂っている。
 それは永遠の命を持つ者の宿命。
 そして人としての感情を理解してしまった者の悲しい思い。


「ディメアさん……」


 私はぐっと胸元で拳を握る。

「ふう、とんでもないものを見つけつてしまったわね……」

 カリナさんはそう言いその水晶を拾い上げる。
 そして私たちに向かって言う。


「すぐに黒龍様の元へ戻るわよ!!」




 私たちは無言で頷くのだった。

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