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第四章:帰還への旅

4-33恩人

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「どうしてこうなった……」


 私はお城で貴賓としてそれはそれは盛大に接待されていた。


「リル殿、何か不足なものが有れば是非におっしゃられよ。すぐに準備いたしますぞ」

「あ、は、はい、ありがとうございます……」


 国王のカーソルテ様にそう言われる。

 今私たちは朝食を何故か王族の人と一緒に取っている。
 勿論コクさんも一緒に居る。
 
 そしてほとんど食事に手を付けられないカリナさんたちもいる。


「うわぁ~、この卵焼き美味しい!」


 パクパクもぐもぐ。


 一人ルラだけは平常運転。
 何の気兼ねも無く美味しく朝ごはんを食べてます。


「しかしリルには本当に助けられました。ありがとう」

 食事を終えコクさんがお茶をすすってからそう言う。

「いえいえいえいえっ! た、たまたまです、たまたまですから!!」

 思い切り謙遜するけどコクさんの笑顔が怖い。
 何故かと言うと、私の根底にエルハイミさんもつながっている同質の力があるという事がばれたからだ。


 そう、あの時緊急事態でコクさんの呪いをチートスキル「消し去る」で消してから……


 ◇ ◇ ◇


「どうやら終わったようね? リル、どう言う事かきっちり説明してもらえるんでしょうね?」


 ぎくっ!


 一安心した私の後ろにいつの間にかこめかみに怒マークを張り付けたカリナさんが立っていた。
 そしてそんな私にやはり皆さんが目を向ける。


「リルでしたね、あなたが私の呪いを消し去ってくれたのですか?」

「あ、え、ええとぉ…… そう、です……」

 軽く頭を振りながらコクさんはクロさんに助けられながら起き上がる。
 そして私に顔を向け聞いてくる。


「助けてもらった事には感謝いたします。しかしあの呪いはそうそう簡単には消せないモノ。当時のお母様でさえ必死の覚悟を持ってこの呪いを解いてくれた。それをいとも簡単に…… リル、あなたは一体何者なのですか?」


 コクさんは口調自体はもの凄く静かなのだけど、その迫力が凄い。
 何と言うか私を見る目がやたらと鋭い。
 そしてその瞳にはもの凄く私を警戒する色がある。


「え、えっとぉ……」


「うーん、あたしたちてんせいしゃって言うらしいんだ~」


 私が言い淀んでいるとルラがいきなりそんな事を言い出す。

 しまった、ルラには私たちの秘密の力は極力内緒にするように言ったけど、カリナさんに指摘された転生者については口止めを忘れていた。


「転生者ですか…… しかしジルの村に転生をしていないという事はお母様に関与する人物では無かったと言うのですね? しかし私が感じたあの力、お母様のそれにとても似ていた…… まさか、あなたはお母様の過去にいた妾ですか!?」

「違いますっ!!」


 なんで私がエルハイミさんの妾なのよ!?
 と言うか、やっぱりエルハイミさんってそっち系!?

 うわーわうー!

 絶対に近寄らないようにしないと私やルラもシェルさんのようにエルハイミさんに食べられちゃう!?


「ぜ、前世では多分普通の人でしたよ…… 多分……」

「しかし、それではその力は一体?」

「それは……」

 私は言い淀みカリナさんを見る。
 それに気付いてカリナさんは私に言う。

「何か事情があるみたいね。大丈夫、村にはこの事は伝えないわ」

 カリナさんはそう言ってくれた。
 多分私がこんな力を持っている事を村に伝えられるのが嫌だって分かってもらえたようだ。

 なので仕方なく私はぽつりぽつりと話始めた。


「その、私たち双子は死んであの世でエルハイミさんそっくりな女神様に出会いこの世界に転生する時に特別に力を授かりました。私が『消し去る』力でルラが『最強』の力です。でも、そんな力あるなんて知られたら村から追い出されちゃいそうで……」


「エルハイミさんそっくりの女神様?」

 私の話を聞いてカリナさんは首をかしげる。
 まあ、実際にこの世界ではエルハイミさんが女神様やってるのだからこう聞くとおかしく感じるだろう。
 でも断言できるのはあのエルハイミさんは「あのお方」であってエルハイミさんではない。

 なんかちょっとややこしいけど、あの時「今は別の世界の女神の姿を借りています」と言っていた。
 意思疎通をする為にエルハイミさんの姿を借りていたというのだけど、どう見ても駄女神にか見えない。
 本当は凄い力を持っているのに。


「お母様にそっくりな女神様…… もしや『あのお方』とお母様が仰る存在ですか?」

「良くは分かりませんが多分そうだと思います……」

 どうやらコクさんはその事を知っていたようだ。
 するとコクさんは私を見る目つきが変わる。


「お母様の魂にシェルが隷属しているのはまあ許すとしますが、お母様の魂の上位に繋がる『あのお方』に会い、そしてそのお力の一端を授かっていると言うのですね……」


 更にコクさんの私を見る目が厳しくなる。

 な、なんかまずい事言った?
 もしかしてそれってコクさんにとって良くない事なの?


「うらやましい! ああっ! お母様の更に上位である『あのお方』との繋がりが有ればお母様に言う事を聞かせる事も出来るかもしれないと言うのに!! お母様が逃げ出した後にどれだけ念話を使っても切断して話も出来ないと言うのに!! もし魂の上位であれば無理やりにでもお母様に話が聞けると言うのに!! リルさん、それ私にください!!」


 コクさんは私の肩に両手を付きがくがくと揺さぶる。


「ちょ、ちょっとコクさん!?」

「う~ら~や~ま~しぃ~!!」


 ちょっと涙を浮かべて本気で私を揺さぶるコクさんをなだめるのにだいぶ時間がかかったのは言うまでも無かった。


 ◇ ◇ ◇


「さて、今後ですが本来ならジルの村に私は向かおうと思っていました。竜の姿になり飛んで行けば数日で着くでしょう。しかし問題が出来ました。ジーグの民は『ジュメル』と言いました。まさかあの連中がこの時代にも生き残っていたとは…… そしてあの呪い…… あの呪いの術式を保有するとはジュメル自体もだいぶ力を取り戻し始めたという事でしょう」


「ジュメル?」

 聞いた事の無いその名に私は首をかしげる。
 するとカリナさんはその名に反応する。


「まさか、ジュメルと言えばとうの昔にその組織はエルハイミさんたちに壊滅に追いやられたはず! あの連中がこの時代に暗躍していると言うのですか黒龍様!?」


「今まで私に対して復讐をする手立てが無かったジーグの民が動いたのです、間違いありません」

 コクさんのその言葉に私はカリナさんを見る。
 勿論トーイさんやザラスさん、ネッドさんもカリナさんを見る。

 カリナさんはコクさんを見ると、コクさんは無言で頷く。
 そしてカリナさんはジュメルに対して語り始めた。

「ジュメルって言うのはこの世界の裏で暗躍している秘密結社なのよ。千年前にこの世界を滅ぼそうとしたとんでもない組織。それがこの時代にも残っていただなんて……」

 ジュメルって秘密結社でそんなとんでもない事をしていた組織なんだ。
 ちらっとルラを見ると「秘密結社」って言葉になんかやたらと興奮している。


「どちらにせよジーグの民をどうにかするまであなたたちにはこのジマの国に滞在してもらいます。今回の件、多分リルたちの事もジーグの民に知れ渡ったでしょう。ジーグの民の矛先が何時あなたたちに向けられうかわかりません」


 ええっ!?
 なにその厄介事!


 思わず私はカリナさんを見ると完全にあきらめ顔でいる。
 そして私を見る目が語っている。

―― 厄介事に首突っ込みやがって ――

 と。
 


 私は思わずカリナさんから視線を外すけど、当分ここに滞在しなければならなくなってしまうのだった。

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