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第四章:帰還への旅
4-30ジマの国の過去
しおりを挟むコクさんは遠い目をしながらその昔、この国に何が有ったかを語り始めた。
それは神話の時代にまでさかのぼる。
その昔この世界にはまず十人の女神様が存在した。
その女神様たちは「女神戦争」と言う大戦争を起こしてその実体をことごとく討ち滅ぼされ天界に有る星座にその魂を移したとされている。
しかしその神話は本当だった。
コクさんが仕えていた暗黒の女神ディメルモ様も体を失い天界の星座へとその魂を移していた。
「ですから私の元主様である暗黒の女神ディメルモ様との間に生まれたディメアを私は大切にしていたのです……」
コクさんはそう言って自分のお腹を擦る。
「初めてでした、自分が再生する以外に卵を産むことになるとは」
えーと、やっぱり竜だから卵から孵化するんだ。
そうするとクロさんやクロエさんもそうだったのかな?
「しかし、そのディメアは自分の子孫に殺されてしまったのです。人と交わって出来た自分の子孫に……」
そう言うコクさんの顔はとても寂しそうだった。
コクさんは一旦うつむきそして話を続ける。
それはこんな話だった。
当時暗黒の女神ディメルモ様との間に娘のディメアが生まれ、初めての事にコクさんもディメルモ様も右往左往したとの事。
そんな中、もともとコクさんの配下にいたローグの民の中から専属でディメアさんに付き人として何人かの人たちをつけたらしい。
そしてその育成等を任せる事にした。
何せ子育てをした事が無かったからどうしていいのか全く分からず、人族である彼らの方がそう言った方面で優秀だった。
ディメアさんをお世話するその人たちは代々ディメアさんに仕え、そして「ジーグの民」と呼ばれるようになった。
人に育てられ、人が仕えていたせいもあり最終的にはディメアさんは人と仲良くなり、交わり子を宿し、そしてその子らを見守ったとか。
「しかし私とディメルモ様の血を引くディメアは老いる事無く、自分の子供たちが老い死んでゆくのが耐えられなかったのです」
どきっ!
それは私たちエルフにも言える事だった。
どんなに親しい人が出来ても同族でもない限りその人たちの方が先に逝ってしまう。
取り残される寂しさはまだ理解できないけど、なんとなく分かるような気がする。
「故にあの子は優し過ぎたのです。まさか自分が愛したジーグの民に殺されることになるとは……」
「ジーグの民がディメアさんを殺した!?」
私が驚きそう言うとコクさんは静かに頷く。
そして私を見つめて言う。
「だから私はジーグの民を根絶やしにしたのです、我が愛しきディメアを殺した罪、その一族を全て焼き殺す事に。しかし、彼らは生き残った。そしてきっと私のその復讐を恨んでいる。今回のこれも私のそばからお母様がいなくなる機会をずっと狙って!」
コクさんはそこまで言って私の影にその爪を伸ばし刺す。
ざくっ!
「えっ? な、なにっ!?」
「ベルトバッツ、クロ、クロエよ! 彼女の陰に潜む賊を捕らえよ!!」
「「「御意!」」」
コクさんがそう声を張り上げると消えてなくなったはずのベルトバッツさんがいきなりコクさんの影から飛び出て、静かに控えていたクロさんやクロエさんが動き出す!
「なっ!?」
「うわっ! お姉ちゃんの影が!!」
あまりの事について行けず呆然とたたずむ私の影が揺らぎコクさんに貫かれた片腕を引きちぎってあの黒づくめが飛び出て来た。
「おのれ黒龍! せめて一太刀でも!!」
そう言ってコクさんに飛び掛かろうとする黒づくめ。
しかし黒ずくめがコクさんに届く前にバルトバッツさんやクロさん、クロエさんが黒ずくめを阻止する。
「させぬでござる!」
ベルトバッツさんがクナイのようなモノを投げつけその動きを妨害する。
「ドラゴンクロー!」
「ドラゴン百裂掌!」
そしてドラゴンニュートであるクロさんとクロエさんが必殺の一撃を黒ずくめに叩き込む。
「ちっ!」
きんっ!
ききんっ!
黒ずくめはベルトバッツさんのクナイを弾き、それでもコクさんを襲おうとする。
ざしゅっ、ずばっ!
ガ、ガガガガガガがががっ!!
だけどクロさんとクロエさんの技が入りその四肢を切られ、黒い流星のような線がその体に吸い込まれバラバラに引き千切られてゆく。
黒ずくめは最後に口元を覆う布をはだけさせその口から何かをコクさんに吹き付けようとする。
私はそれがとてつもなくヤバいモノと何故か感じ、チートスキルを使ってしまう。
「だめっ! 【消し去る】!!」
不意を突かれたそれはコクさんに届く寸前で消え去り無くなってしまった。
それを見た黒ずくめは無念そうな言葉を残し最後にクロエさんの一撃でその頭を潰す。
「くそっ、あと一歩で黒龍に呪いがかけられたものを! 口惜しやっ!」
ぐしゃっ!
「黒龍様! 御怪我はありませぬか!?」
「黒龍様!」
クロさんとクロエさんが慌ててコクさんに駆け寄る。
しかしコクさんは私をじっと見ている。
「確かリルと言いましたね…… 今のその力、お母様と同じ匂いがします。あなたは一体何者なのですか?」
コクさんはそう言いながらずいっと私に近づいてくるのだった。
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