70 / 437
第四章:帰還への旅
4-29呼び出し
しおりを挟む扉の下からにじみ出てきたその銀色の液体はそのままスライムのように起き上がった。
「ちっ! なんだかわからねぇが下がれリル、ルラ!!」
ザラスさんは剣を抜き構える。
こんな訳の分からないモノがいきなり現れたのだ、店の亭主さんも武器を構えている。
が、目の前でそれはだんだんと人の形になってそしてベルトバッツさんになった。
私たちが唖然とする中、ベルトバッツさんは外装の色も人のそれになり私たちに向かって言う。
「見つけたでござる、エルフの御二方!」
「あ、あんたは確か黒龍様の僕の……」
「ベルトバッツさん!?」
「あ~、あのうみょーんの人だ!」
最初は何かと思ったけど、よくよく考えるとこの人がこんな登場の仕方は二回目だった。
コクさんの僕でローグの民とか言う忍者っぽい人(?)。
……で良いんだよね?
そんなベルトバッツさんがいったい何の用だろう?
「実は黒龍様が黒づくめの輩についてそちらのエルフの姉妹殿に話を聞きたいと仰っているでござる。申し訳ござらんがご同行願えんでござるか?」
言いながらあのスキンヘッドを私たちに下げる。
なんかいきなりとんでもない事言い出した!?
「あの、コクさんが黒づくめについて私たちに聞きたいって…… 私たちだって詳しいわけじゃ……」
「そこを何とかでござる!」
ずいっと出たベルトバッツさんはその場でしゃがんで土下座して私たちに頭を下げる。
「ちょ、ちょとぉベルトバッツさんやめてください!」
「うわぁ~土下座だぁ~」
これって実際にされるとものすごく恥ずかしい。
何故かものすごく恥ずかしい。
何なのこの罪悪感?
「黒龍様は姉妹殿にどうしても聞きたいこともあると言っているでござる。どうか、どうか拙者の顔に免じて来ていただけぬでござらんか!?」
微動だにしないでそう言うベルトバッツさんに私とルラは顔を見合わせてしまうのだった。
* * * * *
「それで私たちまで巻き込まれて一緒に黒龍様の所へ戻るってことぉ? ちょっとリル、ルラこっち来なさい!!」
そう言ってカリナさんは私たちの首根っこ掴んでベルトバッツさんから見えにくい所へ行く。
私とルラはカリナさんに端っこまで連れられて行ってコソコソと話を始める。
「一体どう言うつもりよ? 首突っ込んじゃ駄目って言ったでしょ!?」
「首なんか突っ込みたくありませんってば! あっちから来ちゃったんですよ!」
「うみょ~んの人土下座したんだよ、一緒に来てくれ~って」
カリナさんたちと合流して事の経緯を話すと、カリナさんたちも一緒に来てくれと頼まれる。
流石にコクさんの僕と言う事もありカリナさんたちも断り切れずに私たちと一緒にまたお城に戻る羽目になったのだけど、やっぱり怒っちゃうよね?
「ううぅ、黒龍様には逆らえないし、あんたらを見離す訳にもいかないし…… ああぁ、もうぅっ!!」
頭を抱えて左右に振りながらカリナさんはがっくりと肩を落としベルトバッツさんの前にまで行く。
そして渋々言う。
「べ、ベルトバッツさん、黒龍様っていったい何用で私たちなんか呼ぶんでしょうーか?」
「黒龍様はそこのエルフの姉妹殿を襲った者について詳しく聞きたいのと、最後に逃げて行った者の特徴について聞きたいそうでござる。それと貴殿たちにも実際に冒険者ギルドで話したことについても聞きたいと仰っているでござる」
「えーと、ベルトバッツさんにその特徴とか教えただけではだめですか?」
「これは黒龍様のご命令にござる。拙者では役不足にござるよ」
カリナさんは引きつった笑顔を顔に張り付けながらベルトバッツさんに話すも、ベルトバッツさんのお願いが変わる事は無かった。
まあ、仕方なよね。
なので一緒にお城に行く羽目になるのだった。
* * * * *
「よく来てくれました。二人とも今回は災難でしたね」
お城に行くと大きな客室に通されソファーでお茶を飲んでいるコクさんの所へと連れられて行った。
既にクロエさんやクロさんもいつもの人の姿でコクさんの後ろに控えていた。
お城の給仕の人にお茶を出されコクさんの勧めで私たちも席に着く。
「それでは黒龍様、拙者はこれにて」
「うむ、ご苦労であった。下がってよい」
コクさんがそう言うとベルトバッツさんは体の色を銀色に変えてからその場で崩れるように液体になって消えていった。
うーん、何度見ても人じゃないよね?
私は消えゆくベルトバッツさんを見てからコクさんに聞いてみる。
「あのぉ~それでコクさん、私たちに聞きたい事って言うのは……」
一応カリナさんたちもお茶を出されて席についている。
ただカリナさんたちは蛇に睨まれたカエルの如く額に脂汗をびっちりかいてぎこちない笑顔を張り付けて固まっているけどね。
「ふむ、あなたたち二人を襲った者ですが、カーソルテたちから聞いた話ではベルトバッツたちとよく似た装束を着ていたのですね?」
「え? ああぁ、そう言えばよく似ていましたね……」
言われてみれば襲って来たあの黒づくめの連中ってベルトバッツさん同様忍者みたいな格好でもあった。
アサシンってカリナさんは言ってたけど、どちらかと言うと忍者っぽいって感じの方が強い。
今まであまり気にはしてなかったけどコクさんに言われてみればそうだった。
「あなたたちが撃退した二人は捕まってしまうと仲間から口封じで殺された。そうに違いはありませんね?」
「はい、ただ先に私やルラの方が襲われましたが……」
あの時はルラが気付いてくれたから助かっていたけど、ルラのチートスキル「最強」が無かったら危なかったかもしれない。
私が思い出しながらそう言うとコクさんはカップを置いてため息をつく。
そしてどこか遠くを見るような感じでつぶやく。
「やはりディメアに付いて行ったジーグの民たちのようですね……」
「ディメア? ジークの民??」
コクさんのつぶやきに思わず聞き返す私。
一体何なのだろうか?
するとコクさんは悲しそうな表情でこちらを見る。
「業深き者たちです。そして私を恨む者たちでもあります……」
コクさんはそう言って静かに語りだしたのだった。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる