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第四章:帰還への旅

4-29呼び出し

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 扉の下からにじみ出てきたその銀色の液体はそのままスライムのように起き上がった。
 


「ちっ! なんだかわからねぇが下がれリル、ルラ!!」

 ザラスさんは剣を抜き構える。
 こんな訳の分からないモノがいきなり現れたのだ、店の亭主さんも武器を構えている。

 が、目の前でそれはだんだんと人の形になってそしてベルトバッツさんになった。
 私たちが唖然とする中、ベルトバッツさんは外装の色も人のそれになり私たちに向かって言う。


「見つけたでござる、エルフの御二方!」


「あ、あんたは確か黒龍様の僕の……」

「ベルトバッツさん!?」

「あ~、あのうみょーんの人だ!」


 最初は何かと思ったけど、よくよく考えるとこの人がこんな登場の仕方は二回目だった。
 コクさんの僕でローグの民とか言う忍者っぽい人(?)。
 ……で良いんだよね? 

 そんなベルトバッツさんがいったい何の用だろう?


「実は黒龍様が黒づくめの輩についてそちらのエルフの姉妹殿に話を聞きたいと仰っているでござる。申し訳ござらんがご同行願えんでござるか?」

 言いながらあのスキンヘッドを私たちに下げる。
 

 なんかいきなりとんでもない事言い出した!?


「あの、コクさんが黒づくめについて私たちに聞きたいって…… 私たちだって詳しいわけじゃ……」

「そこを何とかでござる!」


 ずいっと出たベルトバッツさんはその場でしゃがんで土下座して私たちに頭を下げる。


「ちょ、ちょとぉベルトバッツさんやめてください!」

「うわぁ~土下座だぁ~」


 これって実際にされるとものすごく恥ずかしい。
 何故かものすごく恥ずかしい。

 何なのこの罪悪感?


「黒龍様は姉妹殿にどうしても聞きたいこともあると言っているでござる。どうか、どうか拙者の顔に免じて来ていただけぬでござらんか!?」


 微動だにしないでそう言うベルトバッツさんに私とルラは顔を見合わせてしまうのだった。


 * * * * *


「それで私たちまで巻き込まれて一緒に黒龍様の所へ戻るってことぉ? ちょっとリル、ルラこっち来なさい!!」


 そう言ってカリナさんは私たちの首根っこ掴んでベルトバッツさんから見えにくい所へ行く。
 私とルラはカリナさんに端っこまで連れられて行ってコソコソと話を始める。


「一体どう言うつもりよ? 首突っ込んじゃ駄目って言ったでしょ!?」

「首なんか突っ込みたくありませんってば! あっちから来ちゃったんですよ!」

「うみょ~んの人土下座したんだよ、一緒に来てくれ~って」


 カリナさんたちと合流して事の経緯を話すと、カリナさんたちも一緒に来てくれと頼まれる。
 流石にコクさんの僕と言う事もありカリナさんたちも断り切れずに私たちと一緒にまたお城に戻る羽目になったのだけど、やっぱり怒っちゃうよね?


「ううぅ、黒龍様には逆らえないし、あんたらを見離す訳にもいかないし…… ああぁ、もうぅっ!!」


 頭を抱えて左右に振りながらカリナさんはがっくりと肩を落としベルトバッツさんの前にまで行く。
 そして渋々言う。


「べ、ベルトバッツさん、黒龍様っていったい何用で私たちなんか呼ぶんでしょうーか?」

「黒龍様はそこのエルフの姉妹殿を襲った者について詳しく聞きたいのと、最後に逃げて行った者の特徴について聞きたいそうでござる。それと貴殿たちにも実際に冒険者ギルドで話したことについても聞きたいと仰っているでござる」

「えーと、ベルトバッツさんにその特徴とか教えただけではだめですか?」

「これは黒龍様のご命令にござる。拙者では役不足にござるよ」


 カリナさんは引きつった笑顔を顔に張り付けながらベルトバッツさんに話すも、ベルトバッツさんのお願いが変わる事は無かった。
 まあ、仕方なよね。


 なので一緒にお城に行く羽目になるのだった。


 * * * * *


「よく来てくれました。二人とも今回は災難でしたね」


 お城に行くと大きな客室に通されソファーでお茶を飲んでいるコクさんの所へと連れられて行った。
 既にクロエさんやクロさんもいつもの人の姿でコクさんの後ろに控えていた。
 お城の給仕の人にお茶を出されコクさんの勧めで私たちも席に着く。


「それでは黒龍様、拙者はこれにて」

「うむ、ご苦労であった。下がってよい」

 コクさんがそう言うとベルトバッツさんは体の色を銀色に変えてからその場で崩れるように液体になって消えていった。


 うーん、何度見ても人じゃないよね?


 私は消えゆくベルトバッツさんを見てからコクさんに聞いてみる。

「あのぉ~それでコクさん、私たちに聞きたい事って言うのは……」

 一応カリナさんたちもお茶を出されて席についている。
 ただカリナさんたちは蛇に睨まれたカエルの如く額に脂汗をびっちりかいてぎこちない笑顔を張り付けて固まっているけどね。


「ふむ、あなたたち二人を襲った者ですが、カーソルテたちから聞いた話ではベルトバッツたちとよく似た装束を着ていたのですね?」

「え? ああぁ、そう言えばよく似ていましたね……」


 言われてみれば襲って来たあの黒づくめの連中ってベルトバッツさん同様忍者みたいな格好でもあった。
 アサシンってカリナさんは言ってたけど、どちらかと言うと忍者っぽいって感じの方が強い。
 今まであまり気にはしてなかったけどコクさんに言われてみればそうだった。


「あなたたちが撃退した二人は捕まってしまうと仲間から口封じで殺された。そうに違いはありませんね?」

「はい、ただ先に私やルラの方が襲われましたが……」


 あの時はルラが気付いてくれたから助かっていたけど、ルラのチートスキル「最強」が無かったら危なかったかもしれない。
 私が思い出しながらそう言うとコクさんはカップを置いてため息をつく。
 そしてどこか遠くを見るような感じでつぶやく。


「やはりディメアに付いて行ったジーグの民たちのようですね……」

「ディメア? ジークの民??」


 コクさんのつぶやきに思わず聞き返す私。
 一体何なのだろうか?

 するとコクさんは悲しそうな表情でこちらを見る。


「業深き者たちです。そして私を恨む者たちでもあります……」


 

 コクさんはそう言って静かに語りだしたのだった。

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