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第四章:帰還への旅
4-11冒険者の町
しおりを挟むカリナさんに助けられてから数日が経っていた。
そろそろユエバの町に着くらしい。
「はぁ~、リルのご飯がこれで食べられなくなるのって残念ね」
「いや、町に着けばちゃんとした食事が出来るのでは?」
カリナさんと並んで歩きながらそんな話をしているとカリナさんはこちらを見てぐっと近づいてくる。
「リルのご飯の方がおいしいのよ! 一体どう言う事? あなた本当に十五歳なの?」
「近いです、近いですってば!」
鼻と鼻がくっつきそうな位近づくカリナさん。
ユエバの町ってそんなに食べ物がおいしくないのかな?
「カリナは長生きしているから美味いモノにだけはうるさいんだよな」
「そうそう、下手な果物持って来ても怒るしな」
トーイさんやザラスさんは笑いながらそう言う。
「当り前じゃないの、エルフの長い人生で人間の世界で一番の楽しみは冒険で働いてその代価で美味しいお酒と食事をする。これこそ充実したエルフ生よっ!!」
あー、分からなくもない。
あの村でのあの食事にたったの十五年でも嫌になっているんだもん。
カリナさんはどうやら二千歳近いらしい。
どれだけ長い間エルフの村にいたかは知らないけど人間の世界が長ければこっちの生活に慣れちゃうもんね。
と、私はカリナさんに聞く。
「そう言えばシェルさんって一体何なんです? シャルさんのお姉さんで女神様の伴侶だなんて…… あれ? そう言えばシェルさんの好きな人って確かエルハイミさん? じゃあなんで『女神の伴侶』なんて呼ばれているんだろう?」
シェルさんについて詳しく聞こうと思って途中から変な事に気付き疑問がわく。
するとそんな私にカリナさんは変な顔をして言う。
「え? だってエルハイミさんが今の女神様でしょ? 人前に出てくる時は大人の姿になっているけど」
「え”!?」
私はカリナさんのその言葉に油が切れた機械人形のように首をぎぎぎぃっと鳴らして顔を向ける。
「エ、エルハイミさんが女神様!? だって、エルハイミさんって魔法使いなんじゃ……」
「うーん、私も初めて会った時はまだ人間で魔法使いだったけど、いつの間にか女神様になっていたのよねぇ~、確か千年くらい前だったっけかな?」
今度は私がカリナさんの顔に鼻がくっつきそうな位近づいて聞く。
「じゃあシェルさんってエルハイミさんのお嫁さんで妊娠しちゃうんですか!?」
「近い近い! それは分からないわよ。でもシェルのやつ何時もエルハイミさんにべったりだし今は女神様なんだから子供くらい作れるんじゃないの?」
カッ!
ガラガラガッシャ~ンッ!!
私はそれを聞いて思わず背景を真っ暗にして稲妻を落とす。
それほど衝撃な出来事だった。
「エ、エルハイミさんが女神様? あ、あの駄女神が言っていた『別の世界の女神の姿を借りている』と言うのはエルハイミさんの事だったのかぁっ!?」
衝撃の事実。
しかしそうするとあの駄女神って一体何者?
前世の私たちの世界とこの世界の両方の事をよく知っているし、こっちの世界に転生させるときにもの凄いチートスキルも付けるし……
「お姉ちゃん、魔物だよ!」
考え込んでいるとルラが警告の声を上げる。
慌ててそちらを見ると茂みをかき分けて身の丈二メートル以上はありそうなクマが出てきた。
「グリズリーか!」
ザラスさんはそう言って真っ先に剣を抜き前に出る。
それをサポートする形でトーイさんも剣を抜き威嚇に入る。
「守りの魔法を使います! 【防御魔法】プロテクション!」
ネッドさんもすぐに呪文を唱えて前衛の二人の防御力を上げる。
そしてそれを見たカリナさんは精霊魔法を発動させる。
「風の乙女よ、我が前に立ちふさがる敵を切り刻め!!」
カリナさんの精霊魔法は流石に上手で、魔力を込めた私の瞳には一度に数体もの風の精霊シルフがやって来て、立ち上がりこちらを威嚇するクマを切り刻んだ。
ざしゅ!
バシュっ!!
『がぁおぉおおおおおぉぉぉっ!!』
大きなクマはいきなり体中にかまいたちのように切り傷が現れ驚き踵を返して茂みの中に逃げ込む。
「あっ! クマが逃げた!!」
それを見たルラは追わなくて良いのか騒いでいるけど、カリナさんは戦闘態勢を解いてあっけらかんという。
「別に必ず殲滅する必要はないわ。あのクマだって生きる為に獲物を取っているのだから。まあそれでも立ち向かうなら容赦しないけどね」
「いちいち小物相手に本気になっていたらキリが無いしな」
「まあ、何時もの事だ」
「あのクマも人の味を知らなければ今後は警戒して人を襲うのをためらうでしょう。これ以上は何もしなくても良いでしょうね」
そう言って何事も無くまた歩き出す。
流石にユエバの町の上級冒険者だ。
少しびっくりして私とルラは顔を見合わせてから皆さんの後を追うのだった。
* * * * *
「さあ着いたわよ、ここがユエバの町よ」
カリナさんに言われ私たちはその町を見る。
勿論レッドゲイルほどは大きくはなかったけどそれでもその周りを囲む城壁は立派なモノだった。
何処の町や村も最低この位の大きさの城壁に囲まれているらしい。
「ここにキャラバンが立ち寄るつもりだったんだ…… ネコルさんたち無事かなぁ……」
私はキャラバンで知り合った人たちの安否を心配している。
「取りあえず商業ギルドに行ってキャラバンの件を伝えないとな。その後はクエスト成功の報酬を冒険者ギルドに行って受け取らないとな」
「冒険者ギルドの方は私が先に行ってくるわ。トーイは商業ギルドに連絡を入れてやって。もしかしたら逃げ出した商隊の人間や護衛の人たちがユエバに来ているかもしれないからね」
トーイさんとカリナさんがそう言うのを聞いて私は思わず声を上げる。
「キャラバンの人が生きているんですか!?」
「リル、それは分からないわ。でも私たちより先にここへ保護を求めて逃げ込んだ人がいるかもしれないわ。商隊の人なら真っ先に商業ギルドに行くでしょうからね」
そう説明してくれるカリナさんに私はトーイさんに付いて行って商業ギルドに行く事にする。
もし皆さんが生き残っていたなら確認をしたい。
「いいけど、せっかく町に戻って来たのだからこの後一緒に食事位しましょうよ?」
「はい、それじゃあ行ってきますねカリナさん!」
私とルラはそう言ってトーイさんにくっついて行ってまずはこの町の商業ギルドに向かうのだった。
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