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第四章:帰還への旅

4-7カリナ

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「のわっきゃぁあああああぁぁぁぁぁっ!!」

 
 私はグリフォンに捕まり空高くにいる。
 がっしりと掴まれたその鷲の脚は大きくて強力だった。

 既に眼下には小さくなったルラが大騒ぎしながらグリフォンを殴り飛ばしこちらに駆けて来るけど何十匹もいるグリフォンに阻まれなかなかこちらに向かえない。

 私は私を掴んでいるグリフォンを見る。

 大きな嘴、獰猛そうな目、どう考えても食べられちゃいそうだった。


「わ、私なんか食べても美味しく無いって! 離して、嫌ぁっ!!」


 こんな事でこのエルフの人生も終わるのか?
 この化け物に美味しく私は食べられてしまうのか?

 冗談じゃない!

 
「そんなの嫌ぁああああああぁぁぁっ!!」


 じたばたと足を振ってみても空中なのでどうにもならない。
 両の腕ごと掴まれているので腕はほとんど使えない。

 何とか逃げ出そうと必死に考えても空の上ではどうにもならない。
 風の精霊にお願いしようにもこんな化け物に通用するのだろうか?

「くうぅ、『消し去る』を使うにも今下手に使ったら地面までまっさかさまだし!!」

 勿論チートスキル「消し去る」を使う事も考えたけど、今こいつを消し去ったら私が地面に叩き付けられてしまう。
 いくら身軽なエルフだってこの高さから落ちたら致命傷になる。

「いったどうしたら……」

 何処かに連れ去られてそこでおいしく食べられちゃうのだろうけど、もしこいつの仲間がいたら一斉に襲われてチートスキルを使う間も無くなってしまうかもしれない。

 私は焦る気持ちでいっぱいになって来る。
 しかし空中ではどうしようもない。
 連れ去られてだいぶ経つので既にルラたちの姿は見えない。

 と、空を飛ぶこいつがいよいよ地面に近づいた。
 ここで私を食べるつもりか?

「こうなったら飛び降りられる高さまで来たら『消し去る』を使ってこいつを……」

 この化け物を私の力で「消し去る」為に集中をする。
 化け物全体を認識してそして消し去る為に照準を定め飛び降りてもケガをしない高さまで待って……

 そう私が機会をうかがっていた時だった。


 ひゅんっ!


 とすっ!


『ぴぎゃぁああああああぁぁぁぁぁっ!!』


 それは一本の矢だった。
 矢は降下し始めたグリフォンの左目を見事に射抜き、その衝撃で私を掴む足の力が緩む。


「へっ?」


 緩んだはいいがまだまだ高度が高い。
 しかし痛みに暴れるグリフォンは私を放してしまう。

「ちょっ」

 こうなってくると物理の法則が恨めしい。
 いや、生前は体重計に乗る時も同じだったが私は見事にグリフォンから解き離れて地面に向かって落下し始める。


「のひゃぁあああああぁぁぁっ! こんな事なら最後にルラに内緒で買ったチョコ食べておけばよかったぁ!!」


 シーナ商会でガレント王国の上流階級でしか出回らないというチョコレートを入手していた。
 確かにいいお値段で、何かのお祝いとかで食べようと買っておいたのに。

 命の危険だってのに私は何故かそんな事を思っていた。


 ふわっ!


「えっ!?」


 どうしたらいいか考えがまとまらず地面が近づいて来て慌てる私を風が包み込みその落下速度を一気に落とす。
 そして地面が目の前に来る頃には体が浮いているのではないかと言うくらいゆっくりと足が付いた。


「大丈夫あなた!?」


 聞こえてきたのは何とエルフ語。
 私は驚き声のした方を見るとひとりのエルフの女性が弓を持ってこちらを見ていた。


「カリナ、話は後だ! グリフォンがこちらへ来たぞ!!」


 向こうからそう声がする。
 見れば数人の男の人たちが武器を片手に空から飛来してくるグリフォンを見ている。


「分かっているわ! あなた、大丈夫なら下がっていて!!」


 そう言ってエルフの女性は弓を構えそれを解き放つ。
 その矢はまるで魔法の矢のようにグリフォンの残ったもう片方の瞳に吸い込まれる!


 とすっ!


『ぴぎゃぁああああああぁぁぁぁっ!!!!』


 怒り狂ってこちらを襲いに来たグリフォンは両の目をつぶされ怒りに狂う。
 周りに鷲の爪をめちゃくちゃに振りまわし、くちばしをバチンバチンと音を立てて周りを威嚇するように突きまくる。


「よしっ! 一気に畳み込む!!」

「おうよ!」

「【拘束魔法】バインド!!」


 エルフの女性の仲間の人たちらしき冒険者風の人たちは一気にグリフォンに襲いかかりやがてグリフォンの動きは止まる。

 思わずその光景に呆気にとられていた私だったけど、弓を放ったそのエルフの女性がやって来てエルフ語で話しかけて来た。


「あなた、大丈夫だった? 怪我とか無い? 見た感じ随分と若いようだけどこんな所でどうしたの?」

「あ、ええぇと、助けていただいてありがとうございます。私リルって言います」

「リル? 聞いた事無い名前ね。私は渡りのカリナ。あなたかなりの若木ね? 誰の娘さん??」

 そう言ってカリナさんはにっこりと笑ってくれる。
 私は大きく息を吐いてから答える。

「父はデューラ、母はレミンです。訳あってこのイージム大陸に転移で飛ばされました」


「レミンさんの娘さん? レミンさんもう子供できてたんだ!」


 トランさんもそうだったけど、お父さんよりお母さんの方がみんな知っている様だ。
 カリナさんは驚き私の顔を間近でよく見る。

「言われてみればどことなくレミンさんにも似ているわね…… デューラさん相変わらずレミンさんに尻に敷かれているのかな?」

「うっ、ま、まあ確かにお父さんはいつもお母さんには頭あがってませんでしたけど……」

 うちのお父さん、お母さんにぞこっこんだったからお母さんの言いなりな所がある。
 お皿洗いとかお父さんがいつもしているし、洗濯なんかも手伝っているし……


「おい、カリナ。そっちの嬢ちゃんは無事か?」

「珍しいですね、エルフのお嬢さんがこんな所にいるなんて」

「それで、どうなんだ?」


 グリフォンを倒した冒険者風の人たちはこちらにやって来た。
 見た感じ戦士っぽい人が二人、魔術師っぽい人が一人。
 どう考えても冒険者なんだろう。
 カリナさんも自分の事を「渡り」って言ってたから、エルフの村を出て世界中を旅しているエルフって事よね?


「助けていただいてありがとうございます。私リルって言います」

 皆さんにも分かるようにコモン語で挨拶するとみんなニカリと笑う。

「大丈夫そうだな、俺はトーイ、こっちはザラス、それとあの魔法使いはネッドだ」


 握手を求められ私も握手を返す。
 
 こうしてどうにかこうにか九死に一生を得る私だったのだ。
 
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