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第三章:新しい生活

3-22暗い奥底で

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「何て深さなの……」


 地下の洞窟の迷宮に入ってだいぶ時間が経っている。
 感覚的にはもう一日は過ぎたのではないだろうか?
 
 流石に疲れを感じて休めそうな所で休憩をとる。
 私たちは見通しの良い場所で休憩をする。


「ううぅ~流石に眠くなって来たよお姉ちゃん……」

「じゃあ仮眠をしよう。ルラは先に寝て、私が見張りしているから」


 言いながら何度目かの食事をしてルラは私がポーチから出した毛布にくるまり横になる。
 そんなルラの顔を見ながら私は眠気など無く一つの事にずっと心が湧いていた。


 ―― 私のチートスキルでも魔物が倒せた! ――


 それは今まで自分の能力があまり役になど立たないとばかり思っていた私に希望を与えた。
 単に何かを消し去るだけと思ったのが魔物まで消し去ることが出来るとは。

 そう、これでトランさんの仇が自分の手で取れる。

 最初はルラにお願いして仇を取り、少しでも私の恨みを晴らそうと思った。
 でもこのチートスキル、「消し去る」は使い方によっては魔物を一瞬で始末できる。
 私は口元に笑みを浮かべる。


「ふふっ、でも簡単には殺さない。足をもぎ取りトランさんが負った傷と同じようにしてから始末してあげる。絶対に楽には死なせないんだから……」


 私は暗い洞窟の先を見ながらいつの間にかそうつぶやいていたのだった。


 * * * * *
 
 
「お姉ちゃん、本当にもう良いの? ほとんど寝てないみたいだけど……」

「うん、大丈夫。それより早く隠し扉の所まで行ってその奥でトランさんの仇を討ちたい……」

 仮眠くらいしか出来なかった。
 それでも休んだおかげで疲れは取れた気がする。
 だって気力だけはみなぎっている。

 だから私は先を進む。

 大地の精霊ノームのお陰で何度もあった分岐点を迷わず進む事が出来た。
 もしノームの助けが無かったら全ての場所に行って調べなければならない。
 そうなったら一週間も二週間もかかるだろう。
 
 それが今は最短で進めている。
 たまに魔物や魔獣が出て来るけど私とルラの前ではなんて事は無いに等しい、障害にすらならなかった。


「お姉ちゃん、大丈夫?」

「大、大丈夫よ……」


 言いながら息が少し荒くなっている。
 チートスキルを使ったり精霊魔法を使ったりしているので少し魔力消費が進んでいるみたいだけど、まだやれる。


「とにかく先に……」

 そう言った私はふらりとなって足がもつれその場に倒れる。


「お姉ちゃん!!」


 ルラが慌てて私を抱き起こす。

「あ、あれ? なんで力が出ないのだろう……」

「やっぱり無理しすぎだよお姉ちゃん! チートスキルも精霊魔法もあんなに使ってほとんど寝ていないだなんて死んじゃうよ!!」

 ルラにそう言われ一瞬それも良いかなって思ってしまう。

 死んだらまたあの駄女神の所に行くのだろうか?
 それともトランさんに会えるのだろうか?


 そう思いながら私はルラに抱かれたまま意識が遠のくのだった。


 * * * * *


「う、ううぅん……」


 気が付いたら私は毛布にくるまれ横になっていた。
 目の前には焚火がパチパチと炎を揺らしている。

「あ、起きた。お姉ちゃん大丈夫?」

「……ルラ?」


 えっと、何だっけ?
 ああ思い出した、私はチートスキルと精霊魔法の使い過ぎで倒れてしまったのだった。


「もう、お姉ちゃん無理しすぎだよ! いくらトランさんの仇を取りたいからってこのままじゃお姉ちゃんもおかしくなっちゃうよ!!」

 ルラは真剣な眼差しで私を見る。
 そしてその眼には涙がにじんでいた。


「……ごめん」


 私はルラの顔を直視出来ないで下を向いてそう言ってしまう。

 分かってはいる。
 でも私は何としてもトランさんの仇が討ちたい!!


「お姉ちゃん、ここから先隠し扉の中にはトランさんたちでさえ敵わない魔物がいたんだよ? そんな無理した体でいくら秘密の力があったってこのままじゃお姉ちゃんが先にやられちゃうよ?」

 ルラはそう言ってそっと私を抱きしめる。


「あたしだってトランさんやロナンさんの仇は取りたいよ。でもお姉ちゃんに何か有ったらどうするの? あたしやだよ、お姉ちゃんがいなくなっちゃうの……」

「ルラ?」

 いきなりそんな事を言うルラに戸惑ってしまう。

「この世界も好きだよあたし、でもそれはお姉ちゃんが一緒に居てくれたからなんだよ? あたし、女の子に成っちゃったけど、お姉ちゃんと一緒ならそれでも好いって思ってる。お姉ちゃんと一緒だからこの世界でも寂しくなかったんだよ!!」


 そう言ってぎゅっと抱きしめてくれるルラ。
 もう、私よりずっと小さかった小学生の癖に……


「ごめん、ルラ。もう大丈夫だよ無理はしないよ。そうだよね、今の世界で私たちは同じ境遇の双子の姉妹なんだもんね」

 言いながら私もルラをぎゅと抱きしめる。
 私たちは双子の姉妹。
 別の世界から来た私たちは双子という以上の強い絆がある。

「うん……」

 ルラはそう言ってしばし私とぎゅっと抱き合うのだった。


 * * * * *


「ここがそうみたいね……」


 大地の精霊ノームの泥人形はとうとうある壁を指さし私の手のひらで身振り手振りここに隠し扉があると伝えてくれる。

「ありがとうね、大地の精霊よ」

 私がそう言うとノームは頷いて手の平から自分で飛び降り地面の土に戻ってゆく。


「お姉ちゃん、この岩動くね……」

「うん、いよいよだね。ルラ、行こう!!」



 私たちは岩を動かしその後ろに現れる通路へと入ってゆくのだった。

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