37 / 437
第三章:新しい生活
3-22暗い奥底で
しおりを挟む「何て深さなの……」
地下の洞窟の迷宮に入ってだいぶ時間が経っている。
感覚的にはもう一日は過ぎたのではないだろうか?
流石に疲れを感じて休めそうな所で休憩をとる。
私たちは見通しの良い場所で休憩をする。
「ううぅ~流石に眠くなって来たよお姉ちゃん……」
「じゃあ仮眠をしよう。ルラは先に寝て、私が見張りしているから」
言いながら何度目かの食事をしてルラは私がポーチから出した毛布にくるまり横になる。
そんなルラの顔を見ながら私は眠気など無く一つの事にずっと心が湧いていた。
―― 私のチートスキルでも魔物が倒せた! ――
それは今まで自分の能力があまり役になど立たないとばかり思っていた私に希望を与えた。
単に何かを消し去るだけと思ったのが魔物まで消し去ることが出来るとは。
そう、これでトランさんの仇が自分の手で取れる。
最初はルラにお願いして仇を取り、少しでも私の恨みを晴らそうと思った。
でもこのチートスキル、「消し去る」は使い方によっては魔物を一瞬で始末できる。
私は口元に笑みを浮かべる。
「ふふっ、でも簡単には殺さない。足をもぎ取りトランさんが負った傷と同じようにしてから始末してあげる。絶対に楽には死なせないんだから……」
私は暗い洞窟の先を見ながらいつの間にかそうつぶやいていたのだった。
* * * * *
「お姉ちゃん、本当にもう良いの? ほとんど寝てないみたいだけど……」
「うん、大丈夫。それより早く隠し扉の所まで行ってその奥でトランさんの仇を討ちたい……」
仮眠くらいしか出来なかった。
それでも休んだおかげで疲れは取れた気がする。
だって気力だけはみなぎっている。
だから私は先を進む。
大地の精霊ノームのお陰で何度もあった分岐点を迷わず進む事が出来た。
もしノームの助けが無かったら全ての場所に行って調べなければならない。
そうなったら一週間も二週間もかかるだろう。
それが今は最短で進めている。
たまに魔物や魔獣が出て来るけど私とルラの前ではなんて事は無いに等しい、障害にすらならなかった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「大、大丈夫よ……」
言いながら息が少し荒くなっている。
チートスキルを使ったり精霊魔法を使ったりしているので少し魔力消費が進んでいるみたいだけど、まだやれる。
「とにかく先に……」
そう言った私はふらりとなって足がもつれその場に倒れる。
「お姉ちゃん!!」
ルラが慌てて私を抱き起こす。
「あ、あれ? なんで力が出ないのだろう……」
「やっぱり無理しすぎだよお姉ちゃん! チートスキルも精霊魔法もあんなに使ってほとんど寝ていないだなんて死んじゃうよ!!」
ルラにそう言われ一瞬それも良いかなって思ってしまう。
死んだらまたあの駄女神の所に行くのだろうか?
それともトランさんに会えるのだろうか?
そう思いながら私はルラに抱かれたまま意識が遠のくのだった。
* * * * *
「う、ううぅん……」
気が付いたら私は毛布にくるまれ横になっていた。
目の前には焚火がパチパチと炎を揺らしている。
「あ、起きた。お姉ちゃん大丈夫?」
「……ルラ?」
えっと、何だっけ?
ああ思い出した、私はチートスキルと精霊魔法の使い過ぎで倒れてしまったのだった。
「もう、お姉ちゃん無理しすぎだよ! いくらトランさんの仇を取りたいからってこのままじゃお姉ちゃんもおかしくなっちゃうよ!!」
ルラは真剣な眼差しで私を見る。
そしてその眼には涙がにじんでいた。
「……ごめん」
私はルラの顔を直視出来ないで下を向いてそう言ってしまう。
分かってはいる。
でも私は何としてもトランさんの仇が討ちたい!!
「お姉ちゃん、ここから先隠し扉の中にはトランさんたちでさえ敵わない魔物がいたんだよ? そんな無理した体でいくら秘密の力があったってこのままじゃお姉ちゃんが先にやられちゃうよ?」
ルラはそう言ってそっと私を抱きしめる。
「あたしだってトランさんやロナンさんの仇は取りたいよ。でもお姉ちゃんに何か有ったらどうするの? あたしやだよ、お姉ちゃんがいなくなっちゃうの……」
「ルラ?」
いきなりそんな事を言うルラに戸惑ってしまう。
「この世界も好きだよあたし、でもそれはお姉ちゃんが一緒に居てくれたからなんだよ? あたし、女の子に成っちゃったけど、お姉ちゃんと一緒ならそれでも好いって思ってる。お姉ちゃんと一緒だからこの世界でも寂しくなかったんだよ!!」
そう言ってぎゅっと抱きしめてくれるルラ。
もう、私よりずっと小さかった小学生の癖に……
「ごめん、ルラ。もう大丈夫だよ無理はしないよ。そうだよね、今の世界で私たちは同じ境遇の双子の姉妹なんだもんね」
言いながら私もルラをぎゅと抱きしめる。
私たちは双子の姉妹。
別の世界から来た私たちは双子という以上の強い絆がある。
「うん……」
ルラはそう言ってしばし私とぎゅっと抱き合うのだった。
* * * * *
「ここがそうみたいね……」
大地の精霊ノームの泥人形はとうとうある壁を指さし私の手のひらで身振り手振りここに隠し扉があると伝えてくれる。
「ありがとうね、大地の精霊よ」
私がそう言うとノームは頷いて手の平から自分で飛び降り地面の土に戻ってゆく。
「お姉ちゃん、この岩動くね……」
「うん、いよいよだね。ルラ、行こう!!」
私たちは岩を動かしその後ろに現れる通路へと入ってゆくのだった。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる