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第三章:新しい生活
3-17商売繁盛
しおりを挟む「リルあがったよ!」
「はーい!」
今日も赤竜亭でウェイトレスをしている。
おかしい。
「鋼鉄の鎧騎士祭」は終わってそろそろお客の入りも落ち着くはずだったのに毎晩お客さんが沢山押し寄せて忙しいのなんの。
「お姉ちゃん、こっちあたしやるからあっちのオーダー取って来て!」
「分かった。すみません、お待たせしました~」
私は笑顔でお客さんおオーダーを取りに行く。
「リルちゃん忙しいね? えっと、ピザをお願いね。あとお酒も追加で」
「はーい、ピザとお酒の追加ですね。少々お待ちくださーい」
オーダーを取って厨房のおかみさんに伝票を渡す。
もともとそんな事はしていなかったのだけど、あまりにお客さんが来て注文の品が分からなくなったり間違ったりするので私が伝票のやり方を教えたら一気に効率が良くなってお客さんのオーダーを捌くスピードが上がった。
あっちの世界では端末で注文を取ったりしていたり、お店によっては席に取り付けてあるタブレットで注文するとかだったんだけどなぁ~。
そんな事を思っていると声がかかる。
「ふぅ、ピザ焼きあがったよ~。リルちゃんお願い~」
厨房ではアスタリアちゃんたちもまかない飯を食べる時間が無いほど忙しく手伝いをしている。
そうそう、ピザもパスタも今ではこの赤竜亭の名物料理になっている。
おかげで赤竜亭は大繁盛。
あまりにピザとパスタの注文が多いので出すのは夜限定に変えるほどだった。
私は焼きあがったピザをお客さんの元へ運ぶ。
「お待たせしました~。ピザで~す」
「おお、来た来た。いやぁ、このピザとリルちゃんのお陰で毎日でも通いたいほどだよね」
テーブルにピザを置いていると常連客のお客さんがそう言ってくれる。
「ありがとうございます」
私が笑顔でお礼を言っていると、お客さんはにこやかに言う。
「これってリルちゃんたちがお店に教えたって本当? こんな美味いモノをエルフ族はいつも食べているのかい? リルちゃん可愛いし、美味しい料理も作れるしお嫁に欲しいくらいだよ」
「ありがとうございます。でも私って人間だとまだ三歳くらいらしいですよ? だからお嫁さんにはまだまだ先の話になりますね~」
そう言うと常連のお客さんは驚き顔になる。
そして当然の質問をまた受ける。
「え? リルちゃんって幾つになるの?」
「えっと、生まれて十五年なので十五歳です。エルフは人間でいう成人が二百歳くらいらしいので私ってまだまだ子供なんですって」
そう言うと常連のお客さんはやっぱり残念そうな顔をする。
毎回同じような受けこたえしているけど、流石に人間にしたら三歳児じゃこれ以上口説けないよね?
「ははは、そりゃ残念だな、いいお嫁さんに成れるのにな」
「こらこら! リルちゃんに手ぇ出そうとはふてぇ野郎だ!!」
「そうだそうだ! 我らが天使リルちゃんを口説こうとは見過ごせんぞ!!」
「リルちゃん、こいつは我々MTR親衛隊が処理しておきますよ!!」
そして毎回出てくる私の親衛隊とか言う人たち。
以前やってしまったおっぴろげ事件で結成されたのだけど、MTRって何っ!?
「あのぉ~、穏便にお願いしますよぉ?」
「ううぅ、やっぱりリルちゃん優しいなぁ!」
「ああ、やはり天使だ!」
「我らMTR親衛隊はずっとあなたを守りますよ!!」
「あの、そのMTRって何ですか?」
首を傾げそう聞くと親衛隊の人たちはばっとポーズを取って声高々に言う。
「マジ・天使・リルちゃん! その頭文字でMTR!!」
「我らMTR親衛隊はリルちゃんのその愛らしさに忠誠を誓う者です!!」
「故にリルちゃんに近寄る不逞の輩は我らが成敗する!!」
あ~。
MTRってそう言う意味だったんだぁ~。
う~、親衛隊とかってちょっとうれしいけど面倒くさそう……
「MTRだとあたしも入るの? マジ・天使・ルラで!」
「「「おふぅっ!!!!」」」
近くで話を聞きながら空いたお皿を下げていたルラのその一言にMTR親衛隊の人たちは思わずのけぞる。
「し、しまった。これかぶってるぞ!?」
「い、いや、しかしルラちゃんも双子だけあってやっぱりかわいいし……」
「そ、それがしルラちゃんも好みでござる!!」
いや、ござるって何なのよ?
どっちにしろ私たちに興味持っている時点でやばい人たちなの!?
「MTRって、マジ・とんでもない・ロリコンでしょ? リルちゃん、ルラちゃんそろそろ交代よ」
言いながらレナさんが出てきた。
そしてMTR親衛隊の人たちに睨みを利かす。
「どっちにしろほどほどにしないと『赤竜亭』の出禁にするわよ? リルちゃんとルラちゃんに手ぇ出したらただじゃおかないからね?」
だんっ!
椅子に片足上げながらレナさんはそう啖呵を切るとレナさん目的の常連さんからも歓声が上がる。
「おおっ! 流石レナちゃん、その強気の物言いがいいぃっ! そこに痺れて憧れるぅっ!!」
「『赤竜亭』の姉御、レナちゃん健在だな!」
「ああ、そのヒールで踏まれたい……」
なんなんだここの常連客は!!
思わず私が引き始めるとアスタリアちゃんもやって来た。
「はいはい、姉さんそこまで。注文の品持ってきたから、姉さんはオーダー取ってよ」
アスタリアちゃんがお料理を持って来てテーブルに置くとその周りにも常連客が湧いて出る。
「やっぱアスタリアちゃんが良いよなぁ~。清純派で!」
「ああ、このやんわりとしたところが」
「アスタリアちゃん、こっちのオーダーお願いね~」
そしてアスタリアちゃんコールが始まる。
アスタリアちゃんにまで、一体ここの常連さんって何なのよ!?
「ふん、それでもここはやはりMTR親衛隊一押しのリルちゃん、ルラちゃんがこの店で一番!」
「いやいやいや、大人の魅力あふれるレナ様に敵うはずもないだろう!?」
「お前らアスタリアちゃんお良さがわからんのか? この純情さ、そして素朴さ。癒されるだろうに!!」
交代で厨房に下がろうとするとなぜか常連客の皆さんが言い合いを始める。
どうも誰が一番とか言い出している。
もう、恥ずかしいな。
そんなのどうだっていいのに。
「あ~お腹すいた。お姉ちゃんまかない飯食べようよ~」
「う、うん。でもあれ放っておいて大丈夫?」
「ん~、そろそろ亭主さんが出て来るから大丈夫じゃない? あ~、今日のまかない飯は何かなぁ?」
喧嘩にならなきゃいいけどなんて思っていたらルラの言う通り亭主さんが出てきた。
そしてもみ合いになる寸前にお客の首根っこを掴みひょいっと持ち上げる。
「お客さん、お店で喧嘩は困るよ? それに他のお客の迷惑だ。言う事を聞けなきゃ『赤竜亭』を当分の出禁にするぞ?」
そう言い凄むと常連の客さんたちはピタッと静かになる。
「うわ、あれ大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、あの人に任せておきな。ああ見えてもその昔は結構有名な冒険者だったんだからね」
「へっ!?」
心配になって厨房からホールの様子をうかがっていた私におかみさんはそう言う。
初めて聞いた。
亭主さんも昔は冒険者だったなんて。
「まあ、トランと一緒に冒険していたのはもうだいぶ昔の話だけどね。あの頃はあたしも一緒に色々な所を回ったもんだよ」
「え”っ!? おかみさんまで冒険者だったんですか!?」
「おや? 話してなかったっけ??」
聞いてないよ、そんな話!
道理で亭主さんもおかみさんもやたらと肝が据わっているわけだ!!
私は常連のお客さんが亭主さんの前に一列に正座して座らせられているのを見ながら私はもう一度おかみさんも見るのだった。
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