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第三章:新しい生活

3-14探索への出発

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「えへへへへへぇ~」

「お姉ちゃん、ずっと鏡見てニマニマして気持ち悪いよ?」

「だってトランさんからのプレゼントなんだもん! 見てみてこれ♡」

「はいはい、もう何度も見ましたよ~」


 部屋に戻ってからも私はトランさんに買ってもらった髪留めを鏡で見ながらニマニマとしてしまう。


 だってトランさんからのプレゼントだよ!
 しかも二人の気になっていた物が同じだよ!?
 それにお店の人にはトランさんが彼氏だって!!!!


「きゃーきゃーっ! もう、私とトランさんが恋人に見えたのかな? 見えたのかな!?」


「はいはい、見える見える。だからもういい加減に寝ようよ。あたしもう眠い……」

 ベッドに倒れて仰向けになっているルラだけど私はまだテーブルの上に置いた鏡を見てニマニマしている。
 そしてふと隣のトランさんの部屋を見る。

「そう言えばもうすぐ迷宮の探索に出ちゃうんだっけ。はぁ、トランさんともっと一緒に居たいのになぁ~」

 そうつぶやく私の声にもうルラは応えない。
 見ればすやすやと寝息を立てている。

「もう、ちゃんと布団かけないと風邪ひくよ?」

 私はルラに布団をかぶせてやって髪留めを外しそっとハンカチの上に置いてベッドに潜り込む。
 そして隣のトランさんのお部屋に向かって小さな声で言う。


「おやすみなさい、トランさん」


 私は目をつぶり将来大人になった私とトランさんの楽しい夢を見るのだった。


 * * * * *


「おはようございます!」

「ふわぁ~おはようございますぅ~」


 朝、下の階に降りてくるとトランさんたちが朝食を済ませていた。
 まだ早い時間だと言うのにみんな装備に身を固めている。


「ほれ、携帯保存食だ」

「ありがとう亭主。それじゃぁ行って来る」

 エシアさんは亭主さんから携帯食を沢山受け取ってみんなで分けて荷物にしまう。
 勿論トランさんも同じだった。


「あ、あの、もう出発ですか?」

「お早うリル、ルラ。うん、急でごめんね。エシアの話だと冒険者ギルドで隠し扉の話が漏れてしまったらしくてね、急ぎ探索をしないと他の冒険者に先を越されちゃいそうなんでね。悪いけど今から行って来る」

「う~ん、ダンジョンかぁ~。あたしも行ってみたいなぁ~」

「ははははっ、ルラがもっと大きくなって精霊魔法が自由自在に使えるようになったら考えてあげるよ」

「え~っ」

 トランさんはそう笑いばがら私とルラの頭に手を乗せて撫でてくれる。


「うん、やっぱりその髪留め似合ってるね、リル」

「あ、ト、トランさん。気を付けて行ってきてくださいね。無事に帰って来るの待ってますから……」

 私が寂しそうにそう言うとトランさんは腰をかがめ、にっこりと笑って頷く。
 
「うん、分かった。探索が成功したらまたみんなで遊びに行こうね!」

 笑顔でそう言ってくれるトランさんに私は思わず抱き着いて頬にキスをする。


 ちゅっ♡


「おいおい、トラン! いきなり女神の祝福かよ? リルちゃん俺にもしてくれよ?」

 テルさんが笑いながら茶化して来る。
 でも私のキスはトランさんだけにしかしないもん!


「残念でした、私のキスはトランさん限定です」


 そう言うと皆さん大笑いして手を振ってくれる。
 そしてトランさんも立ち上がって手を振ってくれる。


「それじゃ、行って来るね」

「はい、お早いお帰りを」


 私はそう言ってトランさんの背中を見ながら赤竜亭を出て行くのをずっと見つめるのだった。


 * * * * *


「リル、あっちのお客さんのオーダーあがったよ!」

「はいっ!」


 夕方、お店は相変わらず大繁盛だった。
 私もルラもだいぶ慣れて今ではこのお店の看板娘の一員としてお客さんからも親しまれて来た。

 それにあのミートソーススパゲティーやあさりのクリームパスタ、ペペロンチーノなんかも教えたら大反響でこのお店の名物料理になりつつある。

 うーん、そう言えばこのお店にはオーブンも有るからこのあいだシーナ商会の保存食にピクルスらしきものも見たのでトマトピューレと乾燥バジルを使ってピザソースを作るのもアリかもしれない。
 問題はピザ生地だけど、うまく薄く作れればピザも食べられそうだ。


 私はお料理を運びながらそんな事を考えていたらつまずいてしまう。

「はえっ? あ、あ”あ”あ”あぁぁぁぁっ!!!!」


 どがっしゃーんっ!


「うわっ! お姉ちゃん大丈夫!?」

「いたたたたぁ……」

 やってしまった。
 お料理をひっくり返すなんて初めてだった。

 いやはや失敗失敗。
 思わずレナさんに教わった舌をぺろりと出して「失敗しちゃったぁ」と言うと周りが固まっている。

 そして少ししてから大反響が起こる。


 うぉおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!


 えーと、これってそんなに凄い事なの?

「リ、リルちゃん!! ああぁっ! もうお持ち帰りしたぁぃいいいぃぃっ!」

「リルちゃん、スカートスカート!!」

 厨房から何事かとのぞき見していたレナさんとアスタリアちゃんがなんか騒いでいる。
 でも失敗したら舌出して「てへペロ」しておきなさいという指導通りにしたのだけど……


「お姉ちゃん、パンツ丸見えになってるよ?」

「え”っ!?」


 ルラに言われて私は体育座りのようになっている自分のスカートを見る。
 すると見事にまくれ上がって白い布が皆さんにご開帳。

「え、あ、へぁ……」

 ここまで見事にご開帳してしまうだなんて思わずプルプルと震え慌てて叫びながらスカートを押し戻して下着を隠す。


「い”や”ぁあ”あ”あ”ああああぁぁぁぁぁっ//////!!!!」


 しかし途端に周りから笑い声と歓声が上がる。
 特に常連のお客さんなんか思い切りガッツポーズ取ったりして大はしゃぎしている。


「これは眼福物だ! リルちゃんのパンツだぞ!!」

「ガードが堅いリルちゃんのパンツだ!!」

「しかも『てへペロ』付きだぜ!!」

「ああ、俺生きていてよかったぁ」


 私は片付けもせずに真っ赤になって厨房に逃げ込む。
 そしてアスタリアちゃんに抱き着いてわんわん泣く。


「ひえーん! 私皆さんの前でご開帳しちゃったぁーっ! 恥ずかしぃっ!! //////」

「よしよし、やっちゃったねぇ~。大丈夫大丈夫」

「くっ! なんでアスタリアの胸に飛び込むの? リルちゃん、こっちにかもーん!!」


 こんな時だと言うのにレナさんぶれないわね!?


 でも私はアスタリアちゃんに抱き着いたまま恥ずかしすぎてすぐにはホールには戻れなかった。


「仕方ないね、落ち着くまでレナが代わりにホールに出てな」

「ちっ、仕方ないわね。ああ、でもリルちゃん今度は私に抱き着いてね♡」

 レナさんはそう言いながらホールに向かうけど、片付けはルラがやってくれていたらしい。
 ルラはひっくり返したお料理を下げて来て掃除道具を持って出て行く。
 と、振り返り一言私に言う。


「お姉ちゃん大丈夫? なんか常連のお客さんがお姉ちゃんの親衛隊作るって騒ぎだしているけど?」

「はいっ!?」


 ルラのあまりの言葉に思わず驚いてアスタリアちゃんの胸から顔をあげる。
 しかしその頃にはルラは掃除道具持ってもうホールに行ってしまった。


「うーん、これはリルちゃん目当てでお客さんがまた来るね?」

 アスタリアちゃんが頭を撫でながらそう言ってくれるけど、みんな忘れて私の恥ずかしい格好を!!!!



 その後お店の常連客が増えたのは言うまでも無かったのであった。 

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