上 下
26 / 437
第三章:新しい生活

3-11お帰りなさい

しおりを挟む

「なにこれ美味しいぃっ!!」


 レナさんはミートソーススパゲティーを食べながら大騒ぎしている。


 ああ、口の周りがソースでべたべたに……
 お嫁前だってのにその顔は人様には見せられませんよ、レナさん?


「リルから作り方は聞いたけど、確かにひき肉さえ何とかなればこれは売れるね」

 おかみさんも腰に手を当て大いに笑顔でそう言う。

 正式名がボローニャ地方で有名なボロネーゼ。

 ミートソーススパゲティーって日本にしか無いらしく、レトルトなんかのはほとんどトマトケチャップでお肉なんて申し訳程度。
 でも本来はお肉がメインでこれが固まったらハンバーグかと思うくらいの量が入っている。

 生前イタリア料理は大好物で、近くの住宅街の片隅でひっそりとやっていたイタリア人ハーフの人がやっているお店が安くておいしくてよく家族で行ったもんだ。
 本場イタリアでは美味しい店は大通りでは無く裏路地とか住宅街でひっそりとやっているらしい。


「そう言えばあの平たい麺はどうするの?」

「ああ、それは明日のまかないで使おうかと思っていて。おかみさん、まだあさりありましたよね? クリームソースのあさりえで明日は平麺パスタにしようかと思ってます」


 アスタリアちゃんの質問に私がにっこりそう言うとおかみさんはぐっと私に顔を近づけいう。


「明日と言わず今作っておくれ! 出来ればあたしが見ている目の前でやってくれると作り方も覚えられるからね!」


 思わず後ずさりしてしまいそうな迫力。
 まあ、この世界でもシーナ商会でパスタ取り扱っているのだからいずれは広まるだろうイタ飯。

 
 ……出来ればエルフの村に戻ってからも入手したいなぁ。


 そんな事を私が考えていると亭主さんが戻って来た。
 おかみさんに言われてシーナ商会で大量にパスタを購入して来たらしい。


「こんなカチカチのモンが本当に食えるのか?」

「亭主さん、お帰りなさい。亭主さんの分のまかないも出来てますよ」

「こんな時間からか? 今日は先に喰えって事か?」

 いつもは仕込みが忙しくて先に食べるか後かに分かれるけど、亭主さんは何時も遅い時間に食べている。
 こんなに早い時間は珍しいのだろう。


「いいからあんたも食べて見なよ。リルが作ったんだよ」

「ほう、リルがねぇ……」


 言いながら出されてパスタを食べて大騒ぎ。
 こんなうまいものは初めてだとか、あの硬い麺がこんなに美味くなるのかとか。
 確かに乾燥麺見れば想像もつかないよね。


 そんなこんなで私は引き続きあさりのクリームパスタを作らさせられる。


「それじゃぁ始めますか」

 私は言いながらまずはあさりとニンニク、オリーブ油を準備する。 
 フライパンにオリーブ油を入れて熱し、ニンニクを入れ香りが油に移った頃にあさりを入れる。


 じゅぅううううぅうぅっ!


 白ワインも少し入れてすぐにふたを閉めてしばし放置。

 その間に玉ねぎを細かく切って生クリームが無いので牛乳に炒った小麦粉を入れ、片手鍋でゆっくりと温めながらバターも溶かし入れる。

 あさりを炒めていたフライパンの蓋を取ってみると全部貝が開いていて中から出てきた水分でいい感じになっている。
 そこへ玉ねぎを入れて炒める。

 貝から塩分が出ているので塩は不要。
 程無く玉ねぎもしんなりと透明になり始める。
 そこへブイヨンスープを少し入れ、先ほどの牛乳を入れる。
 
 ゆっくりと弱火でくつくつと煮えるくらいにしておく。
 するととろみが出てくる。
 そこにコクを増やす為パルメザンチーズも少量削り入れておく。

 お湯たっぷりに塩を入れておいた鍋に平面の半生パスタを入れる。
 正直茹ですぎてもだめだけど私的にはやや柔らかめが好きなのでその辺を加減しながら麺を引き上げ湯切りして先ほどのフライパンに投入。

 クリームソースとよくからめてからお皿に盛りつける。
 最後に乾燥パセリを軽く振りかけて出来上がり!


「出来ました! あさりのクリームソースパスタです!!」


 出来上がったモノをおかみさんやルラ、アスタリアちゃんや口の周りにミートソースを付けたままのレナさんや亭主さんの前に出す。
 先ほどまかない飯を食べたからこれは味見程度の少量でお皿に乗せている。


「お姉ちゃん、これだけ?」

「今回は味見よ。おかみさん、作り方は大丈夫ですか?」

「ああ、少し手間だがこれも美味しそうじゃないか」


 言いながらみんなしてフォークでそれに手を付ける。

 
 はむっ!


 口に含むと途端にあさりの風味にまったりこってりとクリームソースが後追いで来る。
 それに私好みの柔らかめの平打ちパスタがもにゅもにゅと美味しい。


「これもいけるね、クリームの濃厚さにあさりがこんなに合うとはね!」

「おいしぃ~」

「な、なにこれぇ、初めて! 私こっちのほうが好き!!」

「ここれも美味しいっ!!」

「本当だ、こっちも美味いな」


 おかみさんもルラもアスタリアちゃんもクリームソースをたっぷりとからめたそれに舌鼓している。
 口の周りに赤いミートソースを付けたままのレナさんや亭主さんも今度は白いソースを口の周りに付けながらそれを食べる。


「リル、これも売れるよ。他にもあるのかい?」

「えーと、簡単に作るならもっとシンプルなペペロンチーノってのがありますが……」


 作るのは簡単だけどいい加減仕込み始めないとやばくない?
 アスタリアちゃんなんかまだあさりのクリーム一生懸命にスプーンですくっているけど。


「決めた。あんた、これメニューで出そうよ。絶対に売れるからね!」

「ああ、そうだな。『赤竜亭』の新メニューだ!!」


 商魂たくましいおかみさんと亭主さんはそう言いながらガシッと腕を組む。
 まあ、仲のいいご夫婦でうらやましいし、商売繁盛になるなら良いのだけど。
 それにこれならまかない飯でたまにパスタが食べれそうだしね。



「なんだいなんだい? 凄くおいしそうな匂いがしてみんなで何やってるんだい?」


 突然聞こえてきたその声に私は思わず振り向く。
 料理を搬出する小さな窓にその声の主はにこやかにこちらを見ながら手を振っていた。


「トランさん!!」

「ただいま、リル。みんなで何しているんだい?」



 私はエプロン姿のまま急いでトランさんに抱き着きに行くのだった。 
  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

女体化してしまった俺と親友の恋

無名
恋愛
斉藤玲(さいとうれい)は、ある日トイレで用を足していたら、大量の血尿を出して気絶した。すぐに病院に運ばれたところ、最近はやりの病「TS病」だと判明した。玲は、徐々に女化していくことになり、これからの人生をどう生きるか模索し始めた。そんな中、玲の親友、宮藤武尊(くどうたける)は女になっていく玲を意識し始め!?

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...