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第三章:新しい生活
3-7千客万来なの!?
しおりを挟む「お帰りなさいませご主人様~」
私は今「赤竜亭」のホールで接客を行っていた。
少し引き付く笑顔を顔に張り付けそんな接客をしていると屈強な強面の冒険者のおじさまが鼻の下を伸ばしてだらしない顔になる。
なんか違う!
絶対に何か違うぞこの接客!!
あの日レナさんに「これが人間界の接客方法よ! そこっ! 笑顔は基本、失敗した時は『てへっ!』で舌を出す!! ああ、ルラちゃん、パンツ見せちゃダメ!! 見えそうで見えない所でキープするの!!」とか言われてこの世界の人間の街ではこれが当たり前だと教わったけど絶対に違う!
「お嬢様お帰りなさいませ~。どうぞこちらへ~」
ルラを見ると女性のお客さんを案内している。
ちゃんと笑顔で教わった通りの接客で。
お辞儀する時なんかも決して下着が見えない角度でするからルラの後ろにいるお客さんなんかルラのスカートを凝視している。
「レナさん、これって絶対に違いますよね? いくら人族のお店でもこんなの見た事無いですよ!?」
「大丈夫、売り上げは過去最高だし、リルちゃんもルラちゃんもとってもかわいいわよ! もう、私の部屋にお持ち帰りしたいぐらいに!!」
大丈夫かこの人っ!?
まさかそっちの趣味があるんじゃないでしょうね!?
やだよ、私には将来を誓ったトランさんてステキな未来の旦那様がいるんだから。
「リルにルラ、そろそろ休憩だ。まかない飯でも食ってくれ」
「やった! 待ってましたまかない飯~!!」
「ふう、それじゃぁ休憩に入らせてもらいます」
亭主さんに言われてホールはレナさんとアスタリアちゃんに交代してもらう。
勿論この二人だって人気あるから古参のお客さんなんかレナさんが出てくるまでお酒しか頼んでいない人だっている。
そんな様子を横目に厨房に戻ると今日のまかない飯が出ていた。
「はいはい、リルとルラのはそこに出しておいたから食べちゃってね」
「はーい。ではいただきまーす!」
「いただきます」
元気にスプーンを手に取るルラに対して絶対この接客は間違っているとぶつぶついいながらスープを口にしてはたと気付く。
「これって、海の貝の味だ。あさり?」
「おや、リルよく知っていたね。シーナ商会で仕入れた海産物なんだけどね、安いし良い品ぞろえなんでうちでもお願いする事にしたんだよ」
うーん、ここって確か結構内陸なのになんでこんなに美味しいあさりが出回ってるんだろう?
シーナ商会って確か全世界に名をとどろかす大商会でありとあらゆるものを取りそろえるとかって聞いた事もある。
実際私も行った事あるけど、シルクの下着なんて高級品をお手頃価格で取り揃えているのは驚いた。
思わず数枚買っちゃったけど、一回あれに慣れるともう元の綿の下着には戻れない。
「お姉ちゃん、この海鮮スープ美味しいね! あれ?麵が入っている?」
「え? まさかこれってパスタ!?」
私は驚いて中をよく見ると麵が浮いていた。
ボンゴレパスタとは逆で、スープに麺が申し訳程度に入っている感じ。
「おかみさん、この麵ってどうしたんですか? 初めて見ますけど」
「ああ、それもシーナ商会から試しに仕入れたんだよ。試食分でもらった奴だからみんなにも試してもらおうと思ってね」
私は慌ててフォークでパスタをくるくると巻き取って口に運ぶ。
ぱくっ!
もにゅもにゅ……
ごくんっ!
「パ、パスタだ。本物のパスタだ!」
「どうしたのお姉ちゃん?」
私は大好物のパスタがこっちの世界で食べられるとは思ってもみなかった。
「おかみさん、これってまだ手に入りませんか!?」
「どうしたんだいリル?」
私は残ったパスタをフォークに絡ませおかみさんに見せる。
「これですよ、この麺! 私大好物なんですよ!! それにこれの料理の仕方いろいろ知ってるんですよ!!」
「へぇ、意外だね? そう言えばリルたちのエルフの村ってのは南のサージム大陸、どちらかと言うとウェージム大陸に近かったっけ? ウェージム大陸は『世界の穀倉地』って言われるほど農産物が豊かだったからねぇ。小麦からこの麺ってのも出来ているらしいからエルフの方がこれには詳しいのかね?」
おかみさんはそう言いながら笑っているけど、エルフの村にだってパスタは無かった。
小麦を使った料理なんてすいとんみたいのとか硬い素朴なパンくらいだったもんなぁ。
「お、お金私が出しますからこれもっと買いましょうよ!」
「なんだいなんだい、そんなに好きなのかい? 分かったよ、とりあえずまかない分くらいは買っておこうかね」
おかみさんはそう言って笑いながら注文の品を作り始める。
私は思わずぐっとこぶしを握って喜ぶ。
食材はどんなのが手に入るか大体わかって来た。
だとすると久々にこっちの世界でもスパゲティーが食べられる!
「ルラ、どんなスパゲティーが好き?」
「ん~あたしミートソース!」
「ん~、それもいいけどやっぱりナポリタンもいいわねぇ~。あ、シンプルにペペロンチーノなんかもいいかも!」
夢が広がる。
食材さえあれば結構といろいろ作れそうだし、もしかしてシーナ商会ってもっといろいろとあるかもしれない。
私は接客方法問題の事なんかすっかりと忘れ去って、明日の午前にシーナ商会に行ってみる事にするのだった。
* * * * *
「なんか前に来た時よりお客さんが多いね……」
「うわぁ~、人がいっぱいだぁ~」
翌日早速シーナ商会に来てみると何やら人だかりが出来ている。
しかも女性ばかり。
一体……
「お客様、押さないでください。大丈夫です、新作の乳液はまだまだございます」
「すみません、ただいま購入規制をさせていただいております。おひとり様五本まで、五本までのご購入でお願い致します!」
見れば店員さんたちが人だかりを大きな声をあげて誘導している。
どうやら何かの新商品の販売のようだ。
「奥様、もう買われましたの?」
「ええ、ちゃんと五本手に入れましたわ。この新作、とても楽しみですわね」
なんかセレブっぽいおば様たちがにこにこしながらシーナ商会のロゴが入った袋を嬉しそうに持って出て行く。
凄いなシーナ商会。
まるで生前の百貨店のようだな。
「お姉ちゃん、前にここで服買ったよね? 今日は何買うの?」
「それは食材よ! おかみさんからも頼まれたパスタの購入よ! もし他にも使えそうな食材があったら買ってきていいいって言われたから、ミートソースパスタ作るわよ!」
「おおぉ~! じゃあ、食材は地下らしいから早速行こうよ!」
食材売り場が地下って……
まるで本当に生前の百貨店みたいね。
私とルラは意気揚々と地下の食品売り場に向かうのだった。
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