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第一章:転生
1-2スローすぎるライフ
しおりを挟む「リル、ルラ何処にいるの?」
リルと呼ばれた私はお花畑でお花を摘むのをやめた。
見れば母親のレミンがエプロン姿のまま私たちを探しにやって来ていた。
「お母さん?」
「ここにいたのね、リル、ルラ。あまり遠くへいっちゃだめよ? あなたたちはまだ小さいのだから。ご飯が出来たわ、さあ帰りましょう」
私は立ち上がりほとんどうり二つの妹のルラに手を差し伸べる。
違いと言っても髪型くらいかな?
私がツインテールでルラがおおぶりの三つ編みの髪型。
あれから十五年が経った。
エルフの体はどうやら最初は人間と同じく十五歳くらいまではすくすくと成長してその後にどんどんとゆっくりとなって行くようだ。
そして二百歳くらいまではほとんど変わらずその後千歳くらいまで経たないと人間でいう大人の女性ぽくならないらしい。
中にはもっと遅い人もいるらしいけど今まで人間だった私には想像もつかない。
そんな世界で成長した私たちもまだまだ子ども扱い。
人間で言うと三歳児くらいの扱いで、みんな甘やかせてくれる。
そしてこの十五年間私自身も全く変わらない世界のせいで考え方もなにもあの時のまま止まったような錯覚を覚えている。
「ん、それじゃ帰ろうかお姉ちゃん」
妹のルラは元あの小学生、赤城拓人 (あかぎたくと)君と言い最初は色々と荒れたけど今ではしっかりと私の妹となっている。
良いのか拓人君。
今ではかわいい女の子だけど、元は男の子だよ?
むしろお姉さんは半ズボンの似合うそっちの方が好み‥‥‥
じゃ無かった、まあ小学生だったからまだ性別についてはそれ程じゃ無かったんだろうね。
二人手をつなぎながら母親と一緒に家に戻る。
そして漂うあの匂い‥‥‥
「おお、お帰り。ご飯の準備できてるぞ」
私好みのイケメンパパ。
見た目だって二十歳そこそこだからとても父親には見えない。
デューラと言う名の父親は嬉しそうにテーブルにお皿を並べている。
そしてそのテーブルには‥‥‥
「またエルフ豆ぇ~?」
私が言う前に妹のルラが文句を言う。
いや、私だって同じ気持ちだよ?
「どうしたんだいルラ、エルフ豆の塩茹では美味しいって言っていたじゃないか?」
「毎日毎日同じものじゃ飽きちゃうよ~。ねえ、お父さん他には無いの?」
ごもっともです。
どうもエルフの食事はシンプルでしかもあまりおいしくない。
まだ果物の方がマシだと思う時がある程ここの食事は美味しくない。
「何言ってるのルラ、好き嫌いはだめですよ? エルフ豆は栄養満点なのよ? それに今の時期は新鮮なものが食べられるのよ?」
そう言いながら私たちの母親は大量に茹で上がったエルフ豆をお皿に取り分ける。
そして私たちの目の前に置く。
エルフ豆だけ。
「さ、食べましょう」
言いながらお母さんはエルフ豆を剥きながら食べ始める。
見た目が生前の枝豆そっくりなこれは味もすごく似ていた。
エルフの食事って基本果物や木の実、キノコなんかが多い。
「あ~き~たぁ~ぁ~」
ルラはそう言ってお皿にエルフ豆を剥きながら溜めている。
後で塩をかけて一気に食べるつもりだ。
「そうはいってもなぁ。あ、そうだまださなぎが有ったはずだけどあれ食べるか?」
「そ、それは遠慮しておく、あれ動くんだもん!」
エルフはこう見えても雑食なので動物性たんぱく質の摂取もする。
実際には消化が悪いみたいで肉や魚なんかも少量しか食べれないけどね。
でも、エルフは前世の常識からは驚かされるようなものまで食べる事が有る。
その中に昆虫類を食べる習慣がある。
勿論全部のエルフがそうではないけどうちのこのイケメンパパは結構さなぎの油揚げが好きだ。
周りはカリッと、中はトロトロなそれは虫じゃなきゃ気を引きそうなものである。
でも、さなぎで虫よ!?
それをおいしそうにカリッとほうばるお父さん‥‥‥
いくらイケメンパパでもえんがちょしたくなる。
「あたしそれヤダ。お父さんもよく虫なんか食べれるよね?」
「そうか? カリッと香ばしくてじゅわっと脂分が染み出て美味しいんだけどな?」
いやいやいや、そんないいもんじゃないわよ。
昔知らずに食べさせられた時はやたらとすっぱくて驚いたもんだ。
中にはエビみたいなロックキャタピラーなんかもいるけど見た目がね‥‥‥
「あ、あたしエルフ豆でいい‥‥‥」
流石にルラも虫は嫌みたいで大人しくエルフ豆に戻る。
私もため息をつきながら食事を続けるのだった。
* * * * *
「ねえお姉ちゃん、あたしたちってこれ以上成長しないのかな?」
服を脱ぎ裸になって二人で水浴びしている。
エルフの村の奥にあるこの泉はみんなの共同の沐浴場。
そして混浴。
と言うか、エルフの男女って脱いでもあまり見た目が変わらない。
男性も筋肉が少なくすらりとしているし、女性も胸の大きな人なんて数えるくらいしか見た事が無い。
ルラと一緒に水浴びしていると他の人たちもやって来た。
「あら、リルとルラじゃない? 大丈夫なの二人っきりでこんな所まで来て?」
「ああ、シャルさん。こんにちは。大丈夫も何も私たちもう十五歳ですよ?」
「こんにちわ、シャルさん!」
シャルさんは服を脱ぎながら泉に入って来る。
そしてきょろきょろと周りを見る。
「十五歳なんて子供も子供、右も左も分からないようなもんじゃない? お母さんのレミンさん呼んでこようか?」
シャルさんはそう言って私たちの近くまで来るけど見た目が大人の女性なのに大きくない。
スタイルもスラリとはしているんだけどね‥‥‥
「大丈夫ですよ。それよりまたシャルさんの捕って来た蜂蜜食べたいです!」
「ああ、あたしも!」
私たち二人はこのエルフのお姉さんに懇願する。
エルフの村では二百歳を超えると村の仕事を分担する習わしが有るけどそれまでは子ども扱いされ何もさせてもらえない。
「う~ん、蔵にはまだあるからそっちじゃ駄目?」
シャルさんは蜂蜜取りの仕事を分担しているけど内緒でよく食べさせてもらっている。
村の蔵に入るとそれを出してもらえるのは結構面倒なのでやりたくはない。
「お父さんと一緒にお願いに行ってそれから割り当てもらうのに何日かかると思ってるんですか? そんなに待てませんよ~」
「そうそう、このあいだなんかお父さん一緒に行く日を忘れてて三日も遅れてからだったんだよ!」
「三日くらい良いじゃ無いの~。なんかあなたたちって十五歳のくせにやたらと大人びているわよね?」
ぎくっ!
私や拓人君が転生者だってのはみんなに秘密にしている。
それに私たちの本当の力も。
「いやいや、美味しい物はすぐにでも食べたいんですよ!」
「そうそう、シャルさんお願い~っ!!」
私もルラもシャルさんにしがみつきお願いする。
するとシャルさんはあきれ顔で頷く。
「じゃあ体洗ったら蜂蜜取りに行くからみんなには内緒よ?」
「ほんとっ!」
「やったぁっ!!」
シャルさんはそう言いながら体を泉に浸して洗うのだった。
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