上 下
4 / 10

「旦那様、ずっとその言葉を待っていました。」

しおりを挟む
「3日も?!」
確かに体がだるいとは思ったけど…まさか3日も寝ていただなんて。
「はい、本当に目覚められて良かったです。」
「心配かけたわね。」
「いえ。」
私はとても幸せだわ。私のことを気遣ってくれる使用人たち。最後に少しだけ近づけたかも、と思えた旦那様。離婚するけじめがつけられたかな。
これで後悔なく、旦那様とお別れができる…
ソアラの顔が曇ったのを見てアンナはなにか決心したようにこう言った。
「奥様、非常に差し出がましいとは思うのですが、ひとつよろしいですか?」
「もちろん、いいわよ。」
「これは旦那様にも言ったのですが、奥様一度旦那様と話し合ってみては?」
それを聞いたソアラはびっくりするような困ったような表情でこう言った。
「それができていれば今頃こんなじゃなかったわ。」
当たり前の話である。なにせ彼はこの屋敷にほとんど帰ってこなかったのだから。
「ですから奥様!今、今話し合うんですよ!」
名案と言わんばかりにアンナが言う。
「今更だと思わない?」
「あら?でも奥様。まだ離婚届は書いていないんですよね?」
「まあ、そうなんだけど。でもね…」
困ったように言うソアラにアンナは言う。
「奥様、旦那様の気持ち知りませんよね?離婚するならせめて、本当に旦那様が奥様のこと嫌いかどうかだけでも確認してからにしてはどうですか?」
なかなかのいいようである。
『嫌い』それを認めたくないソアラには随分と突き刺さる言葉である。
「ま、まぁ…そうね…わかったわ。後で声をかけてみるわね。」
にこっと笑ってソアラが答える。
アンナは嬉しそうに
「はい!」
と言った。

30分後
「はい、終わりましたよ!奥様!」
「ありがとう。」
身支度が終わり、部屋から出ようとしてはっとする。
「アンナ、今何時?」
「あ、いい忘れてましたね。今は午前10時ですね。朝食を取りに行きましょうか。」
朝食にしては少し遅いような気もするが…
『誤差』よね!
ソアラは意外と大雑把なのであった。
部屋にはすでに美味しそうな料理の数々。
そして…旦那様が座っていた。
「ソアラ!」
待ちわびていたかのように嬉しそうに自分を呼ぶ旦那様にソアラは呆然とした。
「旦那様?」
な、なんで旦那様がここにいるのでしょう?
というか私に笑いかけるとは一体何事?!
焦りまくるソアラ。
でも、喜んでいる自分がいるのも確かなのよね…
立ちすくむソアラに彼は言った。
「なんでそこで立ち止まるんだ?ほら、ここに座れ。」
ぽんぽんと叩いたその場所はなんと彼の隣の席だった。
「隣…ですか?」
「嫌か?」
で、出ました…いかにも悲しそうなその表情!
断れないじゃないですか…!!
「では、お言葉に甘えて。」
その席に座った。座ったまではいい。だが…
ここから私はどうすればいいの?!
困ったことに彼がソアラのことをじーっと見つめているのだ。
これでは緊張して何もできない。
と、とりあえず?とりあえず朝食を食べましょう。いそいそと用意された朝食を食べるソアラ。
当然会話はないわけで…
き、きまずい!!!
冷や汗だらだらである。
会話がなければ食べん以外にやることもないわけで、病み上がりのソアラのために少し少なめに用意された朝食はあっという間になくなってしまった。
これからどうしましょう。
『これは旦那様にも言ったのですが、奥様一度旦那様と話し合ってみては?』
ごくっ 生唾を飲み込んで私は意を決して口を開いた。
「「あ(そ)の!」」
か、かぶったー(泣)
「だ、旦那さまからどうぞ!!」
「いや、ソアラから!」
「いやいやいやいや…旦那様から。」
「だが…」
不毛な譲り合いの末に折れたのは旦那様の方であった。
「わかった…単刀直入に言おう。ソアラ、新しいドレスや宝石は欲しいかい?」
「え?」
あまりにもなんてことのない内容にぽかんとするソアラを見て彼は深い為息を吐いた。
「やっぱりか…まあ、ここまではわかっていたことではあるし…」
なにかぶつぶつといっているわ…
一体何なのかしら?
「それじゃあ、この前の告白は本当かい?」
「この前…」
はっとして旦那様をにらみつける…
わ、わたしになにをいわせようと…?!
だが、旦那様は思ったよりも真剣な表情で…
「本当、ですよ…?」
火照る顔を背けながらそう言った。
「そうか。」
そういったときの旦那様の嬉しそうな顔ときたら!私が更に赤面することになってしまった。
「ソアラ、私もあなたの事を愛している。」
追い打ちをかけるようにそう言われれば、もう心臓が持たない。
ばくばくとすごい速さで鼓動しているのがわかる。
熱が顔に集まって思わず手で顔を覆ってしまった。
だけど、私も言わなきゃ。
「旦那様、ずっとその言葉を待っていました。」
へにゃ、と笑って私はそう言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

バイバイ、旦那様。【本編完結済】

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。 この作品はフィクションです。 作者独自の世界観です。ご了承ください。 7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。 申し訳ありません。大筋に変更はありません。 8/1 追加話を公開させていただきます。 リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。 調子に乗って書いてしまいました。 この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。 甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

処理中です...