2 / 10
「旦那様、一度奥様と話し合ってください。」~アンナ視点~
しおりを挟む
奥様が倒れられた。奥様の横では今までさんざん奥様をないがしろにしてきた旦那様が必死に奥様の名前を呼んでいる。
「ソアラ、ソアラ!!!」
天変地異か何かかしら、そう思うほどに今までの旦那様からは考えられない様子だ。
顔面蒼白で奥様を呼ぶ旦那様はまるで奥様を愛しているかのようだった。
今更何なのかしら。さんざん冷たくあしらってきたくせに。
ふつふつと怒りが沸き上がるのを私は必死に抑えた。あくまで私はこの家の侍女なのだから。さあ、こんなところでぼーっとしてないでまずは倒れられた奥様を寝室に運びましょう。
「奥様を寝室に運びましょう。」
何事かと集まってきた使用人たちに私は声をかける。
「イル、奥様を運んでちょうだい。」
さすがに女性に奥様は運ぶことができませんから、昔からこの家に使える家系の執事、イルに頼もうと私は声をかけた。しかしイルは首を横に振った。
「アンナ、奥様のほうを見てごらん。」
なんと旦那様自ら奥様を抱えているのだ。
「アンナ、ソアラは寝室に運べばいいよな?」
「はい、それでよいかと思います。」
もしかしたら、もしかしたら、この夫婦はお互いにすれ違っているのかもしれない。
もしかしたら、いつも一人で悲しみを抱えていた奥様の思いが報われるかもしれない。
あの日、ポツリとこぼした奥様のつぶやき。
「私は旦那様に愛されたい。」
部屋の窓から空を眺めながら奥様はそう言った。
奥様の美しい金髪が風になびいて悲しそうに伏せられた長いまつげと色素の薄い水色の目。
それはとても美しくて。儚げで。
その一言とその表情が私のそれまでの奥様への認識を改めるきっかけになった。
というのも、私たち世間一般には奥様は隣国で好き勝手、わがままの限りを尽くした悪役王女。ついに手に負えなくなった国王夫妻の手によって無理やり旦那様に嫁がされた、そう聞いていたから。
でも実際の奥様はとても大人しくて病弱だった。
私たち使用人はそれを演技だと思っていた。
しかしどうやら奥様は旦那様のことが好きで、みずからここに嫁いできたという。
そのあと奥様と少し話してみて分かった。
「もしかしたら奥様はうわさとは違うのかもしれない。」
少しずつ奥様と触れ合って、それは確信へと変わっていった。
それまで奥様のことをよく思っていなかったことで知らなかったことを、奥様に興味を持ったことで知った。
奥様が毎日旦那様を待って明け方まで起きていること。
時々声を殺して泣いていること。
旦那様を愛していること。
甘いものが大好きなこと。
病弱なのに運動が好きなこと。
他にもいろいろ知った。
「ねえ、みんな奥様は私たちが知っているうわさとは全く違うわ。」
ある日、わたしはそう使用人会議で伝えた。
「一度奥様とかかわってみて。」
あっという間に誤解は解けていった。たった一人、旦那様を除いて。
旦那様は徹底的に奥様を避けていたからだ。
そして、だんだん奥様の体を壊す頻度が高くなった。私たちには気を使って一度も言わなかったが、熱でつらそうな時が何度もあった。
そしてついに
「旦那様、離婚しましょう?」
奥様は久しぶりに帰ってきた旦那様にそう言った。
旦那様のあまりにもそっけない返事にさすがにひどすぎやしないかと思ってしまった。
奥様の表情はとても見ていられなかった。だからこそびっくりした。
「ねえ、アンナ、旦那様がどこにいらっしゃるか知ってるかしら?」
覚悟を決めたような表情でそう言われた時は驚いた。
「旦那様なら、執務室にいらっしゃるかと。」
「ありがとう。」
そういって奥様は立ち去って行った。
しばらくして、旦那様の叫び声が聞こえるから何事かと見に来れば奥様が倒れていたのだ。
そして今に至る。
旦那様が奥様をベットに寝かせた。
「医者の手配を」
「はい」
一体何があったのだろうか。とても気になってしまうのは仕方がないだろう。
ただ、一つこれは旦那様に伝えておくべきだろう。
「旦那様、発言をお許しいただけないでしょうか。」
「許す。」
「旦那様、一度奥様と話し合ってください。」
「ソアラ、ソアラ!!!」
天変地異か何かかしら、そう思うほどに今までの旦那様からは考えられない様子だ。
顔面蒼白で奥様を呼ぶ旦那様はまるで奥様を愛しているかのようだった。
今更何なのかしら。さんざん冷たくあしらってきたくせに。
ふつふつと怒りが沸き上がるのを私は必死に抑えた。あくまで私はこの家の侍女なのだから。さあ、こんなところでぼーっとしてないでまずは倒れられた奥様を寝室に運びましょう。
「奥様を寝室に運びましょう。」
何事かと集まってきた使用人たちに私は声をかける。
「イル、奥様を運んでちょうだい。」
さすがに女性に奥様は運ぶことができませんから、昔からこの家に使える家系の執事、イルに頼もうと私は声をかけた。しかしイルは首を横に振った。
「アンナ、奥様のほうを見てごらん。」
なんと旦那様自ら奥様を抱えているのだ。
「アンナ、ソアラは寝室に運べばいいよな?」
「はい、それでよいかと思います。」
もしかしたら、もしかしたら、この夫婦はお互いにすれ違っているのかもしれない。
もしかしたら、いつも一人で悲しみを抱えていた奥様の思いが報われるかもしれない。
あの日、ポツリとこぼした奥様のつぶやき。
「私は旦那様に愛されたい。」
部屋の窓から空を眺めながら奥様はそう言った。
奥様の美しい金髪が風になびいて悲しそうに伏せられた長いまつげと色素の薄い水色の目。
それはとても美しくて。儚げで。
その一言とその表情が私のそれまでの奥様への認識を改めるきっかけになった。
というのも、私たち世間一般には奥様は隣国で好き勝手、わがままの限りを尽くした悪役王女。ついに手に負えなくなった国王夫妻の手によって無理やり旦那様に嫁がされた、そう聞いていたから。
でも実際の奥様はとても大人しくて病弱だった。
私たち使用人はそれを演技だと思っていた。
しかしどうやら奥様は旦那様のことが好きで、みずからここに嫁いできたという。
そのあと奥様と少し話してみて分かった。
「もしかしたら奥様はうわさとは違うのかもしれない。」
少しずつ奥様と触れ合って、それは確信へと変わっていった。
それまで奥様のことをよく思っていなかったことで知らなかったことを、奥様に興味を持ったことで知った。
奥様が毎日旦那様を待って明け方まで起きていること。
時々声を殺して泣いていること。
旦那様を愛していること。
甘いものが大好きなこと。
病弱なのに運動が好きなこと。
他にもいろいろ知った。
「ねえ、みんな奥様は私たちが知っているうわさとは全く違うわ。」
ある日、わたしはそう使用人会議で伝えた。
「一度奥様とかかわってみて。」
あっという間に誤解は解けていった。たった一人、旦那様を除いて。
旦那様は徹底的に奥様を避けていたからだ。
そして、だんだん奥様の体を壊す頻度が高くなった。私たちには気を使って一度も言わなかったが、熱でつらそうな時が何度もあった。
そしてついに
「旦那様、離婚しましょう?」
奥様は久しぶりに帰ってきた旦那様にそう言った。
旦那様のあまりにもそっけない返事にさすがにひどすぎやしないかと思ってしまった。
奥様の表情はとても見ていられなかった。だからこそびっくりした。
「ねえ、アンナ、旦那様がどこにいらっしゃるか知ってるかしら?」
覚悟を決めたような表情でそう言われた時は驚いた。
「旦那様なら、執務室にいらっしゃるかと。」
「ありがとう。」
そういって奥様は立ち去って行った。
しばらくして、旦那様の叫び声が聞こえるから何事かと見に来れば奥様が倒れていたのだ。
そして今に至る。
旦那様が奥様をベットに寝かせた。
「医者の手配を」
「はい」
一体何があったのだろうか。とても気になってしまうのは仕方がないだろう。
ただ、一つこれは旦那様に伝えておくべきだろう。
「旦那様、発言をお許しいただけないでしょうか。」
「許す。」
「旦那様、一度奥様と話し合ってください。」
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
バイバイ、旦那様。【本編完結済】
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。
この作品はフィクションです。
作者独自の世界観です。ご了承ください。
7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。
申し訳ありません。大筋に変更はありません。
8/1 追加話を公開させていただきます。
リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。
調子に乗って書いてしまいました。
この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。
甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。
宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。
だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!?
※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる