呼んでいる声がする

音羽有紀

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呼んでいる声がする(その28)寒月の夜

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二人は黙って歩いた。海岸に出る小道まで来ると猫男は、突然に言葉を発した。

「月が綺麗だね。」

小道からは海岸の寒月が良く見える。

「さっきから、あたしの行く先を照らしていたわ。」

「いいね、その表現。」

「別に、本当の事を言っただけ。」

「もっと月の近くに行かない?」

彼は、そう言うと海岸を指差した。波音が聞こえて来る。

そして瑠子の返事も聞かずにすたすたと海岸の方へ歩いて行ってしまった。

「猫、」

と言いかけて言い直した

「館野さん。」

この呼び方も何だかなと瑠子は思った。しかし紫苑も変だしまさか勝手に自分だけで呼んでいるあだ名の猫男なんて呼べるわけも無いしと葛藤をしているとまた猫男が呼んだ。

「早く。」

「わかった。」

と、小声で言った後、何、このペアみたいな会話と思いながら猫男の歩いて行った砂浜の方向に歩み寄って行った。

波音は進むに連れていよいよ大きくなって行く。

 猫男は波打ち際すれすれの所に座った

「ここに座んなよ。」

これは、蓮花と座った場所に近い、デジャブか。なだと思いながら

「遠慮します。」

ときっぱり言った。

「そう。」

猫男は返した。

とはいうものの、ここに立ちっぱなしとかも嫌だなと思ったのでかなり離れて座った。

「いいよね。夜の海も。」

「昼間も、友達と海を見ました。」

「え、ほんと?」

「ええ、ずっと。」

「じゃあ、昼と夜両方見れて良いじゃない」

「いいえ、もう昼間で満足しました。」

「そう、だよね。けどまあ、夜は夜で良いよね。」

「そんな風に言われると何も言えなくなりますけど。」

彼は、少し笑って黙って海を見始めた。

「ねえ、瑠子ちゃんの両親は実家にいるの。」

猫男らしからぬ質問に瑠子は、少なからず驚いた。

「いいえ、継母と父です。」

「え、あ、そう。」

瑠子の、殺気を帯びた答えに何かを感じたのかそれ以上聞いては来なかったし

ただじっと海を見つめてたいたが、やがて口を開いた

「俺は、母親が小学校の時、兄貴と俺を置いて家を出て行ったんだ。」

そう言ったきり彼は黙った。

瑠子は、それに対して言葉は発しなかったが彼の淋しさが伝わって来た。

だんだん風が強くなり波は激しくなって、身を引きちぎる様な冷たい風が吹きつけてた。        つづく


いつも読んでいただいてありがとうございます。
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