呼んでいる声がする

音羽有紀

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呼んでいる声がする(その20)猫と猫男

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猫達は、キャットフードを食べていた。猫男があげたのだろう。

彼はこちらを向くとほほ笑んだ。

「雪の日は大変だったみたいだね。」

「えっ何でそれを。」

「留萌さんに、聞いたんだ。」

いたずらっぽい瞳で彼は言った。

「大丈夫だったの?風邪とか引かなかった?」

どうしたのかな、優しいのじゃない瑠子は思った。

「皆雪でも元気だったから安心したよ。」

ぽつりと言った。瑠子はしゃがんで頷くと茶トラの頭を撫でた

茶トラは、可愛い声でニャと鳴くと瑠子の頭に顔をこすりつけた。猫男も隣でグレーを撫でている。

そんな彼の横顔を盗み見た、慈愛に満ちた笑顔をしているなと思った。その後で慈愛だなんてと思い直して首を振った。

 暫くの間そうしていると、猫男は急に欠伸をした

眠そう、やはり新聞配達のせいかな、

その時、彼がこちらを見そうになったので、慌てて猫の方へと向き直した。

「猫、いえ、(いけない、猫男って言いそうになっちゃった、あれ、苗字はなんだっけ

・・思い出した)

「館野さんも大丈夫でしたか?」

一瞬間があってから猫男は答えた

「あ、うん、大変だったけれど。」

もしかして新聞配達の時の事かな。それは、あんな日に配達するのは大変

だったよねと瑠子は内心思った

そんな事を瑠子が思っていると思いもよらない猫男は、こちらに向かってほほ笑んだ

「寒いね、今日は一緒に帰ろうか。と言ってもそこだけれど。」

と、坂の上に立つ黄色いアパートイエローハウスを指差した。

微かに瑠子は笑ってしまってから頷くと彼は、猫達のご飯入れを電柱の裏に隠した。上手く隠せるものだなと瑠子は思った

「じゃあね。」

彼は猫達にそう言うと○○達の頭や背中を撫でた。

瑠子も

「またね。」

と猫達に言った。

それから二人して坂を上った。

歩きながら思った。猫のごはん代は彼の自腹なのだろうか

あんなに猫がいたらそれそうとうの金額がかかるだろう、それで新聞配達をしているのだろうか、瑠子は思った

わたし今財布の中はいくらだろうか、立ち止まって財布を開けた

彼は不思議そうに振り返って瑠子を待っていた

お財布には、800円が入っていた。

それを掴むと猫男に差し出した

「これ、猫のご飯代、良かったら。」

「えっ?」

驚いた顔で猫男は瑠子の握りしめた手を見つめた

「いいよ、瑠子ちゃんだって、大変でしょ。」

「そんな事ありません。働いていますから。」(瑠子ちゃんなどと馴れなれしいな)

それは、たしかに薄給で生活ぎりぎりだけれど、わたしは社会人だと

変なプライドがあった。

「そう、じゃあ、ありがたく。」

ほっとして猫男の顔を見るとなんかおかしそうに笑っている。

何がおかしいのだろうかと思っていると

何時の間にか歩いて来ていたのか留萌さんが立っていた

「こんばんは。」

焦って挨拶すると、猫男もどうもと頭を下げた。

「ん、お二人さん良い感じだね。若いっていいね。」

留萌さん誤解しないでほしいなと瑠子は思った

「どこにいくんですか?」

猫男は返した

「あ、海岸にね、散歩」

ひょうひょうと留萌さんは返すと上の方を見上げた

「今日は月が綺麗だね。」

瑠子も猫男も一緒に空を見上げた

先程、瑠子が見た時より上の方に三日月は幾分小さくなって氷の様な空からこちらを見ていた。                              

                                           つづく
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