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リリアーナが立ち去った執務室では、ショックのあまりランドルフが呆然としていた。誰よりも大好きで大切な子から、いきなり婚約解消を言い渡されたのだから当然だろう。
嫌だ、絶対に別れたくない。リリアーナと結婚したい。一生傍にいて欲しい。大切にさせて欲しい。自分の手で幸せにしたい。
ずっとそう思ってきたのに、どうしてこんなことに……。
憔悴した顔でランドルフは考える。
もしかすると、自分の想いはリリアーナには迷惑だったのだろうか。
婚約解消の理由について、リリアーナがなにか色々言っていたようだが、気が動転していてよく覚えていない。けれどもリリアーナが自分との婚約を、本当は望んでいなかったことだけは分かる。そうでなければ婚約解消など言い出すはずがないのだから。
そんなことを考えてランドルフが増々落ち込んでいると、退室していた侍従と執務官が戻ってきた。そして、生気の抜けたランドルフを見て慌てふためく。
「でっ、殿下、どうなさったのです?!」
「まさか、お身体の調子が悪いのですか?! すぐに侍医を呼びます!」
「……れた……」
侍従たちの耳にランドルフの掠れたような声が聞こえた。しかし、あまりにも声が小さすぎて、なにを言ったのか分からない。
「はい?」
「すみません、殿下。もう一度お願いします!」
「……フラれた…………」
「え?」
「リリアーナに……フラれてしまった」
「「ええっ!?」」
「どうしてです! 理由は?!」
「分からないが、僕との婚約を解消したいそうだ……はは、どうしよう、もう死にたい……」
「なっ!」
抜け殻のようになっているランドルフを、侍従と執務官が必死になって励まそうとする。
「しっかりして下さいよ、殿下!」
「このままでは本当に婚約を解消されてしまいますよ! いいんですか?!」
「よくない。でも……」
「だったら早くリリアーナ嬢を追いかけないと! そして婚約解消は嫌だって、好きだから結婚したいんだって、ハッキリ言うんです。好きになったきっかけや、くじ引きの箱に細工してまでリリアーナ嬢を婚約者にしたかったことも、全部ぶちまけて気持ちを伝えましょう! 諦めるのはそれを全部やった後です! ほら、行って下さい。急いで!!」
「でも、迷惑がられてしまうんじゃ……」
「なにもしないままで失うよりマシですよ。いいじゃないですか、今より状況が悪くなることはないんですから!!」
はっとランドルフが顔を上げた。
「そうだな、このままリリアーナを失うなんて絶対に嫌だ!」
「だったら、ホラ早くっ!」
「行って下さい!!」
「分かった、行ってくる!!!」
即座にランドルフは執務室を飛び出した。今ならきっと、リリアーナが馬車に乗り込む前に捕まえられる。
近道となる廊下を走り抜け、ランドルフは馬車置き場へと辿り着いた。しかし、求める姿は見当たらない。近くにいた使用人に尋ねると、リリアーナはまだここに来ていないと言う。
リリアーナが来たら足止めするように使用人に命じると、ランドルフは王城内へと戻ってリリアーナを探し始めた。リリアーナが立ち寄りそうな場所を思い出しながら、色々な所を探し回る。しかし、一向に見つからない。
どこだ。
どこにいるんだ、リリアーナ。
焦るランドルフの脳裏に、ふとある一つの場所が思い浮かんだ。
そこはリリアーナにとっては秘密の場所で、ランドルフにとってはリリアーナに好意を持った思い出の場所である。
間違いない、彼女はきっとあそこにいる。
ランドルフは強い確信を胸に踵を返すと、一目散に走り出したのだった。
嫌だ、絶対に別れたくない。リリアーナと結婚したい。一生傍にいて欲しい。大切にさせて欲しい。自分の手で幸せにしたい。
ずっとそう思ってきたのに、どうしてこんなことに……。
憔悴した顔でランドルフは考える。
もしかすると、自分の想いはリリアーナには迷惑だったのだろうか。
婚約解消の理由について、リリアーナがなにか色々言っていたようだが、気が動転していてよく覚えていない。けれどもリリアーナが自分との婚約を、本当は望んでいなかったことだけは分かる。そうでなければ婚約解消など言い出すはずがないのだから。
そんなことを考えてランドルフが増々落ち込んでいると、退室していた侍従と執務官が戻ってきた。そして、生気の抜けたランドルフを見て慌てふためく。
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「……れた……」
侍従たちの耳にランドルフの掠れたような声が聞こえた。しかし、あまりにも声が小さすぎて、なにを言ったのか分からない。
「はい?」
「すみません、殿下。もう一度お願いします!」
「……フラれた…………」
「え?」
「リリアーナに……フラれてしまった」
「「ええっ!?」」
「どうしてです! 理由は?!」
「分からないが、僕との婚約を解消したいそうだ……はは、どうしよう、もう死にたい……」
「なっ!」
抜け殻のようになっているランドルフを、侍従と執務官が必死になって励まそうとする。
「しっかりして下さいよ、殿下!」
「このままでは本当に婚約を解消されてしまいますよ! いいんですか?!」
「よくない。でも……」
「だったら早くリリアーナ嬢を追いかけないと! そして婚約解消は嫌だって、好きだから結婚したいんだって、ハッキリ言うんです。好きになったきっかけや、くじ引きの箱に細工してまでリリアーナ嬢を婚約者にしたかったことも、全部ぶちまけて気持ちを伝えましょう! 諦めるのはそれを全部やった後です! ほら、行って下さい。急いで!!」
「でも、迷惑がられてしまうんじゃ……」
「なにもしないままで失うよりマシですよ。いいじゃないですか、今より状況が悪くなることはないんですから!!」
はっとランドルフが顔を上げた。
「そうだな、このままリリアーナを失うなんて絶対に嫌だ!」
「だったら、ホラ早くっ!」
「行って下さい!!」
「分かった、行ってくる!!!」
即座にランドルフは執務室を飛び出した。今ならきっと、リリアーナが馬車に乗り込む前に捕まえられる。
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どこだ。
どこにいるんだ、リリアーナ。
焦るランドルフの脳裏に、ふとある一つの場所が思い浮かんだ。
そこはリリアーナにとっては秘密の場所で、ランドルフにとってはリリアーナに好意を持った思い出の場所である。
間違いない、彼女はきっとあそこにいる。
ランドルフは強い確信を胸に踵を返すと、一目散に走り出したのだった。
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