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婚約者となったことで王子妃教育が始まり、頻繁に登城するようになったリリアーナとランドルフは、会う機会が増えた分だけ親しみと絆を深めていった。
ランドルフの思った通り、リリアーナはとても優しい性格をした少女だった。いつもランドルフを思いやってくれるし、温かい笑顔を見せてくれる。
見た目は確かに大輪の薔薇や百合のような豪奢さはないものの、春の温かな日差しの中で庭の片隅に見る小さくてかわいらしい花のような、そんな可憐さがあった。ただそこにあるだけで心を優しく穏やかに癒してくれる。
リリアーナに会うたびに、ランドルフはの気持ちは和んだ。王族としてその身にかかる様々な重圧や重責によるストレスが軽くなる気がした。
日に日にリリアーナに対する想いが大きくなっていく。
この世界に存在する人間の中で、もしかするとリリアーナが一番大切な人かもしれない。そんなことを思うほど、ランドルフはリリアーナに想いを寄せていった。
ランドルフは元々口数が少なく、またリリアーナに対してだけではあるが、思いを言葉で上手く伝えることが苦手である。そのため、自分がいかにリリアーナを大切に思っているかを本人に伝えたことがない。
けれどもその分、態度では表してきたつもりだ。
時間を作ってはリリアーナと会うようにしてきたし、贈り物は絶対に自分で選んでリリアーナに手渡しした。手紙やメッセージカードも直筆で書いて頻繁に送ったし、誰のことよりもリリアーナを優先した。
なによりリリアーナと一緒にいる時のランドルフは、他のどんな時よりも幸せそうな表情になった。他の人間には滅多に見せない本物の笑顔を、リリアーナにだけは常に見せてきたのである。
ランドルフが見る限り、自分と一緒にいる時のリリアーナも、いつも幸せそうにしてくれていた。婚約に不満がある素振りなど、一度も見たことがない。
だからランドルフは、自分たち二人は両想いだと思っていた。自分の気持ちがリリアーナに伝わっていないなど、疑ったことすらなかったのである。
今日だって、愛するリリアーナに会えることをとても楽しみしていたのだ。珍しくリリアーナの方から会いたいと言ってくれたことで上機嫌になったあまり、いつもの何倍も仕事の効率が上がったほどだ。
ところがである。
そんな恋する王子様であるランドルフに、久し振りに会った愛しのリリアーナは、満面の笑みで残酷にもこんなことを言い放ったのだ。
「殿下、わたしたちの婚約を解消いたしましょう」
それを聞いたランドルフの目の前が真っ暗になり、ショックで固まってしまったのも仕方がないだろう。
勿論、リリアーナのその言葉はランドルフを愛するがゆえのものだったし、ランドルフが喜んでくれると思った上でのものだった。
けれど、そんなことは知らないランドルフにしてみれば、突然前置きもなく好きな人から笑顔で別れを切り出されたのである。
鈍器で頭を殴られたような衝撃を受け、心が死にそうになってしまったのも当然のことなのであった。
ランドルフの思った通り、リリアーナはとても優しい性格をした少女だった。いつもランドルフを思いやってくれるし、温かい笑顔を見せてくれる。
見た目は確かに大輪の薔薇や百合のような豪奢さはないものの、春の温かな日差しの中で庭の片隅に見る小さくてかわいらしい花のような、そんな可憐さがあった。ただそこにあるだけで心を優しく穏やかに癒してくれる。
リリアーナに会うたびに、ランドルフはの気持ちは和んだ。王族としてその身にかかる様々な重圧や重責によるストレスが軽くなる気がした。
日に日にリリアーナに対する想いが大きくなっていく。
この世界に存在する人間の中で、もしかするとリリアーナが一番大切な人かもしれない。そんなことを思うほど、ランドルフはリリアーナに想いを寄せていった。
ランドルフは元々口数が少なく、またリリアーナに対してだけではあるが、思いを言葉で上手く伝えることが苦手である。そのため、自分がいかにリリアーナを大切に思っているかを本人に伝えたことがない。
けれどもその分、態度では表してきたつもりだ。
時間を作ってはリリアーナと会うようにしてきたし、贈り物は絶対に自分で選んでリリアーナに手渡しした。手紙やメッセージカードも直筆で書いて頻繁に送ったし、誰のことよりもリリアーナを優先した。
なによりリリアーナと一緒にいる時のランドルフは、他のどんな時よりも幸せそうな表情になった。他の人間には滅多に見せない本物の笑顔を、リリアーナにだけは常に見せてきたのである。
ランドルフが見る限り、自分と一緒にいる時のリリアーナも、いつも幸せそうにしてくれていた。婚約に不満がある素振りなど、一度も見たことがない。
だからランドルフは、自分たち二人は両想いだと思っていた。自分の気持ちがリリアーナに伝わっていないなど、疑ったことすらなかったのである。
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鈍器で頭を殴られたような衝撃を受け、心が死にそうになってしまったのも当然のことなのであった。
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