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遠目に見える栗色の髪をしたその令嬢は、確か茶会の参加者だったとランドルフは思い出す。伯爵家の令嬢で、名前はリリアーナだった気がする。
茶会の席から離れた場所で令嬢と侍女がなにを話しているのか気になり、ランドルフはこっそり近付いてみた。
見るとリリアーナはハンカチに包んだ小さいものを手に持っていて、侍女になにかを必死に訴えている。
「お願い、どこか人目につかないお庭の片隅でいいの。この子を埋めさせて下さい」
「そんなこと言われても……わたくしに決定権はございませんし、鳥とはいえ城内に死骸を埋めるなんて、病気の心配もあれば不吉でもありますから、おそらく埋める許可はでないでしょう。処分でよければ、わたくしの方でやっておきますが」
「処分って……まさかゴミとして捨てるの?! そんな可哀想なことできないわ!」
二人の会話を盗み聞きしたところによると、どうやらリリアーナはこの庭のどこかで木から落ちた小鳥のヒナの死骸を見つけたらしい。それを埋めて墓を作る許可が欲しいと、通りがかりの城の侍女に声をかけ、頼んでいる最中のようだった。
リリアーナの必死な様子を見ていたランドルフは、半年ほど前のある出来事を思い出した。それは城に遊びにきたセリーヌを王妃の命令で仕方なくエスコートして、嫌々ながらも庭園を散歩していた時のことだった。
美しい花の咲く木の下で立ち止まった二人は、そこで野鳥の死骸を見つけた。城で飼われている猫にでもなぶられたのか、かなり悲惨な有様だった。
「可哀想に……」
そう呟いたランドルフの隣で、セリーヌが金切り声を上げた。
「いやーっ、汚いっ、気持ち悪いですわっ!! ここの掃除を任されているのは誰ですの?! こんな汚いものをわたくしに見せるなんて、ランドルフ様、その者を鞭打ちにしてやって下さいませ!!」
喚きたてるセリーヌの心根の悪さに、ランドルフは本気で引いた。鳥の死を悼む気持ちを持てないセリーヌに、嫌悪感しか湧かなかった。
それと比べて、リリアーナというあの令嬢はなんて優しい子なんだろう。同じ年頃の令嬢でもまったく違う。
そんなことを思いながら、ランドルフは木の陰からリリアーナを熱心に見つめた。見た目の平凡さなどまったく気にならないほど、リリアーナの優しさに惹かれたのだった。
ランドルフはリリアーナと話している侍女の元へ侍従を向かわせた。そして、可哀想な鳥のヒナを、庭内にある大きな木の根元に埋めることを許可することを伝えさせたのである。
木の根元ならば、滅多なことで人に踏まれることもなく、土を掘り返される心配もないし、ヒナは安らかに眠ることができるだろう。あの心優しいリリアーナも安心できるに違いない。
その後、休憩を終えて茶会に戻ったランドルフは、他の令嬢たちや王妃にバレないようにリリアーナを見つめ続けた。自分の伴侶にはぜひ彼女になってもらいたいと、密かにそう思いながら。
茶会の翌日。
ランドルフは自らの婚約者を決定するため、国王夫妻と宰相の前でくじ箱の中に手を入れて一枚の紙を引いた。
その紙にはリリアーナの名が書かれてあった。
実を言うとこの時、ランドルフは箱に手を入れる前からリリアーナの名が書かれた紙を隠し持っていた。それをさも箱の中身から選んで引いたように見せかけたのである。
見ると王妃がものすごく驚いた顔をしていたことから、くじ箱の中身にはなんらかの不正が行われていたに違いない。たとえば、セリーヌの名が書かれたくじしか入っていなかったとか。
そもそも、ランドルフがくじで妃を決めようと提案した時に王妃がすぐに承諾したのも、不正をすれば確実にセリーヌを選ぶことができると考えたからだったのかもしれない。
王妃の行った不正がバレることを防ぐためか、箱の中に残ったくじの確認作業が行われることなく、おかげでランドルフのイカサマがバレることもなかった。
こうしてリリアーナはランドルフの婚約者に決定したのである。
茶会の席から離れた場所で令嬢と侍女がなにを話しているのか気になり、ランドルフはこっそり近付いてみた。
見るとリリアーナはハンカチに包んだ小さいものを手に持っていて、侍女になにかを必死に訴えている。
「お願い、どこか人目につかないお庭の片隅でいいの。この子を埋めさせて下さい」
「そんなこと言われても……わたくしに決定権はございませんし、鳥とはいえ城内に死骸を埋めるなんて、病気の心配もあれば不吉でもありますから、おそらく埋める許可はでないでしょう。処分でよければ、わたくしの方でやっておきますが」
「処分って……まさかゴミとして捨てるの?! そんな可哀想なことできないわ!」
二人の会話を盗み聞きしたところによると、どうやらリリアーナはこの庭のどこかで木から落ちた小鳥のヒナの死骸を見つけたらしい。それを埋めて墓を作る許可が欲しいと、通りがかりの城の侍女に声をかけ、頼んでいる最中のようだった。
リリアーナの必死な様子を見ていたランドルフは、半年ほど前のある出来事を思い出した。それは城に遊びにきたセリーヌを王妃の命令で仕方なくエスコートして、嫌々ながらも庭園を散歩していた時のことだった。
美しい花の咲く木の下で立ち止まった二人は、そこで野鳥の死骸を見つけた。城で飼われている猫にでもなぶられたのか、かなり悲惨な有様だった。
「可哀想に……」
そう呟いたランドルフの隣で、セリーヌが金切り声を上げた。
「いやーっ、汚いっ、気持ち悪いですわっ!! ここの掃除を任されているのは誰ですの?! こんな汚いものをわたくしに見せるなんて、ランドルフ様、その者を鞭打ちにしてやって下さいませ!!」
喚きたてるセリーヌの心根の悪さに、ランドルフは本気で引いた。鳥の死を悼む気持ちを持てないセリーヌに、嫌悪感しか湧かなかった。
それと比べて、リリアーナというあの令嬢はなんて優しい子なんだろう。同じ年頃の令嬢でもまったく違う。
そんなことを思いながら、ランドルフは木の陰からリリアーナを熱心に見つめた。見た目の平凡さなどまったく気にならないほど、リリアーナの優しさに惹かれたのだった。
ランドルフはリリアーナと話している侍女の元へ侍従を向かわせた。そして、可哀想な鳥のヒナを、庭内にある大きな木の根元に埋めることを許可することを伝えさせたのである。
木の根元ならば、滅多なことで人に踏まれることもなく、土を掘り返される心配もないし、ヒナは安らかに眠ることができるだろう。あの心優しいリリアーナも安心できるに違いない。
その後、休憩を終えて茶会に戻ったランドルフは、他の令嬢たちや王妃にバレないようにリリアーナを見つめ続けた。自分の伴侶にはぜひ彼女になってもらいたいと、密かにそう思いながら。
茶会の翌日。
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その紙にはリリアーナの名が書かれてあった。
実を言うとこの時、ランドルフは箱に手を入れる前からリリアーナの名が書かれた紙を隠し持っていた。それをさも箱の中身から選んで引いたように見せかけたのである。
見ると王妃がものすごく驚いた顔をしていたことから、くじ箱の中身にはなんらかの不正が行われていたに違いない。たとえば、セリーヌの名が書かれたくじしか入っていなかったとか。
そもそも、ランドルフがくじで妃を決めようと提案した時に王妃がすぐに承諾したのも、不正をすれば確実にセリーヌを選ぶことができると考えたからだったのかもしれない。
王妃の行った不正がバレることを防ぐためか、箱の中に残ったくじの確認作業が行われることなく、おかげでランドルフのイカサマがバレることもなかった。
こうしてリリアーナはランドルフの婚約者に決定したのである。
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