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 伯爵令嬢リリアーナには疑問がある。それは、自分がなぜ第二王子殿下ランドルフの婚約者に選ばれたのか、その理由についてだった。

 二人の婚約が結ばれたのは六年前。
 ランドルフの婚約者を探すため、母である王妃が国中から貴族令嬢を招いてお茶会を開いた。参加した令嬢は二十人ほど。十才のリリアーナもその内の一人だった。

 そのお茶会の席で、リリアーナは初めてランドルフに会った。幼いながらもその身にまとう眩い気品、容姿の美しさ、口数の少なく落ち着いた様もまた素敵で、リリアーナは一瞬で恋に落ちてしてしまった。

 その日以来、リリアーナは暇さえあればランドルフのことを考えた。彼の笑顔や美しい所作を思い出すだけで頬が赤くなり、火照った顔を両手で押さえながら、少女らしく胸をきゅんきゅん高鳴らせて見悶えていたのである。

 お茶会の参加者中からランドルフの婚約者は選ばれる。
 どこの高位貴族の令嬢がその栄誉を与えられるか知らないが、少なくとも自分が選ばれることはないとリリア―ナには分かっている。なぜならあの場には、リリアーナより王子妃となるに相応しい高い身分の令嬢が何人もいたからだ。

 その人が羨ましかった。
 恋を知った途端に失恋だわ、と自分の恋心を不憫に思い、何度もリリアーナはため息をついた。痛む胸をそっと押さえ、瞳に涙を滲ませた。

 だから王城から手紙が届き、自分がランドルフの婚約者に決ったとの連絡を受けた時、リリアーナは驚きのあまり心臓が止まりそうになってしまった。思わずその場で大号泣してしまったくらいである。

 たまらなく嬉しかった。
 その半面、疑問が残ったのだ。
 どうして選ばれたのが自分だったのだろうか、と。

 あの場にはリリアーナよりも身分が高く美しい令嬢がたくさんいた。未来の王子妃に相応しい、とても賢いと評判の令嬢だっていたのに。

 リリアーナには突出して優秀だと自慢できるものが何もない。見目は悪くないが、それも貴族の令嬢としては普通程度だし、勉強だって特別できるわけでもない。家格にしても伯爵家は高位貴族の中でも末端である。家長である父はどこの派閥にも属さずに中立を貫いており、政略的なうま味があるわけでもない。

 それなのに、なぜ? どうして?

 そんな疑問を抱え続けて早六年。ついに我慢できなくなったリリアーナは、その答えを直接ランドルフに尋ねてみることにしたのである。

 場所は王城の庭園、二人でお茶を飲んでいた時だった。リリアーナは緊張で手を震わせながらも、勇気を出して思い切って質問した。

「殿下、どうしてわたしが婚約者に選ばれたのでしょう。なにか理由があったのでしょうか」

 お茶の入ったカップから口を離すと、ランドルフはさらりと答えた。

「くじ引きで決めたんだ」
「え」

 思ってもいなかった答えに、リリアーナの口から淑女らしからぬ声があがる。

「く、くじ引き……ですか?」
「そうだ。箱に手を入れて握った紙に書かれていたのが、君の名前だった」

 それを聞いたリリアーナは、驚きとショックで愕然となった。

 たかが伯爵家の娘でしかなく、特別美しくも賢くもない自分が婚約者に選ばれた理由。そこには少なくとも、ランドルフの想いがあったに違いないとリリアーナは密かに思っていた。ランドルフの興味を引くなにかがあったから選ばれたのだと、そう信じたかった。

 けれど、それらはリリアーナの思い込みに過ぎなかったらしい。

 自分はただ、くじ引きで当たったから選ばれたに過ぎなかった。ただそれだけの、ランドルフにとってなんの価値もない、取るに足らない存在でしかなかったのだ。

 凍りついたかと思う程、リリアーナの体が一瞬にして冷え込んだ。

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