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33 お義兄様との話し合い②
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「探しても探しても見つからず、それでも諦めずに情報を集め続けた。絶対に見つけて求婚するつもりだった。そうして四年が過ぎた頃、カナスという町の不思議な噂を耳にした」
その町から仕事を求めて王都に出てくる若者は皆、平民とは思えないほど賢く優秀であるだけではなく、下級貴族程度になら十分通じる礼儀作法まで会得しているという、そんな噂だったらしい。
貴族家に生まれた元学者でもカナスに住み着いたのだろうか。暇を持て余したその学者が、子供たちに勉強や作法を教えているのだろうか。
いずれにしても興味深い。そうお義兄様は思ったそうだ。
わたしが失踪してすぐの頃、お義兄様は一度だけ、わたしを探しにカナスに来たことがあるという。
その頃のわたしはまだ王都にいて、平民としての生き方を学ぶために平民街にある宿屋に長期滞在していた。おかげでお義兄様と鉢合わせずにすんだらしい。
今回お義兄様が再度カナスに足を運んだのは、行方不明の義妹を探すためではなく、あくまでも噂の真偽を確かめるためだった。そこで子供たちの教育をしているクリステルという育ちの良い女性が町にいることを耳にした。
まさかと思いつつ尋ねてみた噂の女性の家で、ずっと探し求めていた義妹と再会することになった。と、それがわたしたちの再会の経緯だったという。
「驚いた。信じられない思いだった。そしてクリスを母と呼ぶユリウスを見た瞬間、媚薬のせいで曖昧になっていたあの夜の記憶が一気に鮮明になって、すべてを思い出すことができたんだ」
つまり、わたしとベッドでどう過ごしたのか、お義兄様は全部思い出したということか。
それを聞いたわたしも、ついあの夜のことを思い出してしまい、羞恥に顔が熱く火照った。
「そ、そうだったのですね。ではユリウスに会ってすぐ、自分の子だとあそこまで確信を持って言えたのは、一体どうしてなのですか?」
思い出すように間を置いたあと、お義兄様はゆっくりと首を振った。
「分からない。ただあの子を見てクリスとの夜を思い出した次の瞬間、本能が俺に囁いた。あれは俺の子だ、と。血が血を呼んだのかもしれないな」
お義兄様が親指でわたしの頬を撫でた。そして切ない表情をする。
「改めて君の口から真実を聞きたい。ユリウスは俺の子なのだろう? そうだと言ってくれ」
ここまできたら、もう隠しておくことに意味がない。
そう思ったわたしは静かに頷いた。
「そうです。ユリウスはわたしが産んだお義兄様の子です」
感極まったように、お義兄様がわたしを抱きしめた。震えているのが全身から伝わってくる。
「大変な時に一人にさせてすまなかった。どうかお願いだ、俺と結婚して欲しい。君とユリウスと一緒に、この先の人生を歩んでいきたいんだ」
「そんなっ、わたしの方こそ謝罪しなければなりません。お義兄様から息子を不当に奪っていたのですから。ただわたしもまさかあの時、妊娠したとは考えておらず……」
「ユリウスの成長を見守れなかったことは残念に思う。けれど、それよりもクリスに再会できた喜びの方が俺の中で大きい。愛している、クリス。どうか俺の伴侶になって、生涯を共に過ごしてくれないか」
「本当にわたしでいいんですか? もし、同情でおっしゃって下さっているのなら……」
「違う。クリス、好きなんだ、愛している。クリス以外欲しくない。君の夫になりたい。その栄誉をどうか……どうか俺に与えて欲しい」
ずっとずっと愛してきた相手からそんな懇願をされては、拒否などできるはずがない。
泣きながらわたしは何度も頷いた。
「はい……はい、お義兄様。どうかわたしをあなたの妻にして下さい」
「……ありがとう、クリス。ありがとう……」
わたしたちは愛する人の体温を心地良く感じながら、抱きしめ合ったのだった。
その町から仕事を求めて王都に出てくる若者は皆、平民とは思えないほど賢く優秀であるだけではなく、下級貴族程度になら十分通じる礼儀作法まで会得しているという、そんな噂だったらしい。
貴族家に生まれた元学者でもカナスに住み着いたのだろうか。暇を持て余したその学者が、子供たちに勉強や作法を教えているのだろうか。
いずれにしても興味深い。そうお義兄様は思ったそうだ。
わたしが失踪してすぐの頃、お義兄様は一度だけ、わたしを探しにカナスに来たことがあるという。
その頃のわたしはまだ王都にいて、平民としての生き方を学ぶために平民街にある宿屋に長期滞在していた。おかげでお義兄様と鉢合わせずにすんだらしい。
今回お義兄様が再度カナスに足を運んだのは、行方不明の義妹を探すためではなく、あくまでも噂の真偽を確かめるためだった。そこで子供たちの教育をしているクリステルという育ちの良い女性が町にいることを耳にした。
まさかと思いつつ尋ねてみた噂の女性の家で、ずっと探し求めていた義妹と再会することになった。と、それがわたしたちの再会の経緯だったという。
「驚いた。信じられない思いだった。そしてクリスを母と呼ぶユリウスを見た瞬間、媚薬のせいで曖昧になっていたあの夜の記憶が一気に鮮明になって、すべてを思い出すことができたんだ」
つまり、わたしとベッドでどう過ごしたのか、お義兄様は全部思い出したということか。
それを聞いたわたしも、ついあの夜のことを思い出してしまい、羞恥に顔が熱く火照った。
「そ、そうだったのですね。ではユリウスに会ってすぐ、自分の子だとあそこまで確信を持って言えたのは、一体どうしてなのですか?」
思い出すように間を置いたあと、お義兄様はゆっくりと首を振った。
「分からない。ただあの子を見てクリスとの夜を思い出した次の瞬間、本能が俺に囁いた。あれは俺の子だ、と。血が血を呼んだのかもしれないな」
お義兄様が親指でわたしの頬を撫でた。そして切ない表情をする。
「改めて君の口から真実を聞きたい。ユリウスは俺の子なのだろう? そうだと言ってくれ」
ここまできたら、もう隠しておくことに意味がない。
そう思ったわたしは静かに頷いた。
「そうです。ユリウスはわたしが産んだお義兄様の子です」
感極まったように、お義兄様がわたしを抱きしめた。震えているのが全身から伝わってくる。
「大変な時に一人にさせてすまなかった。どうかお願いだ、俺と結婚して欲しい。君とユリウスと一緒に、この先の人生を歩んでいきたいんだ」
「そんなっ、わたしの方こそ謝罪しなければなりません。お義兄様から息子を不当に奪っていたのですから。ただわたしもまさかあの時、妊娠したとは考えておらず……」
「ユリウスの成長を見守れなかったことは残念に思う。けれど、それよりもクリスに再会できた喜びの方が俺の中で大きい。愛している、クリス。どうか俺の伴侶になって、生涯を共に過ごしてくれないか」
「本当にわたしでいいんですか? もし、同情でおっしゃって下さっているのなら……」
「違う。クリス、好きなんだ、愛している。クリス以外欲しくない。君の夫になりたい。その栄誉をどうか……どうか俺に与えて欲しい」
ずっとずっと愛してきた相手からそんな懇願をされては、拒否などできるはずがない。
泣きながらわたしは何度も頷いた。
「はい……はい、お義兄様。どうかわたしをあなたの妻にして下さい」
「……ありがとう、クリス。ありがとう……」
わたしたちは愛する人の体温を心地良く感じながら、抱きしめ合ったのだった。
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