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30 アンは知っていた
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夜は家族そろっての晩餐となった。
ユリウスは初めて目にする豪華な料理に大喜びしている。
「侯爵家の料理人はとても腕がいいのよ。ユリウス、どう? 美味しい?」
わたしがそう話しかけると、ユリウスは笑顔でこう答えた。
「すごく美味しい! でも、僕はお母さん……じゃなくて、お母様の作ってくれる料理が一番好き!」
「なっ! クリス、料理ができるようになったのか?! 今度、わたしにも作ってくれるかい?」
「俺にも頼む」
かわいいユリウスの言葉と、お父様とお義兄様からの期待の籠った目に、わたしは嬉しいやら恥ずかしいやらでテレてしまう。
「わ、わたしが作る料理は平民が食べる田舎料理ばかりです。お父様やお義兄様のお口には合わないと思うのですが……」
「「クリスの手作り料理が口に合わないわけがない!」」
「僕もお母様の作るゴハンが食べたーい!」
苦笑しながらわたしは頷いた。
「近い内にぜひ腕をふるわせていただきますわ」
嬉しそうな男性三人に、わたしの心がほっこりと温まった。
食後、やはり旅の疲れがあったのか、すぐに舟をこぎ始めたユリウスに手早く湯あみさせて、ベッドで寝かしつけた。
ユリウスの世話を手伝ってくれたのは、わたしの専属侍女だったアンだ。
再会した瞬間に、アンからは土下座されてしまった。
「四年前、家を出るほどのお嬢様の苦悩に気付けず、本当に申し訳ございませんでした」
「違うわ、アンは悪くないの! わたしが考えの足らない子供だったの。皆のためになると思い込み、独り善がりに行動して、愛してくれている人たちに迷惑や心配をかけてしまったのだわ。本当にごめんなさい」
「いいえ、いいえ。……でも、ご無事で本当に良かった。しかも、こんなにかわいらしい坊ちゃんまで連れて……セドリック様の御子ですね?」
「……。」
アンにもユリウスがお義兄様の子だと一発でバレてしまったらしい。
「ね、ねえ、アン。どうしてユリウスがお義兄様の子供だと思うの?」
「え? だって、よく似ていらっしゃいますもの。髪の色も同じですし、お顔も瓜二つですわ」
「で、でも普通は、平民として暮らしていた中で出会った人との子供と考えるものではなくて?!」
「ユリウス坊ちゃまの年齢から逆算すると、お嬢様が子ができる行為に及んだのは、このお屋敷を出た日の前後一ヵ月くらいの間となります。僭越ながら、わたしはお嬢様がセドリック様を男性として一途に慕っていることに気付いておりました。そのお嬢様が家出後すぐに心変わりして、他の男性とそういう関係を持ったとは考えられません。となると、お相手はセドリック様以外考えられません」
「……」
そうか。お義兄様をずっと好きだったこと、アンには気付かれていたのか。であれば、ユリウスの父親がお義兄様だと気付いたことにも納得できる。
けれどお父様とお義兄様はどうして分かったのだろう。
お義兄様を想うわたしの気持ちは、あの二人には気付かれていないはずなのに。
一体、なぜ……?
ユリウスは初めて目にする豪華な料理に大喜びしている。
「侯爵家の料理人はとても腕がいいのよ。ユリウス、どう? 美味しい?」
わたしがそう話しかけると、ユリウスは笑顔でこう答えた。
「すごく美味しい! でも、僕はお母さん……じゃなくて、お母様の作ってくれる料理が一番好き!」
「なっ! クリス、料理ができるようになったのか?! 今度、わたしにも作ってくれるかい?」
「俺にも頼む」
かわいいユリウスの言葉と、お父様とお義兄様からの期待の籠った目に、わたしは嬉しいやら恥ずかしいやらでテレてしまう。
「わ、わたしが作る料理は平民が食べる田舎料理ばかりです。お父様やお義兄様のお口には合わないと思うのですが……」
「「クリスの手作り料理が口に合わないわけがない!」」
「僕もお母様の作るゴハンが食べたーい!」
苦笑しながらわたしは頷いた。
「近い内にぜひ腕をふるわせていただきますわ」
嬉しそうな男性三人に、わたしの心がほっこりと温まった。
食後、やはり旅の疲れがあったのか、すぐに舟をこぎ始めたユリウスに手早く湯あみさせて、ベッドで寝かしつけた。
ユリウスの世話を手伝ってくれたのは、わたしの専属侍女だったアンだ。
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「四年前、家を出るほどのお嬢様の苦悩に気付けず、本当に申し訳ございませんでした」
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「いいえ、いいえ。……でも、ご無事で本当に良かった。しかも、こんなにかわいらしい坊ちゃんまで連れて……セドリック様の御子ですね?」
「……。」
アンにもユリウスがお義兄様の子だと一発でバレてしまったらしい。
「ね、ねえ、アン。どうしてユリウスがお義兄様の子供だと思うの?」
「え? だって、よく似ていらっしゃいますもの。髪の色も同じですし、お顔も瓜二つですわ」
「で、でも普通は、平民として暮らしていた中で出会った人との子供と考えるものではなくて?!」
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「……」
そうか。お義兄様をずっと好きだったこと、アンには気付かれていたのか。であれば、ユリウスの父親がお義兄様だと気付いたことにも納得できる。
けれどお父様とお義兄様はどうして分かったのだろう。
お義兄様を想うわたしの気持ちは、あの二人には気付かれていないはずなのに。
一体、なぜ……?
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