お義兄様に一目惚れした!

よーこ

文字の大きさ
上 下
30 / 38

30 アンは知っていた

しおりを挟む
 夜は家族そろっての晩餐となった。
 ユリウスは初めて目にする豪華な料理に大喜びしている。

「侯爵家の料理人はとても腕がいいのよ。ユリウス、どう? 美味しい?」

 わたしがそう話しかけると、ユリウスは笑顔でこう答えた。

「すごく美味しい! でも、僕はお母さん……じゃなくて、お母様の作ってくれる料理が一番好き!」
「なっ! クリス、料理ができるようになったのか?! 今度、わたしにも作ってくれるかい?」
「俺にも頼む」

 かわいいユリウスの言葉と、お父様とお義兄様からの期待の籠った目に、わたしは嬉しいやら恥ずかしいやらでテレてしまう。

「わ、わたしが作る料理は平民が食べる田舎料理ばかりです。お父様やお義兄様のお口には合わないと思うのですが……」
「「クリスの手作り料理が口に合わないわけがない!」」
「僕もお母様の作るゴハンが食べたーい!」

 苦笑しながらわたしは頷いた。

「近い内にぜひ腕をふるわせていただきますわ」

 嬉しそうな男性三人に、わたしの心がほっこりと温まった。



 食後、やはり旅の疲れがあったのか、すぐに舟をこぎ始めたユリウスに手早く湯あみさせて、ベッドで寝かしつけた。
 ユリウスの世話を手伝ってくれたのは、わたしの専属侍女だったアンだ。

 再会した瞬間に、アンからは土下座されてしまった。

「四年前、家を出るほどのお嬢様の苦悩に気付けず、本当に申し訳ございませんでした」
「違うわ、アンは悪くないの! わたしが考えの足らない子供だったの。皆のためになると思い込み、独り善がりに行動して、愛してくれている人たちに迷惑や心配をかけてしまったのだわ。本当にごめんなさい」
「いいえ、いいえ。……でも、ご無事で本当に良かった。しかも、こんなにかわいらしい坊ちゃんまで連れて……セドリック様の御子ですね?」
「……。」

 アンにもユリウスがお義兄様の子だと一発でバレてしまったらしい。

「ね、ねえ、アン。どうしてユリウスがお義兄様の子供だと思うの?」
「え? だって、よく似ていらっしゃいますもの。髪の色も同じですし、お顔も瓜二つですわ」
「で、でも普通は、平民として暮らしていた中で出会った人との子供と考えるものではなくて?!」
「ユリウス坊ちゃまの年齢から逆算すると、お嬢様が子ができる行為に及んだのは、このお屋敷を出た日の前後一ヵ月くらいの間となります。僭越ながら、わたしはお嬢様がセドリック様を男性として一途に慕っていることに気付いておりました。そのお嬢様が家出後すぐに心変わりして、他の男性とそういう関係を持ったとは考えられません。となると、お相手はセドリック様以外考えられません」
「……」

 そうか。お義兄様をずっと好きだったこと、アンには気付かれていたのか。であれば、ユリウスの父親がお義兄様だと気付いたことにも納得できる。

 けれどお父様とお義兄様はどうして分かったのだろう。
 お義兄様を想うわたしの気持ちは、あの二人には気付かれていないはずなのに。

 一体、なぜ……?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

醜い傷ありと蔑まれてきた私の顔に刻まれていたのは、選ばれし者の証である聖痕でした。今更、態度を改められても許せません。

木山楽斗
恋愛
エルーナの顔には、生まれつき大きな痣がある。 その痣のせいで、彼女は醜い傷ありと蔑まれて生きてきた。父親や姉達から嫌われて、婚約者からは婚約破棄されて、彼女は、痣のせいで色々と辛い人生を送っていたのである。 ある時、彼女の痣に関してとある事実が判明した。 彼女の痣は、聖痕と呼ばれる選ばれし者の証だったのだ。 その事実が判明して、彼女の周囲の人々の態度は変わった。父親や姉達からは媚を売られて、元婚約者からは復縁を迫られて、今までの態度とは正反対の態度を取ってきたのだ。 流石に、エルーナもその態度は頭にきた。 今更、態度を改めても許せない。それが彼女の素直な気持ちだったのだ。 ※5話目の投稿で、間違って別の作品の5話を投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。既に修正済みです。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

愛するお義兄様のために、『悪役令嬢』にはなりません!

白藤結
恋愛
「ふん。とぼけても無駄よ。どうせあなたも『転生者』なんでしょ、シェーラ・アルハイム――いえ、『悪役令嬢』!」 「…………はい?」 伯爵令嬢のシェーラには愛する人がいた。それが義兄のイアン。だけど、遠縁だからと身寄りのないシェーラを引き取ってくれた伯爵家のために、この想いは密かに押し込めていた。 そんなとき、シェーラと王太子の婚約が決まる。憂鬱でいると、一人の少女がシェーラの前に現れた。彼女曰く、この世界は『乙女ゲーム』の世界で、シェーラはその中の『悪役令嬢』で。しかも少女はイアンと結婚したくて――!? さらに王太子も何かを企んでいるようで……? ※小説家になろうでも公開中。 ※恋愛小説大賞にエントリー中です。 ※番外編始めました。その後、第二部を始める予定ですが、まだ確定ではありません、すみません。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...