お義兄様に一目惚れした!

よーこ

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23:セドリック(義兄)side②

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 クリスの専属侍女であるアンの話では、一ヵ月ほど前、クリスは手持ちのドレスやアクセサリーなどを売り、金を手に入れていたらしい。

「お嬢様は孤児院に寄付するためだとおっしゃっていました。まさか家出のための資金にするつもりだったとは考えもせず……申し訳ありません!!」

 泣きながら土下座するアンを責めることはできない。クリスが寄付の名目で不用品を売って換金したことを、俺も義父上も報告を受けて知っていたからだ。俺たちもアンと同じで、ただただクリスの優しさに感心するばかりだった。
 その心の奥の家族を愛するが故の苦悩など、考えたことさえなかった。

 そう言えば。と、ふと俺は思い出す。

 昨日の夜、そろそろ寝ようかと思っていた時、確かクリスが部屋に尋ねてきたのではなかっただろうか。
 なぜだか記憶が朧気だが、確かにクリスは俺の部屋にやってきた。眠れないからお茶に付き合ってくれと言って、美味いお茶を入れてくれた。

 しばらく二人で他愛のない話をしたことを覚えている。が、その後、クリスを部屋に送った記憶も、就寝した記憶も俺の中に残っていない。

「疲れていたのだろうか……?」

 まあいい。ともかく言えることは、クリスが屋敷を出たのは、俺とのお茶の後だろうということだ。女性一人で深夜に屋敷を出て町をうろつくなど、賢いクリスがそんな危険で無謀なことをしたはずがない。だからおそらく、家を出たのは早朝だ。

 今はまだ正午まで二時間以上あるという時間帯。クリスが出て行ってから、大きく見積もっても五時間くらい。
 どこかで馬車に乗って王都を離れたとしても、そう遠くへは行けていないはず。今ならまだすぐに追いつける距離にクリスはいるに違いない。

 わざわざ問うまでもなく、義父上は侯爵家の騎士に命じて乗合馬車を追っていることだろう。国内各所にある修道院にも手紙を送る手配をしているはずだ。

 大丈夫だ。クリスはきっとすぐに見つかる。
 俺たちのところに帰ってくる。

 クリスに会ったら、すぐに言おう。
 心配することはなにもないのだと。クリスがお荷物でなど、あろうはずがないのだと。

 なぜならクリスは俺にとって、この世で最も大切な女性なのだから。
 心から愛しているのだから。

「義父上。クリスが帰ってきたら、すぐに求婚します。かまいませんね」

 一瞬の間の後、義父上は頷いた。

「もちろんだ。セドリック、クリスを幸せにしてやってくれ」
「はい!」

 早く、早く帰ってこい、クリス。
 抱きしめて、愛していると伝えたい。
 不安など覚える間もないくらい、幸せで満たしてやりたい。

 そんなことを思いながら、俺はクリスが戻ってくるのを、今か今かと待ち続けた。





 まさか、それから四年。
 クリスの消息が不明なままになるとは、その時の俺は思っていなかった。


 俺は今もずっと、愛しいクリスの消息を追い求め続けている。


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