お義兄様に一目惚れした!

よーこ

文字の大きさ
上 下
15 / 38

15 ティルマン様は厚顔無恥

しおりを挟む
「婚約時の契約内容については、国王陛下も認めて下さっていることだ。だからクリス、おまえが望むならすぐにでもティルマン殿との婚約は破棄できる」

 どうしたいか正直な気持ちを言ってごらん。
 そうお父様に問われて、わたしは迷うことなく即答した。

「だったらわたし、ティルマン様との婚約を破棄したいです」
「よし、すぐ手続きに入ろう」

 その言葉通りお父様は迅速に動いてくれて、二週間後にはわたしとティルマン様の婚約は正式に破棄された。

 アダルベルト公爵夫妻は納得できないらしく、何度も話し合いたい、考え直して欲しいと申し入れてきた。しかし、お父様がティルマン様の素行調査報告書を突きつけ、

「これ以上ゴネるようなら、この内容を世間に公表するがよろしいか」

と笑顔で脅すと、公爵夫妻は悔しそうな顔をしながらも諦めて引き下がったらしい。

 しかし、ティルマン様はそう簡単には諦めようとしなかった。

「ねえ、クリステル、僕と復縁しよう? 浮気は本当に悪かったよ、反省してる。もう二度としないから、また僕の婚約者になってよ」
「……」
「そもそも僕は他所で子を作ったら婚約が解消されるってこと、まったく知らなかったんだ。知っていたら、孕ませるようなことは絶対にしなかった。本当だよ!」
「……」
「君は僕が好きだった。夫人教育を頑張っていたのだって、僕の花嫁になりたいがためだよね? だったら意地を張らずに僕と寄りを戻そう?」
「……」
「浮気相手に嫉妬して拗ねてる君はかわいいけど、限度があるよ? 知っているよね、僕が女性から引く手数多だってこと。いい加減にしないと僕の愛を失ってしまうよ? それが嫌なら、そろそろ機嫌を直しなよ。ね? 今度は君だけを愛してあげるから」

 わたしが参加するお茶会に現れては、ティルマン様はしつこく復縁を迫ってくる。そして、今みたいな話をべらべらと話すのだ。

 それを耳にした令嬢たちは、表情には出さないものの、怒り心頭なご様子だ。
 良識のあるまともな令息たちも眉をひそめている。

 そう言えば、最近になってアダルベルト家の抱える借金についての情報がなぜか漏れ始めたらしく、ティルマン様の人気は下落の一途をたどっている。少し前までは黄色い声を上げていた令嬢方も、近頃はティルマン様に近寄ろうともしない。

 わたしはどこで会ってもティルマン様を無視している。
 事情を知らない人たちは、家格が上の令息に対するわたしの態度を非難し、礼儀がなっていないと眉をひそめて咎め立てることもあった。
 しかし、そのような人たちも時間が経つにつれて事情を知り、今では当然だと言わんばかりにわたしを庇い、擁護してくれるようになっている。

 次期公爵であるティルマン様がこれでは、アダルベルト家はもう終わりかもしれない。よほど裕福で金回りのいいご令嬢にティルマン様が見初められ、惚れ込まれない限り、どうにもならないだろう。

 まあそんな奇特な人がいるとも思えないけれど。
 顔だけは美しいから、無きにしも非ず、だろうか。

 いずれにしろ、わたしの知ったことではない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛するお義兄様のために、『悪役令嬢』にはなりません!

白藤結
恋愛
「ふん。とぼけても無駄よ。どうせあなたも『転生者』なんでしょ、シェーラ・アルハイム――いえ、『悪役令嬢』!」 「…………はい?」 伯爵令嬢のシェーラには愛する人がいた。それが義兄のイアン。だけど、遠縁だからと身寄りのないシェーラを引き取ってくれた伯爵家のために、この想いは密かに押し込めていた。 そんなとき、シェーラと王太子の婚約が決まる。憂鬱でいると、一人の少女がシェーラの前に現れた。彼女曰く、この世界は『乙女ゲーム』の世界で、シェーラはその中の『悪役令嬢』で。しかも少女はイアンと結婚したくて――!? さらに王太子も何かを企んでいるようで……? ※小説家になろうでも公開中。 ※恋愛小説大賞にエントリー中です。 ※番外編始めました。その後、第二部を始める予定ですが、まだ確定ではありません、すみません。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福

ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️ ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

処理中です...