お義兄様に一目惚れした!

よーこ

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09 なぜ婚約者がいないのか

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 お天気のいい昼下がり。
 今日は公爵邸に夫人教育を受けに行く日ではなく、友人のご令嬢方とお茶の約束も入っていない。だからわたしは自室で刺繍を刺して過ごしていた。

 傍目にはのんびりと穏やかな時間を楽しんでいるように見えるだろう。
 けれど実際は、わたしの頭の中はお義兄様のことでいっぱいで精神的に疲弊しきっていた。

 お義兄様のなにを考えて疲れているのかって?
 それは例の房事の実施練習についてだ。

 結局、お義兄様はあの授業を受けたのだろうか。 
 あの後すぐにティルマン様の浮気騒ぎがあったせいで有耶無耶になっていたけれど、実際はどうだったのか。
 気になって気になって仕方がない。

 これまでのわたしは、過保護と言えるくらいお父様とお義兄様に可愛がられてきた。それが婚約者の浮気現場を目撃以来、以前にも増して二人はわたしに優しくしてくれるようになっている。

 お義兄様は暇を見つけては会いにきてくれる。
 一緒にお茶をする回数は増えたし、お庭の散策のエスコートだって頻繁にしてくれるようになった。

 当主教育を受けているお義兄様はとても忙しい。それなのに、わたしのために時間を作って会いにきてくれるのだ。
 とても嬉しい。
 仕事が忙しい中、手間をかけさせて申し訳ないと思う気持ちはあるけれど、それよりも一緒にいられる喜びの方が勝ってしまう。

「お仕事、お忙しいのですよね? こんなに頻繁に会いにきて下さって、本当に大丈夫ですか?」
「いいんだよ。俺がクリスに会いたくてしていることだ、気にしないでくれ。迷惑ならもう少し控えるが……ん? もしかして俺は鬱陶しいか?」
「そ、そんなわけありませんわ! お義兄様とたくさんお話できて、わたしとても嬉しいです!」
「だったら良かった。はは、ビックリしたな。煩わしく思われていたのかと、少し焦ってしまった」
「ふふ、わたしがお義兄様を煩わしいと思うなんて、絶対にありえないのに」

 けれど、こうやってわたしと会って楽しくお話をした夜にも、お義兄様は他の女性と肌を合わせているのかもしれない。
 それを考えると気が狂いそうになる。

 それに、気になっていることがもう一つある。

 わたしより二才年上のお義兄様は今十七才。来年には成人の儀を迎える年齢だ。
 それなのに、お義兄様には未だに婚約者がいない。どうしてだろう。

 わたしの家、ギレンセンはかなり裕福な侯爵家だ。養子とはいえ嫡子であり、見た目も素晴らしく優秀なお義兄様は、ご令嬢方からの人気がとても高い。
 わたし自身、社交のために参加するお茶会などで、婚約者のいないご令嬢方からお義兄様のことを色々と質問されるのは、決して珍しいことではない。

 つまり、お義兄様との結婚を望むご令嬢はたくさんいるということだ。
 では一体どうして、今もお義兄様には婚約者が決まっていないのだろう。


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