お義兄様に一目惚れした!

よーこ

文字の大きさ
上 下
5 / 38

05 侯爵令嬢は見た!

しおりを挟む
 いつ見ても思う。アダルベルト公爵家の庭園は本当に素晴らしい、と。
 季節ごとに楽しめるよう趣向が凝らしてあって、見る者を飽きさせない様々な工夫が施されている。

 美しい色とりどりの花を見ていると、乱れていたわたしの心も落ち着きを取り戻してきた。

 もう少し庭を楽しみたいと思うものの、授業の開始時間も近いことだし、そろそろお屋敷の中に戻るべきかと考える。
 それに実を言うと、今わたしは誰にも許可を取らずに公爵邸の庭を歩き回っている。後で知られても怒られるとは思わないけれど、嫌味くらいは言われるかもしれないし、本来なら家令にくらいは承諾を得るのが礼儀だとわたしにも分かっている。

「今日はここまでね。庭園の散策は、いずれまた改めて承諾をいただいてからにしましょうか」

 残念そうにそう言うと、アンが笑顔で頷いた。

「それがよろしいかと思います。次はティルマン様にエスコートしていただいては?」
「そうね、それがいいわね……ん?」
 
 その時、どこかからか囁くような小さな声が聞こえた。
 足を止め、声のした茂みの方に視線を向ける。

 どうしてあんなところから人の声が?
 誰がなにをしているのだろう。

 他家の庭だし、未承諾だし、早く引き返すべきだと分かっているけれど、好奇心が抑えられずに足を一歩踏み出した。アンは良い顔をしなかったけれど、それを無視して茂みの方へと足を忍ばせる。

 近付くにつれて、声がはっきり聞こえだす。

「お、お嬢様、もう戻りましょう」

 アンが硬い声でわたしを引き留めた。
 きっとアンも気付いたのだろう、声の主がわたしの婚約者であるティルマン様のものだと。そしてティルマン様が一人ではなく、どうやら若い女性と一緒にいることにも、気付いたに違いない。

 しかも、どうやら二人が性交しているということにも、アンは気付いているはずだ。わたしが気付いたくらいなのだから、わたしより十才年上で既婚者でもあるアンが気付かないはずがない。

 覗いてみると、茂みの向こうの大木の根元にはティルマン様が腰を下ろして座っていた。その上にメイド服の女性が跨り、夢中になって腰を振っている。
 そのストロベリーブロンドのメイドはブラウスのボタンをすべて外していて、豊かな胸を剥きだしにしていた。ティルマン様が腰を突き上げるたび、彼女の胸がたわわに揺れる。

「あっ……ああっ、ティルマン様、深い!」
「まったく、真っ昼間のこんな庭先で欲しがるなんて、リリカは本当に淫乱だね」
「だって、ティルマン様のがすごく……熱くて硬くて気持ちいいからぁ……ああんっ!」
「気持ちいいから、なに?」
「すぐにまた入れて欲しくなっちゃうのぉ!」

 スカートに隠れているおかげで、こちらから結合部分はまったく見えない。けれど、二人が体を揺らすたび、ぐちゅぐちゅと淫らな水音が響いてわたしとアンの耳に届く。

「気持ちぃっ! もっと奥に、奥を激しく突いてぇ! ああっ、すごいぃ!!」
「そう強く締め付けるなよ。すぐに出ちゃいそうだ……ほらっ、ここか?」
「いやぁっ、奥ゴンゴンしちゃだめぇ……いいっ、もうイくっ……もうイっちゃうのぉ!」
「はぁ、リリカ、気持ちいね。僕もイきそうだ」

 ティルマン様が腰を動かしながらリリカの乳首に吸い付いた。

「ああんっ、先っぽダメぇ……はあん」

 気持ち悪い。吐き気がする。
 もうこれ以上は見ていられない。

 快楽に溺れている二人に気付かれないよう、わたしとアンは静かにその場から立ち去った。


しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【完結】愛する夫の務めとは

Ringo
恋愛
アンダーソン侯爵家のひとり娘レイチェルと結婚し婿入りした第二王子セドリック。 政略結婚ながら確かな愛情を育んだふたりは仲睦まじく過ごし、跡継ぎも生まれて順風満帆。 しかし突然王家から呼び出しを受けたセドリックは“伝統”の遂行を命じられ、断れば妻子の命はないと脅され受け入れることに。 その後…… 城に滞在するセドリックは妻ではない女性を何度も抱いて子種を注いでいた。 ※完結予約済み ※全6話+おまけ2話 ※ご都合主義の創作ファンタジー ※ヒーローがヒロイン以外と致す描写がございます ※ヒーローは変態です ※セカンドヒーロー、途中まで空気です

第二王子の婚約者候補になりましたが、専属護衛騎士が好みのタイプで困ります!

春浦ディスコ
恋愛
王城でのガーデンパーティーに参加した伯爵令嬢のシャルロットは第二王子の婚約者候補に選ばれる。 それが気に食わないもう一人の婚約者候補にビンタされると、騎士が助けてくれて……。 第二王子の婚約者候補になったシャルロットが堅物な専属護衛騎士のアランと両片思いを経たのちに溺愛されるお話。 前作「婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました」と同じ世界観ですが、単品でお読みいただけます。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...