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04 房事の授業
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十五才になったある日の午前中、わたしは家庭教師として淑女教育をしてくれているロマーノ夫人から房事の授業を受けていた。
この国の成人は十八才。わたしも三年後にはティルマン様と結婚して、アダルベルト公爵家に嫁入りする予定になっている。
貴族家に生まれた女性にとって最も大切なことは、嫁いだ先で後継ぎを産むこと。だから房事の授業は結婚前に必ず受ける。これはとても大切なことだ。
とはいえ、色々と詳しく説明されると聞いていてすごく恥ずかしいし、いくら夫とはいえ男性と密室で二人きりになるなんて(しかも裸)、少し怖く感じてしまう。それに破瓜の痛みはかなりのものだというし……。
相手がお義兄様ならよかったのに。だったら少しも怖くなんてないのに。
でも、それはあり得ないことだ。
わたしはそう遠くない将来、ティルマン様にこの身を捧げることになるのだから。
その時のことを考えていたわたしは、知らずかなり蒼ざめていたらしい。
気を使ったロマーノ夫人がわたしの気持ちを解すためにか、こんなことを言い出した。
「そう言えば、近い内にセドリック様が房事の実施授業を行うそうですよ。昨日、お相手をする夫人を推薦して欲しいと侯爵様から頼まれました」
房事の実施授業? それってなに?
ロマーノ夫人によると、それは男性がベッドの上で女性を喜ばせ、確実に孕ませることができるようになるために、実際に子作り行為をしてみることを意味するという。
つまり、経験豊かなどこぞの未亡人とお義兄様が、裸で抱き合って性交するということだ。
「……。」
震える手で口元を抑えた。
そうしないと、ショックでなにかを叫んでしまいそうだった。
考えただけで苦しくなる。辛くて悲しくて、涙が零れそう。
わたしだって分かっている。
知識のなさから初夜で恥をかいたり、妻の体を傷つけてしまったりすることのないよう、若い貴族男性が房事の指導を実施で受けることは、とても必要なことだ。
でも、それが分かっていてさえも、やっぱり悲しい。
そう遠くない未来、お義兄様はどこかの誰かを抱くだろう。
ただの義妹にすぎないわたしには、それを止めることなどできやしない。そんな権利は持っていない。
とても、とても悲しかった。
午後はいつも通り、アダルベルト公爵邸へと向かった。
約束より少し早目に到着してしまったのは、午前中にロマーノ夫人に聞いた話に動揺していたせいだ。お義兄様の近くにいることが辛くて、家を早く出てしまった。
おかげで授業までにはまだ少し時間がある。
馬車を降りたわたしは少し考えた末、公爵邸の門道を侍女のアンと二人でおしゃべりしながらゆっくりと歩くことにした。
いまだに心の中は、お義兄様の房事授業のことでいっぱいになっている。気落ちした気分も戻らないままだ。
こんな気持ちのまま夫人授業を受けるのは絶対に良くない。授業の後でお会いする予定のティルマン様にも失礼だ。
だから気持ちをしっかりと切り替えるべきだと思ったわたしは、玄関から反れて屋敷には入らず、公爵家自慢の庭園の方へ進んでいった。
美しい花々を見れば、きっと気持ちも落ち着くだろうと思ったからだった。
この国の成人は十八才。わたしも三年後にはティルマン様と結婚して、アダルベルト公爵家に嫁入りする予定になっている。
貴族家に生まれた女性にとって最も大切なことは、嫁いだ先で後継ぎを産むこと。だから房事の授業は結婚前に必ず受ける。これはとても大切なことだ。
とはいえ、色々と詳しく説明されると聞いていてすごく恥ずかしいし、いくら夫とはいえ男性と密室で二人きりになるなんて(しかも裸)、少し怖く感じてしまう。それに破瓜の痛みはかなりのものだというし……。
相手がお義兄様ならよかったのに。だったら少しも怖くなんてないのに。
でも、それはあり得ないことだ。
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「そう言えば、近い内にセドリック様が房事の実施授業を行うそうですよ。昨日、お相手をする夫人を推薦して欲しいと侯爵様から頼まれました」
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「……。」
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わたしだって分かっている。
知識のなさから初夜で恥をかいたり、妻の体を傷つけてしまったりすることのないよう、若い貴族男性が房事の指導を実施で受けることは、とても必要なことだ。
でも、それが分かっていてさえも、やっぱり悲しい。
そう遠くない未来、お義兄様はどこかの誰かを抱くだろう。
ただの義妹にすぎないわたしには、それを止めることなどできやしない。そんな権利は持っていない。
とても、とても悲しかった。
午後はいつも通り、アダルベルト公爵邸へと向かった。
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いまだに心の中は、お義兄様の房事授業のことでいっぱいになっている。気落ちした気分も戻らないままだ。
こんな気持ちのまま夫人授業を受けるのは絶対に良くない。授業の後でお会いする予定のティルマン様にも失礼だ。
だから気持ちをしっかりと切り替えるべきだと思ったわたしは、玄関から反れて屋敷には入らず、公爵家自慢の庭園の方へ進んでいった。
美しい花々を見れば、きっと気持ちも落ち着くだろうと思ったからだった。
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