17 / 70
16話
しおりを挟む
「……はぁ、とりあえず、ここでこの話は終わりにしましょう。」
「そ、そうですわね。」
頭痛を起こしそうなほどのことにアリアは一先ず話を逸らすことにした。目の前の食事に手を付け始めれば、ぎこちなくアムネジアも食事を開始する。するとしばらくするとアムネジアのほうから別の話題が提示される。話の内容はルトリック商会のことだった。
「この前、アリア様の紹介状を手に出向いてみたんですの!」
「アムネジア様自らですか?」
「えぇ、そうしたら、ドレス以外にも幅広く品をそろえていて、思わずいろいろと買い物してしまいましたのよ。」
「まぁ!」
にぎやかになった二人の様子をみて、お付は安心したように息を吐きだす。ヴィノスは正直こういった手合いの話は得意ではない。アリアの言葉を守り、傍に控えてるのみのヴィノスからしてみれば、面白くもない話を聞いているつもりもなかった。
ぼんやりと食堂内を見回せば、これまた面白そうなものが目に入ってきた。アリアに一言だけ告げて、ヴィノスは猫のようにそちらに歩を進めた。
「違うって言ってるでしょ!!」
「お、やってるやってる。」
アリアたちが座る席からだいぶ離れた、端のほうの席には何やら人だかりができていて、それを割って最前まで向かえば、先ほどまでアリアたちの会話の主役でもあったリリーがいた。
「違うって…貴族なんてかばう必要ないだろうが!」
「だからかばってないって!間違いなく、あの時アリア様は私のことを助けてくれたわ!」
「だから、じゃあなんでお貴族様が庶民をかばうんだって聞いてんだよ!」
「そんなの私に聞かないでよ!私が聞きたいくらいだもの!でも、アリア様はきっと庶民にも優しい方なんだわ!!」
しかし、その様子はアリアが教室で見るような周りを警戒しているような様子ではなく、もっと砕けた、いうなれば素に近いリリーだった。そしてリリーの正面。リリーと喧嘩をしている相手は、ヴィノスのクラスの生徒だった。リリーのように特待はとってはいないが、成績と実家が大きな商家の直属工房を営んでいるとかで入学してきた街の子供だ。
「こんのくそお花畑!!その賢い頭をもっと使えよ!明らかに裏があるんだろうが!!」
「じゃああんたこそあの場でアリア様が私を助けることに、何の裏があるっていうのよ!言ってみなさい!」
「……っぐぅ。」
「お、完璧なぐうの音じゃん。」
ヴィノスはその喧嘩を眺めながら、完全に野次馬と化していた。ところどころでる、リリーのアリア賛美に大爆笑したくなるが、そこはさすがに我慢していた。おそらく、リリーとその相手は朝から噂として流れてきた話を理由に喧嘩でもしているのだろう。さながら、アリアに喧嘩を売るとはどういうことだ、というヴィノスのクラスメートと、誤解を解きたいリリーというところだろうか。
「あれ、ヴィノスじゃん。こんなところで何してんの。」
「あれ、ユーリじゃん。お前も野次馬になりに来たの?」
「当然、面白そうだしな。」
ヴィノスと同じように人ごみをかき分けてやってきた男がヴィノスに声をかける。そこにいたのはクラスでよく話すようになったユーリ。男爵子息で、老人のような白髪と理知的な眼鏡をかけているが、ヴィノスと同じクラスだから、成績は別にそこまでよろしくない。そんな彼はヴィノスの不遜な態度も許容してくれる数少ない人物だ。性格が似ているというか、自分が良ければそれでいい、という性格がヴィノスと波長が合ったのだ。
「で、これ何の騒ぎ。お前がお嬢のそば離れるのって珍しくね。」
「そのお嬢に喧嘩を売ったと噂の女が、面白いこと言ってんだよ。」
「へぇ、面白そうじゃん。あれ、俺らと同じクラスの庶民君だろ。名前は確か…えーーっと、レイド?ジェド?」
「ボイドじゃね。」
二人がそんなことを言っている間も、目の前の喧嘩は進んでいく。どうやら、リリーと男子生徒は同じ街の出身らしい。リリーに対する心配からくる言葉をかけても、そのすべてをリリーは突っぱねて自分の理想のアリアを主唱する。
「このわからずやエド!!」
「違うじゃん。」
「エドだったな。」
目の前で繰り広げられる喧嘩の熱量とは真逆のテンションで話す二人が、傍にいる野次馬から注目を集め始める。しかし、二人は最前列にいるにもかかわらず、そんなのを無視して会話を広げていく。
「私の窮地を、アリア様が助けてくれた!そこに裏があったとして何なのかわからないなら、きっとアリア様は優しくていい人なのよ!それでいいじゃない!」
「あれ、お前んところのお嬢ってそんないいひとだっけ。俺が聞いたのって絵にかいたようなわがまま貴族か、お前から聞く意味不明な二重人格者なんだけど。」
「それ本人に行ったらキレられるぜ老人野郎。」
「先に俺がキレてやろうか?何度も言ってるけど白髪じゃなくて白髪な?」
いつも通りともいえる会話をして、ヴィノスはさてと踵を返す。それを物珍しそうにユーリが見つめた。ユーリが知るヴィノスは面白そうなことと、金に目がない男だ。これから先、この喧嘩は堂々巡りを繰り返して盛り上がっていくだろう。それに野次でも投げてやれば面白いくらいに火が広がりそうなのに、ここで帰るのかと。
「戻んの?」
「そろそろお嬢がお友達との飯を終わらせるころだからな。ユーリ、その喧嘩ちょうどいいところで終わらせといてくんね。」
「え、なんで。」
「気分。」
じゃ、よろしく~と後ろ手に手を振って歩いていくヴィノスの背中をあきれたような視線で見つめたユーリは仕方がないというように喧嘩の渦中に入っていく。気が付けば野次馬は相当広がっていて、結構な規模になっていた。これ以上行けばさすがにヴィノスの主であるアリアのもとにも騒ぎが届いていたことだろう。そう考えると、この学園の馬鹿みたいに広い食堂も、よく仕事をしていると思う。
「にしても、あいつってあんなに主のこと気に掛けるタイプだっけ。」
どう考えても友人らしくない行動に一人、ユーリは首を傾げた。
「そ、そうですわね。」
頭痛を起こしそうなほどのことにアリアは一先ず話を逸らすことにした。目の前の食事に手を付け始めれば、ぎこちなくアムネジアも食事を開始する。するとしばらくするとアムネジアのほうから別の話題が提示される。話の内容はルトリック商会のことだった。
「この前、アリア様の紹介状を手に出向いてみたんですの!」
「アムネジア様自らですか?」
「えぇ、そうしたら、ドレス以外にも幅広く品をそろえていて、思わずいろいろと買い物してしまいましたのよ。」
「まぁ!」
にぎやかになった二人の様子をみて、お付は安心したように息を吐きだす。ヴィノスは正直こういった手合いの話は得意ではない。アリアの言葉を守り、傍に控えてるのみのヴィノスからしてみれば、面白くもない話を聞いているつもりもなかった。
ぼんやりと食堂内を見回せば、これまた面白そうなものが目に入ってきた。アリアに一言だけ告げて、ヴィノスは猫のようにそちらに歩を進めた。
「違うって言ってるでしょ!!」
「お、やってるやってる。」
アリアたちが座る席からだいぶ離れた、端のほうの席には何やら人だかりができていて、それを割って最前まで向かえば、先ほどまでアリアたちの会話の主役でもあったリリーがいた。
「違うって…貴族なんてかばう必要ないだろうが!」
「だからかばってないって!間違いなく、あの時アリア様は私のことを助けてくれたわ!」
「だから、じゃあなんでお貴族様が庶民をかばうんだって聞いてんだよ!」
「そんなの私に聞かないでよ!私が聞きたいくらいだもの!でも、アリア様はきっと庶民にも優しい方なんだわ!!」
しかし、その様子はアリアが教室で見るような周りを警戒しているような様子ではなく、もっと砕けた、いうなれば素に近いリリーだった。そしてリリーの正面。リリーと喧嘩をしている相手は、ヴィノスのクラスの生徒だった。リリーのように特待はとってはいないが、成績と実家が大きな商家の直属工房を営んでいるとかで入学してきた街の子供だ。
「こんのくそお花畑!!その賢い頭をもっと使えよ!明らかに裏があるんだろうが!!」
「じゃああんたこそあの場でアリア様が私を助けることに、何の裏があるっていうのよ!言ってみなさい!」
「……っぐぅ。」
「お、完璧なぐうの音じゃん。」
ヴィノスはその喧嘩を眺めながら、完全に野次馬と化していた。ところどころでる、リリーのアリア賛美に大爆笑したくなるが、そこはさすがに我慢していた。おそらく、リリーとその相手は朝から噂として流れてきた話を理由に喧嘩でもしているのだろう。さながら、アリアに喧嘩を売るとはどういうことだ、というヴィノスのクラスメートと、誤解を解きたいリリーというところだろうか。
「あれ、ヴィノスじゃん。こんなところで何してんの。」
「あれ、ユーリじゃん。お前も野次馬になりに来たの?」
「当然、面白そうだしな。」
ヴィノスと同じように人ごみをかき分けてやってきた男がヴィノスに声をかける。そこにいたのはクラスでよく話すようになったユーリ。男爵子息で、老人のような白髪と理知的な眼鏡をかけているが、ヴィノスと同じクラスだから、成績は別にそこまでよろしくない。そんな彼はヴィノスの不遜な態度も許容してくれる数少ない人物だ。性格が似ているというか、自分が良ければそれでいい、という性格がヴィノスと波長が合ったのだ。
「で、これ何の騒ぎ。お前がお嬢のそば離れるのって珍しくね。」
「そのお嬢に喧嘩を売ったと噂の女が、面白いこと言ってんだよ。」
「へぇ、面白そうじゃん。あれ、俺らと同じクラスの庶民君だろ。名前は確か…えーーっと、レイド?ジェド?」
「ボイドじゃね。」
二人がそんなことを言っている間も、目の前の喧嘩は進んでいく。どうやら、リリーと男子生徒は同じ街の出身らしい。リリーに対する心配からくる言葉をかけても、そのすべてをリリーは突っぱねて自分の理想のアリアを主唱する。
「このわからずやエド!!」
「違うじゃん。」
「エドだったな。」
目の前で繰り広げられる喧嘩の熱量とは真逆のテンションで話す二人が、傍にいる野次馬から注目を集め始める。しかし、二人は最前列にいるにもかかわらず、そんなのを無視して会話を広げていく。
「私の窮地を、アリア様が助けてくれた!そこに裏があったとして何なのかわからないなら、きっとアリア様は優しくていい人なのよ!それでいいじゃない!」
「あれ、お前んところのお嬢ってそんないいひとだっけ。俺が聞いたのって絵にかいたようなわがまま貴族か、お前から聞く意味不明な二重人格者なんだけど。」
「それ本人に行ったらキレられるぜ老人野郎。」
「先に俺がキレてやろうか?何度も言ってるけど白髪じゃなくて白髪な?」
いつも通りともいえる会話をして、ヴィノスはさてと踵を返す。それを物珍しそうにユーリが見つめた。ユーリが知るヴィノスは面白そうなことと、金に目がない男だ。これから先、この喧嘩は堂々巡りを繰り返して盛り上がっていくだろう。それに野次でも投げてやれば面白いくらいに火が広がりそうなのに、ここで帰るのかと。
「戻んの?」
「そろそろお嬢がお友達との飯を終わらせるころだからな。ユーリ、その喧嘩ちょうどいいところで終わらせといてくんね。」
「え、なんで。」
「気分。」
じゃ、よろしく~と後ろ手に手を振って歩いていくヴィノスの背中をあきれたような視線で見つめたユーリは仕方がないというように喧嘩の渦中に入っていく。気が付けば野次馬は相当広がっていて、結構な規模になっていた。これ以上行けばさすがにヴィノスの主であるアリアのもとにも騒ぎが届いていたことだろう。そう考えると、この学園の馬鹿みたいに広い食堂も、よく仕事をしていると思う。
「にしても、あいつってあんなに主のこと気に掛けるタイプだっけ。」
どう考えても友人らしくない行動に一人、ユーリは首を傾げた。
1
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
会うたびに、貴方が嫌いになる
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。
アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる