なんでも屋

平野 裕

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 その日から、アレンは、毎日学校から帰ってから棚の上のその人形に話しかけた。学校のこと、自身のこと、とにかく今日あったことを全部。
「アニーみて、これ。ひどいと思わないか?あいつらがやったんだ。いつもぼくを殴ったり蹴ったりする。痛いって言ってるのにさ。」
別の日にも、
「やぁ、ただいま。今日はつまらなかったよ。ねぇ、アニー?君はここに居てつまらなくはないかい?せっかく、君には立派な手足がついているんだ。その目を開けて、動いてもいいんだよ。」
また次の日にも、
「ねぇアニー。君が目を覚ましてくれたらきっとぼくにとって一番のお友達になると思うんだ。ぼくらはきっと親友になれるよ。だって、こんなにも毎日話しているんだもの。」
 そんな日が続いたある日。いじめっ子たちの猛攻に疲れたアレンは、帰る気にもなれず、放課後に教室で眠り込んでしまった。どのくらい時間がたっただろう。アレンは、トントンと、自分の肩を叩かれた感触で目を覚ました。手を叩いた主を見ようと顔を上げると、そこには翡翠の瞳の、淡い髪色をした、黒と白のツートンカラーのワンピースを着ている女の子が立っていた。
「ねぇ、もう学校は終わったよ。帰らないと暗くなっちゃう。」
「…君は。」
アレンは目の前の、人形と瓜二つの少女を見つめた。違うところと言えば、いつも閉じられていた目が、今日は開いているところだろうか。
「私?私はアニー。君は?」
「ぼくは、アレン。」
驚いた。名前まで一緒だなんて。あの人形はそっくりな相手と出会える魔法の人形だったのかもしれない。
「ぼく、君と友達になりたい。」
気づいたらそう口をついていた。今を逃したらもう出会えない、アレンはそんな予感を感じていた。少女は驚いたように目を丸くしたあと、優しく微笑んでぐいっと顔を近づけた。
「いいよ!君、いつも一人でいるから気になっていたの。よろしくアレン。」
 不思議な少女は校門を出ると、アレンとは反対の方向へと帰路を辿っていった。次の日から、アレンは毎日が楽しくて仕方がなかった。アニーはアレンのことをなんでも知ろうとしてくれた。その度にアレンは自分のことを話した。まさか、人形と話していたことが役に立つなんて!そう思い、アニーに求められるがままに何でも話した。
 数週間経った頃、アレンとアニーはいつも一緒にいる、よき理解者となっていた。いつものように二人で今日あったことを話そうと校庭のベンチに腰を下ろした時、アレンは、そろそろ家でも遊ぼうかと思い
「アニー、今度うちへおいでよ。お家で遊ぼう?」
と思い切って問いかけた。しかし、アニーは申し訳なさそうな顔をして、
「ごめんなさい。私、両親が厳しくて学校でしか遊ばせてもらえないの。」
と言った。そしてすぐに「それで今日はなにがあったの?」と促した。アレンはそれなら仕方がないと、いつものようにその日あったことを話した。
「聞いて、今日はね凄いことをしたんだよ。」
「凄いこと?」
「うん。ぼくをいじめていたやつらにね、ぼくはもう友達ができた!一人じゃなくなったからもうぼくに構うな!って言ってやったんだ!。」
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