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120 番外 さらに11年後・彼女と彼のバレンタイン・後(2.14日投稿)

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 私は踏み潰された道をゆっくりと進む。
 既に借りた剣は抜いた状態だ。

 少し人より違うからなんだ。
 その力があってもこれじゃ役に立たない……。
 喉の渇きを抑える為に、私は果実飲料を飲む。
 さきほどライザンさんから貰った物だ、行く前に半分飲み。
 今は残った分を流し込む、リンゴの甘い味がすうっと喉に流れると気持ちも落ち着いてきた。


 あの後、私が盗賊を倒しに行きます! そういうとライザンさんは必死で反対した。
 少し力があるからといっても子供です、町に戻って状況を知らせばいいじゃないですか? と。

 でも、私が反撃をした時、盗賊は聖騎士がいると言った。
 それにアジトは西とも。
 ここで叩かないと逃げられる可能性が高いし、捕まっているらしい人質は殺される。
 その事を伝えるとライザンさんは悲しそうに首を振った。

 さっきまで微笑んでくれていた女性や、警備の人達が苦悶の顔で手当てを受けているのだ。
 

 私がしなくて誰かやるんだ!



「本当にあった……」

 私は思わす出た声を必死で押さえた。
 綺麗ではない作りの小屋が数個見えた。
 
 外に人の気配はしない。
 ゆっくりと近づいて扉をそっと押した。

 一つ目の小屋は誰も居なかった。

 二つ目の小屋も誰も居ない。

 六つ目の小屋までたどり着くと、女性の泣く声がする。

「誰かいますか……?」
「た、助けて……」

 私は中へと入ると、牢があり裸の女性、鉄の鎖につながれている。

「ああ……た、たすけて」
「い、いま助けます。ええっと鍵は……」

 扉の前に鍵束が落ちていた。
 
「突然男達が逃げていって……お前は餓死しろって……」
「他の人は?」

 女性は黙って首を振った。
 牢の鍵で扉を開けると、中へと入る。
 私と違って大きな胸がついている、羨ましい。
 女性の足かせと、首の鎖を取ると女性は大きく伸びをした。

「んんんんんんー動けるって素敵っ! ありがとう、ヒバリ様っ!」
「え? なんで名まっ」

 私の口に何かをあてられた。
 思いっきり息を吸い込むと目の前のが暗くなって…………。


 ◇◇◇

 小さな部屋の中にいた。
 ああ、これは夢だ。
 願えばなんでも出てくる部屋、でも、私しかいない部屋。
 私を呼ぶ声が聞こえる……。

 赤い髪の少女が立っていた。

 だれ?
 『うーん……残留思念というやつかのう』
 残留?
 『どうする? 力を使うか?』
  力って……?
 『時を……ま、焦る事もあるまい、今回は大丈夫そうだしな』

 ……。

 …………。

「ろ――――」
「――――せ――――お――――」
「まぁまて……目が覚めてからだ」


 私は腹部の痛みで目が覚めた。

「うぐううううううううげっほげほげほ」
「やっと起きたか」


 目の前には大勢の大人がいる。
 見知った顔を発見して思わず声を掛けた。

「ライザンさん?」
「これはこれは、おはよう御座いますヒバリ様」
「お、おはようございます……?」

 手足を動かそうとして重たいのに気づいた。
 両手両足が壁へと繋がれていた。

「え? あのこれは??」
「お頭! もうやっちまおうぜ!」
「ご開帳ってか」

 汚い手が私の体を触る。

「やっ! ど、どこさわってるのよ!」

 私は鎖を引きちぎるのに力を入れた。
 
 入れた。

 入れたのに……。

「不思議そうな顔をしてますね」
「ラ、ライザンさん? 脅されているんですよね……助けは呼んだんですよね?」
「はっはっはっはっはっはっは、まだわからんがこのガキは。
 お前は捕まったんだよ。
 ライザンなんてのは偽名の偽名だ。
 本当の名は人身売買を専門に動く盗賊団かしら、ライオット様の手によってな。
 本当忌々しい夫婦だ、俺様の組織を何個も潰しやがって……」
「そ、そん……」

 騙された?
 あんなに人が良さそうなのに……?

「親が旅行中と聞いてな。お前を人質に取ったらどうかとな、正義感あふれるお子様は扱いやすくてイチコロ過ぎるわ」
「じゃ……わざとに……」
「たりめえよ、乗ってた女含めて全員手下だ。
 だから子供だ子供だって言い聞かせたのによ……大人のいう事を聞かないお子様で、お頭は悲しいぜ。
 本当の移動馬車屋は馬の手配が出来ずに今日は来ないぜ」

 笑いながら言うライゼン。
 私はもう一度手足に力を入れた。
 やっぱり外れない……。

「っと、お前が飲んだ飲料な、魔力を消すのが入っている。
 最も効果時間は短いが、飲め」

 ライゼンは、私の口にビンを入れると強引に飲ませてくる。
 吐き出したいのに吐き出せない。

「さて、身体検査だ、命さえあればいいからな」
「くっ」

 ライゼンは私の体を触ってくる。
 耐えろ、どんな事をしても生き残る事を教えてくれたパパ。
 命だけあれば……腕をとられようが眼をえぐられようが、そういう風に教えてくれた。
 今は耐える時……。

「なんだこれ? 彼氏へのプレゼントか?」
「あっ……」

 チョコだ。
 ライゼンはチョコの箱を破くと中身を確認する。
 鼻を引くつかせると目の前で食べた。

「チョコだな?」
「…………チョコ」

 私が、私がプレゼントするチョコなのに。
 なんで悲しい気持ちになるんだろう……。
 クロノのせいだ、クロノがいるからこうなるんだ。

「ク……クロノのばかあああああああああああああああ」
「おうよ、そのクロノっての奴の事なんざ忘れさせてやるからな」

 私は大きな声で叫んだ。
 八つ当たりなのはわかっている、でも、叫びたかった。

「ヒバリさん。今回も僕は悪くないと思うんだけど」
「え?」

 目の前にクロノがいた。
 全員がクロノを見ている、頭領のライゼンさえも呆気に取られている。

「てめえ何者だ、いや、どこから……」
「母さんから、旅馬車が動かないようだから迎に言って来いって言われて……途中で戦闘した後があったし、その後が森へと続いていたから念のためと思って、鎖につながれているけど力は?」

 突然聞くので私は黙って首を振った。
 悲しそうな顔をしてクロノは呟く。

「そっか……まっていてね、直ぐ終わるから」

 その動きは早かった。
 私の動体視力も落ちているのか、怒声とうめき声は気づくと終わっていた。
 残っていたのは、悪党一味の悲鳴と泣き声と呪詛である。

「ええっと、殺したの……?」
「いや、父さんは悪人は殺してもかまわんって言うんだけど……取り合えず武器が持てないように両手の指十本と、逃げ出さないように片足を折ったから平気だよ。町に行けば直す人もいるだろうし」
「うわ……」 

 凄い爽やかにいうので、怖い。

 クロノは普段怒らない分、怒ると怖いのよね……怒ってるのよねこれ。

 私の拘束されている鎖を外すと特に何も言ってこない。

「ちょっと、何かいいなさい……よ……」
「言うっても、ヒバリさんに僕から何かいう事でもないし。
 怪我が無くてよかったとしか」
「馬鹿…………せっかくチョコも用意したのに」
「チョコ? あれ、ヒバリさん? そのあの、泣かないで」

 なんでクロノはこんなに優しいんだろ。
 森で熊が出た時だって、私を庇って怪我をした、直ぐに治ったけど。
 安心したら涙がでる。

「泣いてないもんっ!」
「僕からは泣いてるようにしか……」


 ◇◇◇

 フェイシモ村に行くのは結局翌日になった。
 近くの町までいき、今回の事を話す。
 捕まえた盗賊の引渡しや私達の身元の確認などで一日が潰れたからだ。

 今は徒歩で向かっている所だ。

「ヒバリさん、僕がいう事でもないけど単身で何でも解決しようとするのは辞めたがいいよ」
「わかってるわよ! しつこい!」
「うう……わかってくれれば僕も胃が痛くならないのに……何度目の忠告だろう……」
「何か言った?」
「言ってないです、あそうだ。これ」

 クロノは私へと箱を手渡してきた。

「なにこれ」
「何ってチョコ。昨日ほらチョコ取られて泣いていたから。
 よくわからないけど、気分晴れるかなって」
「あのねー……なんでチョコ取られたぐらいで泣かないとダメなのよ」
「ちがうの!?」
「ちがうわよ! ほら貸しなさい」

 私はクロノからチョコの箱を奪うと中身を取り出す。
 そしてクロノの口元へと無理やり突っ込んだ。

「な、なに!?」
「チョコよ! 食べたわね!」
「食べたというか、食べさせられて……甘い」

 私も一口食べる、うん。美味しい。

「いい! これはお礼。そうお礼なんだから、忘れるんじゃないわよ」
「訳が解らなくて忘れように無いよ……」

 ◇◇◇

 クロノの不思議が解消されるのは、一月後のホワイドデーという習慣をヒメヒナから教わるまで続くのであった。
 そして『君は異性からの特別な気持ちのこもったチョコを食べたんだ。つまりはそういう事だよ』とからかわれもっと苦悩する。

 そうヒメヒナはあえて教えない、義理チョコという習慣を。
 
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