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三章

112 マリエルの決意

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 フェイシモ村が襲われた。
 僕は直ぐにマッシュへと詰め寄る、二階の窓に飛びつくとマッシュが驚いた顔をしているが気にしない。

「何時っ!」
「何時って……」
「フェイシモ村が襲われたって話です。帝国って事は、王国軍は?。
 いや、王国軍はだめか……、あそこには何も無い。
 襲う理由がわからない」
「俺に言われても、報告を受けただけだ」
「だったら情報を集めるのがっ」
「こらこらこらこら」

 マリエルに肩を止められた。
 気づけば、右手でマッシュの服を掴んでいた。
 両腕で僕の腕を抜けようと苦しい顔をしている。

「ご、ごめん」
「ゲホッゲホッ……知ってる村なのか?」
「ヴェルの故郷なのよ」
「お前ら二階は玄関じゃないし、窓から入るなげほっ」

 確かに二階の窓から入る事もなかった。
 間に合うか、今の僕の足なら三日ぐらい走り続ければ、イヤでもそれじゃ遅い。
 報告を受けた事を考えると既に進行中か襲われた後。
 あっ、コーネリアとナナが一緒のはずだ。
 いやでも、彼女らは正直にいうと弱い……。

 クソっ!。

 右手に衝撃が走った。
 気づけば壁を壊していて我に返った。

「ご、ごめん」
「いや、そのなんだ、心配なのはわかるが、建物を壊さないでくれ」
「ええっと、少し気分を変えてくる」

 僕は二階の窓から外へと飛び降りた。
 背後で僕を呼び止めるマリエルの声がするけど、今は一人になりたい。
 夜明け前の城下町へと僕は走った。

 
 走ったとしても、あてはない。
 直ぐに徒歩にかわった。
 以前来た事のあるホテルの前を歩いていた、メイド姿の女性が玄関周りを高速で掃いている。
 その前を通り過ぎようとすると、背後から呼び止められた。

「もし」
「え?」

 振り返ると、掃除の途中だろうに僕に声をかけてきたメイドさん。

「なんでしょう?」
「どこかでお会いしましたでしょうか? この宿に泊まられたとか?」
「いいえ。僕みたいな人間はこんな高級そうな宿に泊まれませんよ」
「それは失礼しました。当ホテルでは割引なども行っていますのでこちら、割引カードですのでお使いください」
「ど、どうも」

 僕がカードを貰って立ち去ろうとするともう一度、もしと、呼ばれた。
 あーもう、今度はなんだろう。

「何の用でしょうか?」
「いえ、そこを上がって左に抜け、噴水があります、そこを斜め右へ抜けますと人知れず古びた公園があります」

 なぜ急に公園の話なんだろう。
 僕が黙るとメイドさんは続きを話す。

「お一人で泣くには便利な場所ですので」
「えっ……?」
「申し訳ありません。以前も同じような顔で泣いていらしたので、それでは失礼します」
「えっえ……」

 僕が声をかけるまもなくメイドさんはホテルへと入っていった。
 以前って、僕とメイドさんが出会ったのは前の世界だ。
 色々聞きたいけどホテルの中へと入ってしまったし、入れ替わるように出てきた男二人が僕を見ている。

 逃げるように僕はその場所を後にした。
 知らずに噴水前へと出た。
 あのメイドさんが行っていた道も発見出来た。

 一人で泣くか……。
 泣くというよりは怒りだろう。
 何も出来ない自分に怒りが出る。
 
「ヴェル……」

 聞きなれた声で僕は振り向く。
 マリエルが立っていたからだ。

「どう、落ち着いた?」
「すこしは」
「そ。もしかして自殺するんじゃないかって思って」
「僕が?」

 マリエルは近くの椅子に座ったので、僕もその横へ座る事になった。
 と、いうかマリエルが必死に隣に来いと、椅子を叩いていたからだ。

 暫く僕とマリエルは黙って町並みを見ていた。
 木々が植えてありひっそりとした公園。
 少し高い場所にあるのだろう、港のほうまで見渡せる。

「私が聖騎士になったのってね、認めらられたかったから」
「え?」
「それだけってもないけど、私の父も聖騎士でね。ファーの両親とも仲が良くて……」
「ファーの両親って国王だったんだよね」
「うん、夏の休暇中に殺された。
 父はその責任を取って国外追放、本当は打ち首だったんだけど恩赦って奴?。
 もちろん家も取り潰されて貴族剥奪。
 一般市民として暮らすはずだったんだけど、私には魔力があった! ……らしい」
「らしいってのは?」

 マリエルはにやけた顔をする。

「私にヒバリ様を紹介したのはファーだし、魔力があるって言ったのはヒバリ様。
 そこで、ああ自分にも父と同じ力があるんだって思って……。
 そこからは、必死に訓練したわ」
「役に立つように?」
「がんばって出世して出世して、危険な任務を受けて、でも周りばっかり死んで行って私だけ生きてるの」

 なんて答えればいいんだろうか……。

「それは、ええっと神が。
 いや……神は居ないかな、でもまだ生きる運命だったとしか」
「ありがと、ヴェルも同じ事よ」
「あ……」
「親しい人が死んでいって自分が何も出来なくても、いいえ、何かした結果で親友が死んでいってもヴェルのせいじゃない」
「マリエル……」
「ヴェル」

 慰めに来てくれた僕とマリエルは、見詰め合う。
 お互いに無言で僕はそっとマリエルの背中に手をあてた。
 マリエルが少し頷いて目を閉じた。
 僕も目を閉じてマリエルの顔と重なった……。

 ふいに水が流れる音が聞こえてきた。

 ジョロロロロロロロ……ジョロ……チョロ……。

 あれ、この公園噴水なんてあったかな。

 マリエルの顔が突然離れた。
 草むら目掛けて手ごろな石を突然なげると、石をキャッチする音が聞こえた。

「誰っ!」

 ガサガサと物音を立て出てくる人物。
 赤毛の髪の少女。
 つい半日前まで一緒だったヒメヒナがそこに居た。

「なななななんでここに! 見てた!? 聞いてた!!?」
「一つだけ言わせてもらいたい、聞きたくて聞いたんじゃない。
 こう見えても淑女でね、気配なかっただろ?」

 全く気づかなかった……。
 マリエルが見つけるまでわからない。

「ええっと、なんで草むらに」

 僕は当然の疑問を聞いたつもりなんだけど、マリエルがヴェルっ! と怒り出す。

「なぜって、私が野ショ――――」
「まった! さっきの水の音って」
「だから、私の出した音だろう。
 こう見えても我慢したんだよ? 知ってるかい? 人は……まぁ私は純人間ではないがその辺は目をつむりたまえ。
 で、人間は生理現象には逆らえないんだよ。
 そもそも私が座りだしたらヴェル君が突然来るし、その後にマリエル君まで来た」
「聞きたくなかった……」
「君たちが聞くから答えたまでだ」

 ヒメヒナはそういうと、ズボンの周りの位置確認を始めた。
 文字通り用はすんだから、後はごゆっくりと言うと、公園を出ようしている。

「まったあああああ! ヒメヒナさんって帝国ですよね!」
「マリエルだったね、君ね、仮にも今の王都で帝国の人間ですよねと言わないほうがいい。で、それが?」

 あ、そうか。
 解決にならないかもしれない、でも、聞いてみるしかない。
 僕が言うよと、声をかけた。

「フェイシモ村が襲われた、そのわけを知りたい」 
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