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三章
97 集まる仲間
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暗闇の練習場で僕の体は大きく後ろに飛ばされる。
足を地面へとつけ、地面には僕が吹っ飛んだ後が二本の線になって付く。
僕は前を向いた。
小さな松明で照らされた光。
その中で怒り顔のマリエルが、右手を前にだし、僕を殴ったままの形で固まっている。
少し前、練習場に最初に来たのは僕が最初だったらしく、マリエルは驚いた顔をして僕を見ていた。
そして、毛布と食料を手渡した後に、突然殴られたのだ。
両腕でガードしたけど……。
拳を戻すとマリエルは叫んでくる。
「なんで、あんたがっ!
ヴェルがここに来るのよっ!!!!」
なんでと言われても、心配だったからとしか言いようが無い。
考えていると、直ぐに間合いを詰められて二激目の拳が飛んでくる。
顔面を狙っているのがわかった。
避けるよりは受け止めたほうがいいかもしれない。
とっさに手で受け止めた。
「フローレンスちゃんはどうしたのよっ!」
「どうしたっても、宿にいるとしか……」
マリエルの顔が近い。
「せっかく、せっかくよ!? 気持ち切り替える事が出来たのに」
「それって、僕らを置いてきたって奴だよね?」
「ええ、そうよ! そもそもヴェルっ彼方が悪い!」
一緒に戦うと決めた僕が悪いと言われても……。
でも、マリエルの怒りは収まりそうにないし。
「いいっ? 私が、どんなにアプローチかけても綺麗に逃げるじゃないっ!」
逃げる?。
アプローチ?。
ああ、極度なスキンシップな事だよね。
「いやあれは、露骨というか前の世界に囚われた思いは悪いと思って」
僕の腹に突然痛みが走る。
「そういう所だって言ってるのっ!」
「ぐっ」
思わずひざが落ちる。
しゃがみ込む僕に対して、マリエルは仁王立ちで前に立っている。
痛い、痛いけどまだ我慢は出来る。
「あーもうこれは、私の事そんなに好きじゃないのかなって思った矢先に、今回の事でしょっ。
だからこそ、フローレンスちゃんと部屋を一緒にして吹っ切ったのに、なーんーでーヴェルが最初に来るのよっ。
だいたい、フローレンスちゃんに何て言ってきたのよっ」
下を向いたまま痛みを堪えて、さっきまでの事を簡単にいう。
もちろん、抱いての部分や下着姿だったなどは伝えない。
ただ、締め出されて、マリエルの所に行ってあげてと説得されたと伝える。
さっきまで怒り状態のマリエルからため息がもれた。
少しは怒りは収まったらしい。
「まったく、馬鹿」
「馬鹿って……」
「馬鹿よ、ヴェルも私も知っている未来と違う事がおきてるのよ。
あのままフローレンスちゃんと居れば二人は助かる可能性が大きくなるし、幸せな未来があるじゃないの」
「いや、そうなんだけど、僕からしたらマリエルが助かる未来のために戻ってきたんだし」
「本当に馬鹿、ヴェルは私の事が好きであってる?」
「えーっと……」
好きか嫌いかで言えば好きだ。
男女の恋愛でいうと、やっぱり好きなのだろうか……。
前の世界で死んだ彼女を思って戻って来たわけだし。
だめだ、曖昧な答えをだしたら、マリエルや僕を送り出したフローレンスお嬢様の気持ちを裏切る。
痛みに堪えて立ち上がる。
マリエルをまっすぐみると、マリエルの視線が少し動く、緊張してるのが見て判った。
「僕はマリエルが好きだ」
「……自分のために、ヴェルを裏切るかもしれないわよ?」
「僕は人と変わっているらしいし、それでもいいと思う」
「今だったらまだフローレンスちゃんの所へ戻れるわよ……」
黙って首を振る。
マリエルの顔がほんのりと赤くなる。
「最初にヴェルが来て嬉しかったけど怒りのほうが強かったわ。
でも、来てくれてありがとう、私もヴェルが好きよ」
マリエルは僕に突然顔を重ねる。
驚くと直ぐに顔を離した。
「にしても、お腹痛かったんじゃない? 割と本気で殴ったから」
マリエルはしゃがむと、突然僕の服をめくる。
自分も殴られた場所を見た。
拳の大きさに青くなっている、痛いはずだ。
「聖騎士の力っても、擦り傷などに強いだけで打ち身には弱いのよねー」
「いっ」
「あ、ごめん、痛かった? 塗り薬あったかなぁ……。
あ、服抑えておいて」
マリエルはしゃがんだままに腰の袋を開けている。
塗り薬を探しているのだろう。
僕らへと足音が近づいてくる。
僕もマリエルも足音のほうへ顔を向けると、アデーレが珍しく困惑した顔で近づいてきた。
「その、早く来すぎた」
何のことかと僕とマリエルはアデーレを見た。
あ……、僕は今立っている。
そしてマリエルはしゃがんで僕の前にいる、しかも僕はいま腹を出したままだ。
勘違いさせた事に気づいたマリエルは急に立ち上がった。
「ちがっ! アデーレ何か勘違いしてるようだけど手当てよ」
アデーレは僕のほうを見てくる。
僕も何度も頷く。
「そういう事にしておきます」
「いや、ちがうっ。
これは殴られた結果で」
アデーレの後ろから猛スピードで走ってくる子が見えた。
話を中断して三人で眺めているとミントが走ってきた。
その後ろには、あまり絡んだ事がないサナエという子もいる、確か短剣が得意と聞いた事がある。
「まったく、馬鹿ばっかりよね」
マリエルが嬉しそうに吐き捨てると、アデーレが続く。
「これでも、途中で会った数人はチナやクレイと一緒に説得して帰らせた。
ミント副隊長に、サナエ、そして私が代表して来たという所です」
「まったく、人生棒に振る事ないのにねー」
僕に同意を求められても困るけど、文句をいうマリエルの顔は少し嬉しそうだった。
足を地面へとつけ、地面には僕が吹っ飛んだ後が二本の線になって付く。
僕は前を向いた。
小さな松明で照らされた光。
その中で怒り顔のマリエルが、右手を前にだし、僕を殴ったままの形で固まっている。
少し前、練習場に最初に来たのは僕が最初だったらしく、マリエルは驚いた顔をして僕を見ていた。
そして、毛布と食料を手渡した後に、突然殴られたのだ。
両腕でガードしたけど……。
拳を戻すとマリエルは叫んでくる。
「なんで、あんたがっ!
ヴェルがここに来るのよっ!!!!」
なんでと言われても、心配だったからとしか言いようが無い。
考えていると、直ぐに間合いを詰められて二激目の拳が飛んでくる。
顔面を狙っているのがわかった。
避けるよりは受け止めたほうがいいかもしれない。
とっさに手で受け止めた。
「フローレンスちゃんはどうしたのよっ!」
「どうしたっても、宿にいるとしか……」
マリエルの顔が近い。
「せっかく、せっかくよ!? 気持ち切り替える事が出来たのに」
「それって、僕らを置いてきたって奴だよね?」
「ええ、そうよ! そもそもヴェルっ彼方が悪い!」
一緒に戦うと決めた僕が悪いと言われても……。
でも、マリエルの怒りは収まりそうにないし。
「いいっ? 私が、どんなにアプローチかけても綺麗に逃げるじゃないっ!」
逃げる?。
アプローチ?。
ああ、極度なスキンシップな事だよね。
「いやあれは、露骨というか前の世界に囚われた思いは悪いと思って」
僕の腹に突然痛みが走る。
「そういう所だって言ってるのっ!」
「ぐっ」
思わずひざが落ちる。
しゃがみ込む僕に対して、マリエルは仁王立ちで前に立っている。
痛い、痛いけどまだ我慢は出来る。
「あーもうこれは、私の事そんなに好きじゃないのかなって思った矢先に、今回の事でしょっ。
だからこそ、フローレンスちゃんと部屋を一緒にして吹っ切ったのに、なーんーでーヴェルが最初に来るのよっ。
だいたい、フローレンスちゃんに何て言ってきたのよっ」
下を向いたまま痛みを堪えて、さっきまでの事を簡単にいう。
もちろん、抱いての部分や下着姿だったなどは伝えない。
ただ、締め出されて、マリエルの所に行ってあげてと説得されたと伝える。
さっきまで怒り状態のマリエルからため息がもれた。
少しは怒りは収まったらしい。
「まったく、馬鹿」
「馬鹿って……」
「馬鹿よ、ヴェルも私も知っている未来と違う事がおきてるのよ。
あのままフローレンスちゃんと居れば二人は助かる可能性が大きくなるし、幸せな未来があるじゃないの」
「いや、そうなんだけど、僕からしたらマリエルが助かる未来のために戻ってきたんだし」
「本当に馬鹿、ヴェルは私の事が好きであってる?」
「えーっと……」
好きか嫌いかで言えば好きだ。
男女の恋愛でいうと、やっぱり好きなのだろうか……。
前の世界で死んだ彼女を思って戻って来たわけだし。
だめだ、曖昧な答えをだしたら、マリエルや僕を送り出したフローレンスお嬢様の気持ちを裏切る。
痛みに堪えて立ち上がる。
マリエルをまっすぐみると、マリエルの視線が少し動く、緊張してるのが見て判った。
「僕はマリエルが好きだ」
「……自分のために、ヴェルを裏切るかもしれないわよ?」
「僕は人と変わっているらしいし、それでもいいと思う」
「今だったらまだフローレンスちゃんの所へ戻れるわよ……」
黙って首を振る。
マリエルの顔がほんのりと赤くなる。
「最初にヴェルが来て嬉しかったけど怒りのほうが強かったわ。
でも、来てくれてありがとう、私もヴェルが好きよ」
マリエルは僕に突然顔を重ねる。
驚くと直ぐに顔を離した。
「にしても、お腹痛かったんじゃない? 割と本気で殴ったから」
マリエルはしゃがむと、突然僕の服をめくる。
自分も殴られた場所を見た。
拳の大きさに青くなっている、痛いはずだ。
「聖騎士の力っても、擦り傷などに強いだけで打ち身には弱いのよねー」
「いっ」
「あ、ごめん、痛かった? 塗り薬あったかなぁ……。
あ、服抑えておいて」
マリエルはしゃがんだままに腰の袋を開けている。
塗り薬を探しているのだろう。
僕らへと足音が近づいてくる。
僕もマリエルも足音のほうへ顔を向けると、アデーレが珍しく困惑した顔で近づいてきた。
「その、早く来すぎた」
何のことかと僕とマリエルはアデーレを見た。
あ……、僕は今立っている。
そしてマリエルはしゃがんで僕の前にいる、しかも僕はいま腹を出したままだ。
勘違いさせた事に気づいたマリエルは急に立ち上がった。
「ちがっ! アデーレ何か勘違いしてるようだけど手当てよ」
アデーレは僕のほうを見てくる。
僕も何度も頷く。
「そういう事にしておきます」
「いや、ちがうっ。
これは殴られた結果で」
アデーレの後ろから猛スピードで走ってくる子が見えた。
話を中断して三人で眺めているとミントが走ってきた。
その後ろには、あまり絡んだ事がないサナエという子もいる、確か短剣が得意と聞いた事がある。
「まったく、馬鹿ばっかりよね」
マリエルが嬉しそうに吐き捨てると、アデーレが続く。
「これでも、途中で会った数人はチナやクレイと一緒に説得して帰らせた。
ミント副隊長に、サナエ、そして私が代表して来たという所です」
「まったく、人生棒に振る事ないのにねー」
僕に同意を求められても困るけど、文句をいうマリエルの顔は少し嬉しそうだった。
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