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三章

93 事件は遠くで起きていた

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 声が出ない。
 いや、考えるべきだった事だ。
 村襲撃で黒篭手を奪えなかった帝国は、フランを使って僕がつけている黒篭手を奪おうとしたのは以前の世界。

 で、僕は襲撃を未然に防いだけど、帝国は黒篭手を奪えていない事実は変わっていないんだ。
 ここは無難に逃げよう……、街中であれば襲ってもこないと思う。
 あくまで僕はフランとは初対面だ。
 隣よろしいでしょうかえ? と聞いてきたフランに僕は何とか口を開く。

「ど、どうぞ。
 僕はもう行きますので」

 立ち上がろうとすると、僕の服を掴まれた。

「かんにんしてねえ、ウチこの町くわしくないねえ。
 兄さん案内してほしいえ」
「ええっと、すみません。
 僕も詳しくないんです」
「ほな、一緒に回ってみいへんえ? 詳しくなりますに」

 ナンパ、いや僕を捕まえようと流石にしつこい。

「子持ちの女性の誘いはちょっと」
「は?」
「え?」

 僕の服を引っ張ったままのフランは驚く顔で僕をみているし、僕もなぜ子持ちの女性と言ったのか、でもなぜかフランには子供がいたような気がした。
 たぶん、小さな男の子と女の子……。
 前の世界ではそんな話は聞いたこと無い、いや、今は逃げるべきだ。

「じゃ、急ぎますので!」
「あっ、まちなされっ!」

 一気に走る。
 無いはずの記憶か……、走りながら考える。
 これも何度も繰り返しを受けているからだろうか?。

 幸い聖騎士の力もあるし、宿まで行けばフランだって追って来ないだろう。
 宿が見えてきた。
 扉をあけて中へと入るとマリエルだけが食堂に居た。

「おかえり?」
「ただいま戻りました」

 思わず、普段の言葉使いが出た。

「かしこまって変な、
 それに顔青いわよ、どうし……あーっ」

 マリエルがあわてて僕に寄って来た。
 宿の扉を少し開けて、外を確認した後に、また閉める。

「フランよね」

 僕は頷く。
 マリエルははぁーと息をはいて僕を見た。

「前回は来なかったのよ……。
 恐らくヴェルが国外へ逃げた事によって歴史が変わったのよね。
 何かされた? 今のヴェルなら倒す事もできると思うけど……」
「冗談を、僕はそこまで強くないですよ。
 特に何も、話しかけられただけです」
「やっぱその篭手よね。
 さすがに、一部隊で居るなら襲ってこないでしょう」

 僕とマリエルは近くの席へと座った。
 今後の事を軽く話すため。

「私も全部は知らないわよ?。
 帝国にいるヒナヒメ様がその篭手を欲しがってるのよ、目的はよくわからない。
 で、城にいるヒバリ様もその篭手を欲しがってるの」

 知らない名前が出てくる。
 ヒナヒメとヒバリは姉妹みたいな感じねと、教えてくれた。
 と、いう事はオオヒナと同じで人間ではないのだろう。

「ヒバリだったら、この篭手は危険なので保管と言ってましたね」
「あ、やっぱり会った事あるのね」
「一応、前回篭手が外れなかったので、そこでメリーアンヌさんとも会いました」
「女王様ね、ファーのママで、裏で会うときは優しい人よ」

 そうですねと、言っておく。
 優しそうな人だったけど、女王だけあって目が少し怖かったのは黙っておこう。

「ヴェルはその黒篭手をどうしたいの?」
「どうといわれても……」
「じゃ、もっと簡単に聞くわね、壊す、捨てる?、手元に置いとく?」

 っ!!。
 壊す? いやそれはない、オオヒナと人格が中に居る、壊すというのは殺すという事だ。
 捨てる? それもない、例えば見つからないように埋めていくとかだろう、やっぱり可愛そうだ。
 手元に置く……、うーん。
 もう過去には戻りたいと思わないから手元にも置いておきたくはないけど……、封印を解いた以上それが正解なのかもしれない。

「その篭手の中の人だけどね」

 マリエルが突然喋りだした。

「今回がお前らに付き合える最後の時間となるだろうって」
「え。オオヒナが?」
「うん……、だから簡単に過去戻れると思って無茶はするなよって」

 お互いに一回、この世界は少なくとも三回目だ。
 世界に不都合でも生まれているのかもしれない……。

「元から、そう何度も戻るつもりもないですけどね」
「そうね」
「「だから」」
「「死なないで」」
「ね」
「ください」
 
 僕とマリエルはお互いに無言になる。
 自然と見つめあう。
 マリエルの目、耳、顔全部を見ているとマリエルはまぶたを閉じる。
 マリエルの顔にそっとをあて僕もまぶたを閉じた。
 後は……。

 バンっ!!!

「大変なのだああああああ」
「隊長大変で……」

 僕とマリエルは首だけを動かして、出入り口を見る。
 ミントとファーだ。
 ファーは、ミントの首の後ろを引っ張ると外に出た。
 バタンと大きな音を立てて閉まった扉。

 小さなノックの音が聞こえる。
 その後にファーの声が聞こえてきた。

「マリエル隊長、鍵が掛かってるみたいなので、用意が終わったら開けてもらって宜しいでしょうか?」

 逆に恥ずかしい、そしてミントのねーねーと、言う声も聞こえてきた。

「ファーちゃん? 鍵なんてなかったよ?」
「今は掛かってるんですっ!」
 
 マリエルが赤い顔のまま投げやりに叫ぶ。

「何にもしてないわよっ! 鍵は開いてるから入ってきてっ!」

 ファーとミントが改めて入ってきた。
 ミントは僕に、ちゅーなのだ? ちゅーしたのなのだ? と聞いてくるので、マリエルに叩かれる。

「ヴェルに変な事聞かないの、まだ何もしてまーせーん。
 で、大変ってなんなのよ……」
「そ、そうでしたね、お邪魔してすみません。
 マキシム第三部隊隊長が、殺されました」
「「はっ?」」

 眼鏡を直し真面目な顔でいうファー。
 僕とマリエルは同時にはもった。
 
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