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二章
67 ヒミツの取引 Ⅱ
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僕はいまだヒメヒナさんの話を聞いていた。
「無理に奪う事は……」
彼女達なら黒篭手を無理に奪う事も出来るはずだ。
それこそ顔無しに命令すれば良い事。
「平和的に行った方がいいと思ってね。
別に今すぐ渡せとは言っていない、こちらのお金の用意もあるからね。
さて、君の質問だったね。
顔無しは、どうしても君の幼馴染が好きらしくてね、私としては応援してあげたい。
それでも、その幼馴染が正式に断るなら私も間に入ってあげようじゃないか。
もう一人捕まえた人間は、今の所は安全だよ」
「……僕が黒篭手を渡さないと言ったら?」
大きく眼を開けて、両手を広げる。
大げさなポーズだ。
「なぜ? いやそうか……、子供は自分の玩具を他人に渡したくないというし……。
手荒な事はしたくない主義でね、こちらとしては好条件と思う。
君は何が望みなんだい?」
言葉に詰まる。
お金は大事だし、でも僕一人が生活できればいい。
考え込むと、ヒナヒメさんが大きく手を叩く。
「なるほどっ! 君は中々の助べえだねぇ……」
「はい?」
突然なんだ。
「金欲よりも色欲とは、とはいえハーレムとなると……君の好みを聞いておかないといけないな、胸は大きいほうがいいかな? それとも控えめのほうが好きかい。
素人を希望なら少し時間が欲しいかな」
「ち、ちがいますっ!」
ヒメヒナさんは僕の言葉を聞いて言葉を変えた。
「では、何が望みなんだい? あれも嫌だ、これも嫌だと、こちらは十分に報酬を渡そうとしている。
その篭手だって封印されていた物だ。
もっと言えば、それを作ったのは私の師、所有権と言えば私にあると思うんだ」
正論だ。
ああ、そうか。
正論過ぎて疑っているんだ。
「僕は旅の中に一人の男性に助けられました。
オーフェンといいます。
そのオーフェンから、ヒメヒナさんとは対立していると聞いてます。
一度彼と話をしてから決めたいと思います、だめでしょうか?」
僕は出来るだけ丁寧に話した。
「ふー……君は私が見てきた人間の中でも、変わった部類に入る人間だよ。
この調子では、料理も食べてくれそうにもないかな」
「すみません……」
「ではお開きだな、私はもう一人客人と会わないといけない。
面倒であるけどしょうがない」
ため息を付くヒナヒメさんに、ありがとうございましたとお礼を言って外へ出る。
集合場所へ行くと、旅人のフードから頭を出したマリエルが手を振っていた。
他の人物は見当たらない。
「おっかえりー」
「……ただいま……なんですかね?」
「そうね、用事終わった?」
「はい、その」
「別にいいわよ、無理に話さなくても。
三人は買い物ー」
マリエルは門兵へと手を軽く振って謝る。
門兵は僕をみてがっくりと肩を落としていた。
「あの?」
「ああ、あれね。
私たち四人とも美人じゃない? 良かったらお茶でもどうですか?って」
「え……門兵がそんな事を」
「自由よね、王国じゃ考えられないわ」
「あれ、コーネリアじゃないですか?」
遠くから走ってくる人物が居た。
「隊長っ! 大変です」
「いや、だからここではマリエルって呼んでもらって」
「いいから、フードをかぶってください」
コーネリアにしては珍しく、マリエルへとつっかかる。
フードを無理やりかぶせると道から離れた場所へと手を引っ張っていった。
「絶対にフードを取らないでくださいっ! 来ますっ!!」
「だから、何が来る……の……」
馬車が来た。
全体に金の模様が入っており豪華な馬車だ。
前に一度見た事があるような形だ。
馬車の窓が開いている、太った男性の横顔が見えた。
その横には赤い髪がちらりと見えた、あれは……。
僕の背後に隠れているマリエルが小さく呟く。
「マキシム……」
「そ、そうなんです。
今は私たちが帝国にいると知られたら不味いとおもって、そのっ、いきなりでごめんなさいっ!」
「…………いいえ。
アデーレ達は?」
「はい、アデーレさんとフローレンスさんは背が高く目立つというので、直ぐ近くのお店へと逃げ込みました」
カーヴェの町で出会った男。
第三聖騎士部隊隊長であり時期王位継承権を持つ男。
帝国と組みマリエル達を殺し、さらに女王の暗殺まで関与した男。
「……ルッ! ヴェ……! ヴェルってばっ!!」
視線を下げた。
フローレンスお嬢様が僕の腕を触っている。
「あれ? いつの間に?」
「いつの間にじゃないわよ。
怖い顔して剣なんて握り締めて。
門兵さんがチラチラみてたわよっ」
門のほうをみると、マリエルとコーネリアが門兵と何か談笑しているのがわかった。
握り締めていた剣の柄をそっと離す。
手のひらが真っ赤になっていた。
「あの人達、誤魔化しにいったんだから……」
「すみません」
「ちゃんっと、謝っておくのよっ!」
フローレンスお嬢様に怒られるとは……。
懐かしくも少し笑ってしまう。
ヒメヒナへの疑問が少し解けた気がする。
彼女は平和的になど言っていたけど、帝国とマキシムは繋がっていて王国へと進軍していた。
聖騎士の力を無効化する毒の研究も行っていた。
黒篭手もなんらかのために手に入れたいのだろう。
マキシムと一緒に乗っていたのは恐らくヒメヒナさんだ。
マリエルが走って戻ってくる。
門兵も納得したのか、詰め所へと戻っていった。
僕と合流すると、近くの馬屋からアデーレが馬を三頭連れて戻ってくる。
色々考える事が多そうだ。
「無理に奪う事は……」
彼女達なら黒篭手を無理に奪う事も出来るはずだ。
それこそ顔無しに命令すれば良い事。
「平和的に行った方がいいと思ってね。
別に今すぐ渡せとは言っていない、こちらのお金の用意もあるからね。
さて、君の質問だったね。
顔無しは、どうしても君の幼馴染が好きらしくてね、私としては応援してあげたい。
それでも、その幼馴染が正式に断るなら私も間に入ってあげようじゃないか。
もう一人捕まえた人間は、今の所は安全だよ」
「……僕が黒篭手を渡さないと言ったら?」
大きく眼を開けて、両手を広げる。
大げさなポーズだ。
「なぜ? いやそうか……、子供は自分の玩具を他人に渡したくないというし……。
手荒な事はしたくない主義でね、こちらとしては好条件と思う。
君は何が望みなんだい?」
言葉に詰まる。
お金は大事だし、でも僕一人が生活できればいい。
考え込むと、ヒナヒメさんが大きく手を叩く。
「なるほどっ! 君は中々の助べえだねぇ……」
「はい?」
突然なんだ。
「金欲よりも色欲とは、とはいえハーレムとなると……君の好みを聞いておかないといけないな、胸は大きいほうがいいかな? それとも控えめのほうが好きかい。
素人を希望なら少し時間が欲しいかな」
「ち、ちがいますっ!」
ヒメヒナさんは僕の言葉を聞いて言葉を変えた。
「では、何が望みなんだい? あれも嫌だ、これも嫌だと、こちらは十分に報酬を渡そうとしている。
その篭手だって封印されていた物だ。
もっと言えば、それを作ったのは私の師、所有権と言えば私にあると思うんだ」
正論だ。
ああ、そうか。
正論過ぎて疑っているんだ。
「僕は旅の中に一人の男性に助けられました。
オーフェンといいます。
そのオーフェンから、ヒメヒナさんとは対立していると聞いてます。
一度彼と話をしてから決めたいと思います、だめでしょうか?」
僕は出来るだけ丁寧に話した。
「ふー……君は私が見てきた人間の中でも、変わった部類に入る人間だよ。
この調子では、料理も食べてくれそうにもないかな」
「すみません……」
「ではお開きだな、私はもう一人客人と会わないといけない。
面倒であるけどしょうがない」
ため息を付くヒナヒメさんに、ありがとうございましたとお礼を言って外へ出る。
集合場所へ行くと、旅人のフードから頭を出したマリエルが手を振っていた。
他の人物は見当たらない。
「おっかえりー」
「……ただいま……なんですかね?」
「そうね、用事終わった?」
「はい、その」
「別にいいわよ、無理に話さなくても。
三人は買い物ー」
マリエルは門兵へと手を軽く振って謝る。
門兵は僕をみてがっくりと肩を落としていた。
「あの?」
「ああ、あれね。
私たち四人とも美人じゃない? 良かったらお茶でもどうですか?って」
「え……門兵がそんな事を」
「自由よね、王国じゃ考えられないわ」
「あれ、コーネリアじゃないですか?」
遠くから走ってくる人物が居た。
「隊長っ! 大変です」
「いや、だからここではマリエルって呼んでもらって」
「いいから、フードをかぶってください」
コーネリアにしては珍しく、マリエルへとつっかかる。
フードを無理やりかぶせると道から離れた場所へと手を引っ張っていった。
「絶対にフードを取らないでくださいっ! 来ますっ!!」
「だから、何が来る……の……」
馬車が来た。
全体に金の模様が入っており豪華な馬車だ。
前に一度見た事があるような形だ。
馬車の窓が開いている、太った男性の横顔が見えた。
その横には赤い髪がちらりと見えた、あれは……。
僕の背後に隠れているマリエルが小さく呟く。
「マキシム……」
「そ、そうなんです。
今は私たちが帝国にいると知られたら不味いとおもって、そのっ、いきなりでごめんなさいっ!」
「…………いいえ。
アデーレ達は?」
「はい、アデーレさんとフローレンスさんは背が高く目立つというので、直ぐ近くのお店へと逃げ込みました」
カーヴェの町で出会った男。
第三聖騎士部隊隊長であり時期王位継承権を持つ男。
帝国と組みマリエル達を殺し、さらに女王の暗殺まで関与した男。
「……ルッ! ヴェ……! ヴェルってばっ!!」
視線を下げた。
フローレンスお嬢様が僕の腕を触っている。
「あれ? いつの間に?」
「いつの間にじゃないわよ。
怖い顔して剣なんて握り締めて。
門兵さんがチラチラみてたわよっ」
門のほうをみると、マリエルとコーネリアが門兵と何か談笑しているのがわかった。
握り締めていた剣の柄をそっと離す。
手のひらが真っ赤になっていた。
「あの人達、誤魔化しにいったんだから……」
「すみません」
「ちゃんっと、謝っておくのよっ!」
フローレンスお嬢様に怒られるとは……。
懐かしくも少し笑ってしまう。
ヒメヒナへの疑問が少し解けた気がする。
彼女は平和的になど言っていたけど、帝国とマキシムは繋がっていて王国へと進軍していた。
聖騎士の力を無効化する毒の研究も行っていた。
黒篭手もなんらかのために手に入れたいのだろう。
マキシムと一緒に乗っていたのは恐らくヒメヒナさんだ。
マリエルが走って戻ってくる。
門兵も納得したのか、詰め所へと戻っていった。
僕と合流すると、近くの馬屋からアデーレが馬を三頭連れて戻ってくる。
色々考える事が多そうだ。
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