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二章

53 番外 あるハグレの悪夢

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 懐かしい夢を見ている。
 これもあれも、あんな寝言を聞いたからでしょう。
 
「まったく、少しは楽しんでいるかい?」

 そう、私に聞くのはとう様である。
 少し遠くにいるかあ様は、イノシシを解体していた。
 今日のメインデッシュだ。
 この時は私の婚約者選びなどが重なり、気分転換も兼ねての旅行だった。
 まだ少女だった私はとう様へと訪ねる。

「それないりに、とう様は?」
「楽しんでいるよ、午後には妹達も来るだろうから安心しなさい」
「べ、べつに妹達が来ないからすねてる訳じゃないですしっ!
 それよりも、父様こそイノシシの解体手伝ってきたらどうです?」
「いやー、血は得意じゃなくてね」
「聖騎士のくせにっ!」
「はっはっは、面目ない」

 次のシーンでは……雨が降っていた。
 そう占い師の予報では晴れが続くはずだったのに。
 いや、今はどうでもいい……。
 私の前には、とう様やかさ様が切られ地面へと倒れている。
 私もこの時は、地面へと転がされていた。

「ど、どうして……」

 私の呟きを聞いた男は、私を見る。

「どうしてだと……、お前達が……、様を……」

 雨の音で彼の声が聞こえにくい。
 彼は黙って首を振った。
 倒れているとうさまの首を無造作に跳ねた。
 表情はうかがえない……。
 彼は背を向けて立ち去ろうとしている。

 首の無くなったとうさまへと駆け寄った。
 まだ体は温かい。
 許さないっ!
 ころす、ころす、ころすっ、ころすっ、ころす!!
 とう様の腕から篭手を剥ぎ取る。
 力の継承だ。
 私の中へ魔力と呼ばれる力が入ってくる。
 さぁ、私に力があるなら今だけでいい! 全力で答えてっ!

 気付いたら、彼の背後を捕らえていた。
 手にはとうさまが使っていた聖騎士の剣。
 あと少しで、こいつの首を跳ねるっ!!
 仇が討てるんだっ!
 耳元で声がした。

「君まで殺す予定は無い」

 彼の居た場所は既に何も無かった。
 腹部に衝撃が走り、私の意識は途絶えた。

 夢の場所が変わった。
 ころころとよくかわる物だ。
 ここはベッドの上だろう、隣には諦めた顔のおばあさまが居る。

「では、決心はかわらないのですね」
「はい、私の進む道に名が邪魔というのであれば、名は捨てましょう」
「では、なんと呼べば」
「そうですね……、フランと」
「フラン?」
「はい、よく妹に読み聞かせたお話に出てくる、意地悪な姉の名前です」
「そうですか……、わかりましたフラン。
 彼方を一級ハグレとして手配します、その力を好きに使い。
 そして進みなさい」
「ありがとうございます、おばあさま、連絡を入れます……」
「こちらも……」

 結局啖呵を切って国を出たはいいけど、当初とは予定が変わった。
 私達の事を考えなく、ファーランスは聖騎士になるし、その親友のマリエルも一緒に聖騎士になった。
 彼女達を守りたい。
 あの瀕死な奴と思いは一緒とは……。
 保険も兼ねて彼に協力したほうがいいだろう。
 
 暗い天井が見える。
 いつの間にか起きていたらしい。
 そして胸の部分に男の手がある。
 はぁ……、こいつもこりへんやつやえ。

「いって、まったっ!
 フラン姐をマッサージ、そうマッサージにしに来ただけでっ!」
「やさしいなぁオーフェンは」
「だろ?」
「ウチもマッサージしてやるから」
「まじでっ! ありが……。
 まった、そこはダメっ! あっ! ああっ!! 潰れるっ!」
「潰れてももどるんやろ?
 だったら……」

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