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二章

46 追うものと追われるもの

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 村の外れまで連れて行かれた。
 ここで少し待つわよと、言われ、僕といえば二人に挟まれたままで立っている。
 黒篭手は返しそびれたし、色々オオヒナに聞きたい事もあるので僕が左腕につけている。

「あの、マリエル……さん」
「なーに? 少年」
「なぜ少年という呼び方なんでしょう? 自己紹介は忘れましたけどヴェルと言います」

 マリエルに聞いてみた。
 自己紹介はしそびれた、けどこっちの名前は知らないわけじゃないだろうし、ファーは僕の名前を知っている。

「んー、今後の事を考えると、少年と接点少ないほうが良かっただけ。
 ごめんなさいね、で。ヴェルは私達に何かいう事ある?」
「えっ?」

 もちろん沢山ある。
 カーヴェの町での出来事や、聖騎士の力を中和する毒など。
 でも信じるのか?。 

 考えていると、アルマ村長が松明片手に歩いてくるのが見えた。
 他には見当たらない。
 僕の側へとくると、いきなり謝りだす。

「ヴェル……すまなかった」
「あの、何のことで――」

 隣にいるファーが説明してくれる。

「私はマリエル隊長の指示で、ヴェルさんが始末した人達を川へ潜って調べました」
「ごめんって潜らせて。
 それに夏だからそんなに寒く無かったでしょ」
「ええ、まぁ……」

 途中でマリエルがファーに謝っている。
 終わった所でファーが更に喋り続けた。

「そして、調べた所。
 殺された人間は盗賊の部類と判明しました。
 ヴェルさんは相手が普通の人じゃないと知っていましたね」

 どきりとする一言である。
 確かに知っていた。
 
「ええっと、突然襲われて。
 ただ、村に入れては駄目と思って」

 僕自身、歯切れの悪い返事をするしかない。

「ワシらはヴェルをただの人殺しと言ってしまった。
 それに対する謝りだ、不当に理由も聞かず捕まえてしまって、せめて理由をっ言ってくれれば」
「いえ、いいんです。
 同じ村に殺人者が居ればこうなるのは当然ですし、僕もそうします。
 理由はあれ……殺した事実は変わりませんから」
「で少年。
 頭の良さそうな少年ならこの結果がわかると思うんだけど」

 マリエルが僕に向い微笑む。
 なるほど……。
 村長は小さな鞄を持っている、その一つを僕へとつき出す。

「国外、いえ。
 この場合は村を追放ですか」
「すまんヴェル。
 聖騎士様達と他の村民とも話し合った結果、ヴェルは村を守ってくれた英雄であるが、他の人間を殺したのも事実。
 怖いと思うのが普通なんだ……。
 一人で動くのでは無く、せめて直ぐに訳を言ってくれれば」

 確かに僕は何でも一人で行動する癖があるかもしれない。

「いや、今更言っても遅いな。
 この決定はワシ個人での決定ではない、娘や理由をしったクルースなどは村に残れるように説得をしたが……、おそらく今でも説得しようとしてるはずだ」
「いえ、お気持ちだけで大丈夫です」

 鞄を受け取るとずっしりと重い。
 手切れ金って所か。

 アルマ村長がもう一度謝る。
 僕が村を追放、僕の事を家族として接してくれた村長夫妻やフローレンスお嬢様が生きているならそれでいい。
 本気でそう思える、あとはマリエル達の事だけだ。
 タチアナがどこかで別れるだろうし、直ぐに手紙かな。

「タチアナの町までは私達が護衛します、村長さんも、もういいかな」
「わかりました。
 ヴェル、直ぐには無理かも知れん、落ち着いたら手紙をよこすんだ。
 なるべく早く戻ってくれるように手配しよう」
「ありがとうございます」

 まぁまず戻ってこれるなんて、ないだろう。
 僕は手を握り合いその手を離す。
 数歩先に歩くファーを追うように歩くと、最後にマリエルも歩き出した。
 以前は馬で通った道をゆっくりと歩く。ふいにマリエルが不満な声で喋り始める。

「あーあー今回も、此処のお祭り見れなかった……」

 その声に反応するようにファーが振り返りマリエルを見て微笑む。

「あら隊長、ここの祭事は十年置きと聞きました、以前もって事は十年前来た事あるんですか?」
「あるわけないじゃない。
 アレ、そういえばなんで今回もって思ったのかしら……」

 暫くは特に話す事も無く歩く。
 村から離れ、北東にあるタチアナの町までは後半分ぐらいだろう。
 山を切り取った道はでこぼこしていて、馬車は通りにくい。
 左右は森に囲まれていて、東のほうが高くなり、暫く行けば川がありその先は帝国領である。

 ファーが突然立ち止まる。
 自然にマリエルも止まるので、僕も止まらざる終えない。
 休憩だろうか。

「この辺でしょうか隊長」
「そうだね。いやーファーもごめんね。
 毎回イヤな仕事ばかり頼んで」
「何を今更です。
 で今回もやるんですか……」

 何をするのかファーが嫌そうな顔をしている。
 誰にでも微笑むのにマリエルに対しては表情を変えるのをみると、なんだか微笑ましい。

「もちっ、少年……いいや、ヴェルちょっとそこに立ってて貰えるかな」
「はぁ」

 僕の前後を数十人分開けて、マリエルとファーが動き、そして止まる。
 待てと言われたので僕は二人を立って見てるだけだ。

「ヴェルー聞こえるー?」
「聞こえます」
「一応半日まったし、根は悪くないみたいだから色々まったんだけど……」
  
 笑顔だったマリエルが瞳をゆっくりと閉じた、次に開いた時は僕を睨みつける目だった。
 彼女が静かに喋る。

「聖騎士第七部隊隊長マリエル。
 王国に害を成す者を切るっ」

 口上をのべると、真っ直ぐに僕へと走ってくる。
 腰の剣は既に抜かれていた。
 背後からも走ってくる音が聞こえた。
 恐らく、いやファーしかありえない。

 下から切り上げてくる剣を黒篭手で受け流し、背後からくるファーの上から下に切りつける剣をギリギリで回避する。
 剣の軌道をかわされたマリエルの舌打ちが聞こえた。
  
 交差しながら再び距離を取る二人。
 二撃目の構えを取り始める。

「ま、まってくださいっ、なんでっ」

 左右を見て僕は困惑する。
 両手に剣をもち胸元で構えたファーへと向く、何時もの笑顔と違い、その笑みは消えている。

「そっくりお返ししますヴェルさん。
 確かに貴方の殺した相手は盗賊でした、いえ盗賊ではありませんね、持ち物から言うと帝国の者でしょうか。
 死体の状況から傷口や骨の粉砕具合、普通の人には出来ません。
 まるでハグレが仲間を殺したようにも見受けられます」

 言葉を止め真っ直ぐに僕を見て、さらに口を開く。

「不明な点が多すぎるのです。
 せめて素直に喋って貰えれば良かったのですが……。
 ヴェルさんは相手の正体を知っていた、にも関わらず我々には何も話さない。
 残念ですが帝国のスパイとして対処させて頂きます」
「と、言うわけ……。
 恨むならいくら恨んでもいい」

 マリエルが反対側から声をかけると、ファーの静かな声が僕の耳に届く。

「聖騎士第七部隊副隊長ファーランス、本気で行かせて貰います」

 掛け声と共に僕を殺すべく二人が迫ってくる、冗談じゃない僕はとっさに山へと走り出した。
 直ぐ背後から僕を追う、二人の声が響く。
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