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32 城での軟禁生活

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 いつの間にか寝ていたらしい、目が覚めると室内は赤く染まっていた。
 窓から入る夕日の光である。
 部屋にノックの音が聞こえ、直ぐに扉が開く。

 赤い髪をした、眼鏡をかけ、身長の低い女性。
 青いローブをマント代わりにした女性。
 オオヒナっ!
 僕は黒篭手とオオヒナを交互に見る。
 彼女の名前を呼ぼうとした。

「オ……」
「お主がヴェルかの? 遠い所をご苦労なのじゃ。
 お、どうしたのじゃ変な者でも見るような目をして、わがはいみたいな可愛い女性を見るの初めてか?」

 違う……?。

「ヒバリ様、入り口で止まるとはいれません」
「おお、すまんすまん。
 で、何か言ったかの?」

 背後には、もう一人背の高い高齢の女性を連れていて、緑のドレスを着ていた。
 こちらも赤い髪で、全身から品がありそうな感じが見て取れて、顔も優しそうな顔で微笑んでいる。

「こんばんは、ヴェルさんで会ってます?」
「は、はい」

 高齢の女性へと挨拶し、もう一度ヒバリと呼ばれた女性を見る。
 どう見ても僕が篭手の中で見たオオヒナ一緒なのだ。
 しかし、相手は僕の事を知らないふり、いや本当に知らないのかも、僕の視線を無視してさっさと椅子に座り始めた。

「さて、わがはいはヒバリ。
 篭手の管理をしている、簡単にいうと聖騎士達の道具管理みたいなもんじゃな。
 こっちはメリーアンヌ、国の中ではまぁまぁ偉い奴じゃ」
「遠い所すみませんね、ヴェルさん」

 高齢のメリーアンヌさんが手を差し出してくる。
 握手を求められ僕は返した。
 シワはあるが柔らかい手で暖かい感触が伝わってくる。
 直ぐに、ヒバリが握手を求めてきたので握手をした。
 手は氷のように冷たく思わず緊張すると、僕の顔を見て小さく笑っている。

「いや、笑ってすまんな。
 我と握手する奴は例外なくびっくりするのでな。
 お主も例外なく同じ反応で笑っただけじゃ」
「いえ、すみません。
 余りにも冷たかったので」
「いいって事じゃ。
 さて、本題じゃ『ソレ』返してもらうぞ」
「ヒバリ様、それではヴェルさんが盗ったように聞こえますわ」
「ぬあ、ふむ……」

 言葉を考えているのだろう、ヒバリは腕を組む。
 やっぱり他人なのか、僕を知っていればもっと事情を知っているはずだ。
 こっちも盗ったという認識はないけど、実際に外れないし、相手からしたら盗ったになるのかもと考える。
 それに、オオヒナは黒篭手の中の住人、外に居るはずはないか……。
 
「いえ、色々重なって着けたはいいけど、取れなくなっていたので。
 盗ったという事でも、しょうがないかもしれません」
「あらあら」
「お主、おもったよりも謙虚じゃの、ほれ腕を出せ」

 僕は腕をテーブルの上へとだす。
 ヒバリが篭手をなぞると小さく口を開く。

「クロノリュウよ、その役目、わが手にもどられん」

 ヒバリの手が光っている。
 余りのまぶしさに目を閉じると次の瞬間、テーブルに何かか落ちる音が聞こえた。
 目を開けると篭手は外れており、視界が急激に回り始める。
 体全体が熱く、吐き気がすごい。
 テーブルの前にいる二人の姿が二重、三重にも見えてきた。

「っと、魔力の暴走じゃ。
 簡単に言うとかな、篭手で増幅された魔力が行き場を失い暴れてるだけじゃ。
 吐き気などは暫くすれば収まり、一ヶ月もすれば魔力も安定になり元にもどるじゃろに」
「そ、そうですか。
 それは助かりま――」

 最後まで話す前に口から吐きそうで思わず手で押さえると。
 メリーアンヌさんが横に回り僕の背中をさすってくれる。
 さすってくれるのは嬉しいが、余計に吐いてしまいそうになる。
 大きな皮袋を僕に手渡してくれた。
 直ぐにその袋へと口の中の物を吐き出す。
 その間もメリーアンヌさんは僕の背中を撫で続けてくれた。
 
「無理に剥がしたのに近いからのう」
「大丈夫? 顔が青いわ」
「背中、有難うございます。
 ええ、それよりも黒のとは……」
「篭手の名じゃな。
 お主聞こえたのか……、本来であれば聞こえるはずの無いんのじゃ。
 聖騎士達の篭手にはそれぞれドラゴンの模様をいれてるのじゃ。
 これは最初の篭手で、昔に持ち出した人間がおってな、そのまま行方が判らなくなっていたのじゃ、しかし、フェイシモ村。
 そんな所にあるとはのう」

 部屋の中は薄暗くなっていった。
 ヒバリが手早く火打ち石で部屋の中にあるランプに火を灯していく。
 ついでに隣の部屋の窓を閉めるからちょっとまっとれと、部屋から出て行った。

 メリーアンヌさんと二人っきりになる。
 聖母のような笑みを浮かべてくる、何処と無く誰かに似ている。
 優しい母親というのはこういう顔になるのだろうか、マミ奥様を思い出す。

「色々お話は伺いました。
 まだ若いのに、なんという」
「えーっとっ」
「いえ、村を焼き放たれ。
 さぞその篭手をお恨みでしょう。
 更にその篭手が外れなくはるばるこの場所まで、国から小額でありますがささやかなお見舞い金が出ますので」
「お見舞金となると、国の財源など管理されてる方なんでしょうか」

 僕の質問が可笑しかったはずは無いはずなのに、上品に笑うメリーアンヌさん。
 小さくそのような者ですと、喋った。
 テーブルの上にある篭手を見つめる。
 まともな人なら恨んでも恨みきれない思いが出るのだろう。
 実際、フローレンスお嬢様が殺された時は悲しみもして、敵を恨んだ。
 でも、恨んでいても死んだ人間は生き返る事は出来ない。

「この篭手って何なんでしょう」

 思わずメリーアンヌさんを顔をみると、背後の扉が再び開いた。

「メリーアンヌっ。
 何もしゃべったらだめじゃぞ」
「あらあら、これはすみませんヒバリ様。
 でも、だからこそお探しに」
「お主、ひとっつも悪いとおもってないじゃろに。
 わがはいからのご褒美じゃ」

 部屋の中に香ばしい匂いが広がる。
 嗅いだ事がある、こーひーだ。
 ヒバリはカップを三つお気、別に小さな小瓶を二つ用意してきた。
 僕を含め三人の前に珈琲を置き、メリーアンヌさんは、自身のカップには白いミルクと砂糖を少量入れるのを見た。

「ふっふっふ、お主なんぞ一生かかっても飲めない飲み物じゃぞ」
「こーひーですよね、王都には本当何でもありますね」

 僕はカップから苦いこーひーを一口飲む。
 やっぱりミルクと砂糖入れたほうが美味しいかもしれない。
 顔を上げるとヒバリとメリーアンヌさんが、僕を驚いた顔で見ていた。 
 ヒバリの右手のひらから白い光があふれ出る、そこから吹き出る風によってヒバリの前髪が舞い踊る。

「お主、何故これを珈琲とわかる」

 何故って言われても、篭手の中ですと聞いたら信じて貰えるだろうか。
 あなたそっくりのオオヒナという女性に教わったんです。
 僕が言葉に詰まると、質問というよりも詰問に代わってくる。

「珈琲はわがはいが、最近やっと栽培に成功したものじゃぞ。
 数は微量で城の外になんぞ一切出ない……。
 いや、それも国内だけの話で国外ではまた違うかもしれん。
 しかし、報告書ではお主はフェイシモ村で育った、知っているはずがありえんのじゃ」

「ヒバリ様、もしやヴェルさんは戻ってきた方なのでは?」
「何っ本当なのかっ」

 両手をテーブルに付くヒバリ。
 光った右手から放たれた一撃はそのテーブルを音を立てて粉砕した。
 テーブルにあったこーひーやミルクなどがたかそうなじゅうたんへと染み込んでいく。
 僕はあっけに取られて固まっている。
 メリーアンヌさんをみると、自分のカップだけはだけは守ったらしく優雅にそのこーひーを楽しんでいた。
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