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14 説教タイム

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 おかしい、なぜ僕は正座に。
 隣には同じく正座で下を向いているマリエルが居る。
 僕の格好はタオル一枚と、マリエルがつけていた青いマント兼用のローブが一枚。
 出来れば服を着たいけど、場の空気が許してはくれなかった。

 ファー、いや。
 正式名称、聖騎士団第七部隊副隊長ファーランスが、眉を吊り上げて無言で見下ろしているからだ。
 普段の僕は怒られる事が少ない、そもそも理不尽に怒る人はいるが、訳を話すとわかってくれる人が多い。
 僕は小さく手を上げた。

「はい、なんでしょうか? ヴェルさん」
「僕は怒られる理由を知りたい。
 その勝手に、フランという女性に着いて行く事だろうか?。
 それであれば、僕なりの考えがあったけど、ごめん」

 ファーは、僕の顔と黒篭手を見たかと思うと腕を組む。

「うーん。
 確かに、ヴェルさんの行動は褒められるべきではありませんが、護衛となるミントがああなった以上仕方が無いですね。
 それとは別に一つ、篭手を隠していた訳はいいでしょうか?」

 僕はチラッとマリエルを見る。
 表情が見えないが、小刻みに震えている。
 なるほど怒っているのはこの篭手か。
 本当の事を言うか、マリエルを庇うか……。
 
「これをつけてから僕がちょっとだけ傷の治りが早いとか、聖騎士にばれたら捕まると思って。
 その、怖くて言い出せなかったんだ、誰にもばれないように怪我をしたって言って隠していた、外そうにも取れなかったし」
「ヴェル……」

 隣のマリエルが、信じられないような顔で僕を見る。
 マリエルに頼まれたからというのは、ちょっと違う気もした、それだけだ。
 王宮までの道のりは牢決定だろう。
 ファーも、ちょっとだけ信じられないような顔をして僕を見ていた。 
 直ぐに、優しい笑みへと変わる。

「色々疑ってすみませんでした。
 聖騎士団第七部隊副隊長ファーランス、そして、マリエルの友人ファーとして謝罪します」

 ファーが、僕に頭を下げてくる。
 突然の事で、頭が追いつかない。

「いや、僕は……」
「ですが、優しすぎるのもダメなんですよ。
 そもそも、腕を怪我しているのに、医者すら手配しない隊長。
 怪我をしているのを知っているのに、素直にお風呂の提案を受け入れる。
 あの場合は傷に触らないように体を拭くとか、いえ、先にやはり傷の確認でしょう。
 一方ヴェルさんも、隊長と何か密談をした。
 誰が嘘の提案をしたのか、もうお解りですね」

 あ……。
 確かに、マリエルは僕の腕にあるという傷の事を全く触れなかった。
 隣に居るマリエルから、小さく、しまったと、小声が聞こえてきた。
 
「ただいまなのだー!。
 ひいっ、ふぁーちゃん怖い」

 傷が治り、血を流してきたミントが走って戻ってきた。
 
「ミント、一緒に入ったのはダメですが、よくヴェルさんを守ったと思います」
「一緒はだめなのだ?」
「そうですね、あまり好ましくありません
 私達二人は、もしかしたらミントが一緒にお風呂へ入って、ご迷惑をかけたらという事で走ってきたのです」

 ミントは腕を組んで考えている。
 思わずファーは何を考えているか聞いてみていた。

「えーでも、フレイミンちゃんと知らない男の人は一緒に入っていたよー」

 ミントの言葉にファー顔が引きつる。

「フレイミンって、何処のフレイミン?」
「フレイミンちゃんはフレイミンちゃんだよ。
 隊列するとミントの斜め後ろにいる」
「そ、そう――、その話は今はいいでしょう。
 では、ヴェルさん。
 冷えた体のままではいけませんし、ごゆっくり入ってください。
 外は我々が守りますので」

 許されたのかな?。
 僕は立ち上がると、ミントに青いマント代わりのローブを手渡す。
 マリエルも立ち上がろうとすると、ファーの怖い声が聞こえてきた。

「隊長はまだですよ」

 短くも、力強く言う。

「隊長は子供ですかっ! 別に私達も鬼じゃないんですし、一言あれば協力は、いえ。
 外で説教したほうが良さそうです。
 そもそも、聖騎士の隊長というのはですねっ――――」

 僕が脱衣所を抜けても、ファーの説教は暫く続いていた。
 段々と声が小さくなったのは、外に連れ出したのだろう。
 僕は刺された胸に手をあてる、傷口はあるが穴は完全になくなっていた。
 黒篭手と交互に見てため息を付く。

「人間離れしてきたな――」

 誰にも聞こえないように僕は呟いた。
 僕が服を着た頃に、やっと説教が終わったらしく、マリエルがふらふらしながら手を上げ場所を教えてくれた。
 彼女達は、最初にミントと待ち合わせをしていた大きい岩の前であった。
 僕は振り返る。
 貸切にした温泉施設は、あちこちが破壊されボロボロだ。
 彼女達に近づくと、マリエルがいまだファーへと謝っていた。
 
「本当に、ごめんね」
「もういいですから、とはいえ。
 施設がこうなった以上保障問題など頭が痛くなりそうです」
「それも含めてごめん!。
 頼りにしてるから」
「まったくもう……」

 文句も言いつつ、頼られているのかわかるのか、ちょっと嬉しそうだ。
 気苦労の耐えないファーに、マリエルは、帰り道でこの二日の事を喋った。
 村が襲われたこと、ハグレに襲われたことは説明してあるが、そのピンチを救ったのが僕だった事。
 僕の不思議な黒篭手が外れない事など。
 全てを聞き終わった後に、ファーが僕を見て微笑む。

「隊長が色々と言ったようですけど。
 私としても無理に拘束はしたくありません」
「さっすがっ」
「予定通り、王宮までご一緒という事なら、普段通りに進めさせてもらいます」
「ありがとう、僕も牢で移動するよりはその方がいい」

 それまで、話を聞いていたのか聞いていないのか、僕達の周りをぐるぐる回っていたミントが急に止まった。
 目線は僕の黒篭手だ。

「何?」
「ヴェルにいは、どれだけつよいのだ?」

 ミントは手は不思議そうな顔をしているし、二人の視線が怖い。

「そうね、少なくとも私より上なきがする」
「まさか、隊長より上はないかと……。
 でも、フランに狙われる以上なんらかの力はあるはずです。
 わかりましたいい機会ですので。
 ヴェルさんの実力を見せてもらいましょう」

 僕の都合などお構いなしである。
 
「いや、僕はそういう戦いなどはしたくないんですけど」
「場所は、どこがいいかしら」
「ヴェルにいと、たいせんなのだー」

 三人は僕の意見を一切聞いていない。
 いや、聞いているけど拒否権はないらしい。
 はぁ……。
 でもまぁ、忙しすぎて悲しむ暇がないのは嬉しい。

「ともあれ、今は戻りましょう。
 それにミントとヴェルの怪我の具合も一応確認しておきたいし」

 僕達はマリエルの案で宿へと戻る事にした。

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