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190 自分探しの旅って聞こえ悪いけど、可能性を探す旅っていうとかっこいい

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 人気の無い校長室はちょっと空気が重い。
 ヘルン王子もとい、ヘルンは適当に座ってくれと私にいうとソファーに座りだした。

「寒いんですけど……」
「………………僕に火をつけろと?」
「別にそんな事いってませんけどー」


 火のついてない暖炉前にしゃがむと背後で気配がする。
 振り向くとヘルンが顔を出してきた。


「王子である僕を顎で使うとは……僕がつける。怪我でもしたら後に何を請求されるか」
「しないわよっ!」
「ふ……知ってるよ、軽い冗談」


 暖炉に火がともるとヘルンはソファーに座ったので私も対面に座った。


「と、いってもなぁ。君は父とそこまで仲良くはないだろ」
「心配ぐらいするわよ、病気だったらお見舞いぐらいはしたいし。怖いけどいなかったらいなかったでカミュラーヌ家がどうなるかわからないじゃない」
「ほう、君も一応は貴族なんだな。お見舞いというかその」
「えっまさか手遅れ!」


 ヘルンは何も言わなくなった。
 って事は既に死んでるって事よね。国を別ける大争い……。


「じゃぁ私はヘルンにつくわ」
「どうせ弟のカインにも同じ事を言うつもりだろう、他の国は知らないが僕は弟のカインと仲がいいから跡目問題もないよ」
「いやいやわかんないわよ、カインあれで根暗だから背後からずぶっと」
「弟を悪く言わないでくれ……後、顔が嬉しそうなのもやめて欲しい」
「おっと、いやだって。
 国を別ける戦いとか面白そうじゃない」


 漫画とかでよくあった話だ。
 悪政の王を倒して王になる話、その主人公の傍らにそっと手助けする謎の女性。
 私の位置はそこ。


「そして、恩義を思った主人公は謎の女性に感謝して別荘をあげるの。私はその別荘に移り住んでたまに王都の晩餐会に呼ばれみんなから慕われるの完璧じゃない! …………はっ何時の間に声に!」
「そのパターンで行くと、僕は悪役令嬢に騙された元王子となりそうだ。話を戻すと父は現在行方不明だ」


 さらっと流され、爆弾発言を置いておく。


「は? 行方不明って。えっ他国からの、いや派閥にやられた……?」
「怖い怖い怖い怖い。君の考える事が怖すぎる。手紙があるよ」


 ヘルンはそういうと手紙をテーブルに置いた。
 達筆な字が書いてあるので私はそれを読み上げる。


「ええっと、旅に出ます。国はヘルンに譲るからワシは死んだ事にでもしといてくれ。後カインに譲ってもいいよ」
「「…………」」
「これだけ?」
「これだけだ。とりあえず病気という事で表向きにしてる。覚悟はあったんだ、そもそも婚姻だって時期王になるためだし、シンシアだって好きだし、だからと言って――――」


 うわ、ヘルンがブツブツと文句を言い出す。
 なんだかんだで、カインと似てるのよね最初は兄弟に見えないけどこういう所は似てるわ。

 ヘルンが一通り文句を言い終わった後に、私はワインを出した。
 何処かからというと、なぜか校長室にあったから。
 ヘルンは一気に飲むと、口からため息を出す。


「とまぁ、こんな感じさ。親友のディーオに相談しにきたわけだ」
「なるほど、シンシアには?」
「父は病気で避暑地に行った。と、伝えてある」


 部屋がノックされたので話しが中断された。
 ヘルンが校長の代わりに、校長ではないが開いている。と、いうと扉が開きディーオが顔をだす。


「…………なぜエルン君がいる」
「ええっと、成り行きで?」
「まぁいい。ヘルン王子がボクを探していると聞いて校長室に来た」
「ああ、悪いね。彼女には少し話したんだが……」


 ふむ。たぶん女の私には聞かれたくない事もあるのかな、チラチラとみるので、お暇しましょうか。


「まっ何にせよ。私個人としては力になるわよ。カミュラーヌ家としては……パパに話は通せるけど決定権はパパにあるからなぁ……敵対したらごめん」
「君に心配されるほど僕は弱くないよ。知ってるかい? 仮に僕が王になったら君の家潰す事もできるんだよ」
「はっ! そそそそんな事し、しないわよね!? ブルックスに頼んで女性と楽しい事できるお店探してもらおうか? それともええっと……」


 私とヘルンの会話を聞いていたディーオが手でシッシと合図する。
 私は犬かっ! と反論すると小言がついて来るのが目に見えているので、貴族風に失礼いたします。と優雅に扉を閉めた。


 暇になった。
 王が病気じゃなくて自分探しで逃亡した。というのは解った。
 さて……せっかく来たし司書のフェル君にでも会いに行くか。

 ほんっと、どいつもこいつも人を見たら悪役令嬢だ悪役だって、フィル君やナナ。ノエぐらいなものよ。
 エルンさーんって慕ってくれるの……栄養分が足りないわ、栄養分が。



 ◇◇◇


 日暮れも近くなって町馬車から降りる。
 フェル君を捕まえたまま図書室で本の整理を手伝い帰宅となった。
 私の栄養分はMAXになり今夜は良く眠れる事間違いない。


「カミュラーヌ様お気をつけて」
「ありがと」


 御者にお礼とチップを渡して玄関へ向かった。
 鍵は開いていて、玄関をあけるとノエが立っている。


「おかえりなさいませ、エルンおじょうさま」
「はい、ただいまって……誰か来客?」
「ええと、エルンおじょうさまのお知り合いという方がいらしてまして。いらっしゃらないのでお帰りになるように伝えたのですが、ガルドさんがエルンおじょうさまが帰宅するまで待ってもらったほうがいいと」


 む、珍しいわね。


「怒ってないわよー」


 ノエのほっぺをむにゅむにゅっとなでる。ノエはニャハーというような顔をして少し喜んでいる。
 肝心のガルドは? と聞くと応接室で見張りをしていると教えてくれた。なら安心だ。
 まぁカミュラーヌ家に押し込む強盗とかもいないでしょうし、ガルドがいるって事はカインかしら。

 ノエも城の関係者っていってたし。
 応接室の扉を開くと暖かい空気が顔に吹き付けてくる。


「はいはい、エルンさんが帰りましたよ。城の関係者ってっ誰…………」
「にゃほーエルンちゃん。お爺ちゃんだよー」
「お。王様っ!?」
 

 以前より小さく感じられるお爺ちゃん事、現在行方不明なはずの王様がソファーに座って手を振って来た。
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