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168 便利なアイテムはやっぱり高い

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 じゃぁ作ってよ! というと、いいよーと二つ返事でミーナは引き受けてくれた。
 軽い、軽すぎる。


「嫌だめでしょ」
「なにがー?」
「仕事を請ける前に、料金とか交渉しな……」


 待って、私王様と料金の事を取り決めてない。
 ただ働き? いや、死刑回避のためとは言え無償ってのはおかしくない?


「エルンちゃーん、戻ってきてー制作費は別に友達から取るほどじゃないよー、でも材料費が無いの」
「いいわよ、材料費ぐらいいくらでも払うから。いくら?」
「ええっと」


 ミーナはブツブツと何かつぶやいて指を数え始めた。
 計算するのに指って。やだこの子、大丈夫かしら。
 と、おもったら指を四本つきつける。

 なるほど、金貨四枚か……日本円にして四万前後。高い事は高いけど仕方がない。
 むしろ四万で恩を売る、いやこの場合は恩の返済が出来ると思えば安いわね。


「ノエー。外のガルドに言って金貨四枚もってきてー」
「はーい」
「エルンちゃん赤字なんだけど…………」
「えっ!」


 私が勝手に金貨と思っていたら、まさかの白金貨なわけ? たかすぎ!


「白金貨四枚!?」


 確認するように言うと、ミーナは首を振る。


「じゃぁいくらなのよ」
「金貨にして四千枚。白金貨だったら四百枚」
「四百枚っ!! 冗談もほどほどにしなさいよっ。どこの世界にそんな高い材料が…………あるの?」


 こくん。と、頷きだした。


「相場がそれぐらい」
「金山一つ売っても足りないじゃないの」
「金山ってそれぐらいなの?」
「取れる保障がないから古い金山はそれぐらいね」
「やっぱ、エルンちゃんでも・・・・・・・・払えないかー」


 は? なにそれ馬鹿にしてるのかしら。
 エルンちゃんでも?・・・・・・・・だと。とはいえ手持ちも何もないしなぁ。
 じゃぁ誰かに借りる? 貸してくれそうといえば、リュートの家のエレファントさんを思い浮かべる。
 うん、借金したら何言われるかわからないし、したくはない。


「そうよ! 取りに行けばタダよタダ。それだったら別にいいでしょ?」
「エルンちゃんがそれでいいなら、でも絶対取れるとは無いけどー」
「一応聞くけど、魔界とかじゃないわよね?」
「ううん、すぐいける距離だよー」


 さすがに、材料を取りに行って無かったら、それをそのまま報告すればいいわよね。
 それでも、欲しいってなったら王様に金貨四千枚出してもらおう。

 ふと前を見ると私と話している間にも、ミーナはパリパリパリとクッキーを食べている。
 ちょっとリスみたいよね、両方のほっぺに詰め込んでるし。


「案内料はクッキーとかでいいかしら」
「本当! おいしいよねこのクッキー。売れば絶対売れるよ!」
「でしょ!? ノエに言ったら、そんな事はありませんって小さくなってさー」


 私も作った事はあるけど、これが中々難しいのよね。
 焼きすぎたり甘すぎたり、ノエのクッキーは出すお茶によって甘さも違うのよ。
 珈琲だったら甘めのクッキーを焼いてきて、紅茶だったら逆に甘さが控えめだ。
 
 はっ! いつの間にか脱線していた。
 恐るべしミーナ。


「じゃぁこれはい」


 ん? 突然ゴーグルと手袋を渡された。
 どこからと言えば、ミーナの足元にあったリュックサックから。
 いつから合ったのかしら、さっきまで気づかなかったわよ。


「え? 今から行くの? ゴーグルって何これ」
「風圧から目を守るゴーグルと、滑り止めの手袋。早いほうがいいよね?」
「いや、そりゃそうなんだけど……」


 ミーナは壁に立てかけていた、乗ってきたと思う『飛んでるホウキ』にクッションを二つ、つけはじめる。


「え? 飛んでいくの?」
「そだよー」


 んんんん? エルンさんの心の警報が鳴り響いてきたわよ。
 なんだろ、一緒に行ったら絶対危ない予感がする。
 報酬を上乗せして材料を取りに行ってもらおうかしら…………でも、自分で取らないとこの場合無料にはならないわよね?


「ほう、この状況でやっぱ材料取りも任せるとは言いにくいな」
「はっ! この声は」


 振り向くと、ガルドが立っている。


「いつ来たのよ! ってか、そ、そそそそんな酷い事言うわけないじゃないのー、やーねー。私もちゃんと手伝うわよ! って何でいるのよ!」


 心底呆れた顔をしてため息をつかれた。


「俺は、どこぞのお嬢様が金貨四枚欲しいと、ノエ先輩から聞いて、予備も含めて金貨五枚を【金庫】から持ってきた所だ」
「あら、ありがと……でも」
「お嬢様が金額を叫ぶ声が廊下まで聞こえたな。金貨四千枚か、どうする? 元婚約者の所にでも頭下げて借りるか? どうでもいいが、ガーランドと皇太子妃には迷惑かけるなよ」
「かけないし、借りないわよっ!」


 ぐぬぬぬぬ、完璧人間め。
 嫌味ったらしいったらありゃしない。
 ガルドが見ているし、やっぱ一緒に取りに行くのやーめたとは言えない。


「あーもう。わかったわよ! 行けば良いんでしょ行けば!」
「ねーねー、そこのお兄さん。エルンちゃん突然キレてどうしたの……」
「さぁな」
「そこ! 無駄口叩かない! 後、絶対守ってよね。これでも命一個しかないんだから!」
「二つあるやつを見てみたいな」


 ガルドが何か言うけど無視よ!


 ◇◇◇


 庭に出る。
 心配そうなノエに笑顔を見せて、飛んでるほうきに跨った。
 その後ろにはミーナが抱きつく。


「…………ねぇミーナ」
「なーにー?」
「こういうのって普通前がミーナで私が後ろじゃないの?」
「エルンちゃんのほうが背が高いしアタシ抱きつかれたら操縦できないし、エルンちゃんは落ちないようにホウキ握ってくれればそれでいいよ」


 なるほど?
 じゃぁ行くよ! とミーナが言うと私達を中心に風が舞う。
 体がふわっと浮く感じになり、足が地面から離れた。


 そして誰もが無言になる。


「ちょっと……一メートルも上がってないんですけどー!」


 ホウキは前に進もうとしてるけど、ふよふよでこれだったら歩いたほうが早い。


「うーん。前にも言ったけど重量制限があって、エルンちゃんちょっと百キロほど痩せてくれる?」
「出来るかっ! それに、そんなに重く無いわよっ。今の私から百キロ取ったらもう骨も残らないわよ!」
「しょうがないにゃー」


 何で猫語? ミーナはポケットから何かを取り出した。
 私からは死角なのでわからないけど、チラッと見えたのは賢者の石に見えたような……。


「エルンちゃんー」
「何?」
「しっかりつかまっていてね」


 高速エレベーターに乗った時と同じような感覚が体を襲った。
 気づけば上空数十、いや数百メートルまで上がっている。


「どや! すごいでしょ!」
「ええ…………凄いわね」


 凄いけど行き成りする? ホウキ持ってなかったら落ちてたわよ。
 いっくよー! と背後から聞こえてくると一気にスピードが上がった。
 ちょっ一気に上げすぎ!
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