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161 野生のカブトムシを踏んだメキメキ感触と声は若干トラウマ(デートのようなもの2

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 席に座ると、注文もしてないのに料理が運ばれてきた。

「まだ頼んでないんですけど?」
「おや、貴族様は頼んでないのは食べないと? ヒッヒッヒ 安心しな合わせて銀貨一枚しかとらんよ」
「そうじゃなくて……え、でも銀貨一枚の量じゃないわよね?」
「おやおやおや、不服かい?」
「不服じゃなくて……美味しそうで銀貨三枚ぐらいはするんじゃ……」


 出てきたのは、オムライス。
 トマトベースの炒めたご飯に、ふわっとした卵がかけられている。
 その周りには濃厚そうなソースがかかっており、それが私とディーオの前に出されたからだ。

 ポンポンポンと私の頭を軽く叩くと、チヨ婆は厨房に戻っていく。

「子ども扱いされた気分ね」
「その割りに笑っているな、チヨ婆は昔から婆らしい。先代王の時代に城に居たとか言われてる女性でな」
「へぇ……それは置いておいて、ネズミが嫌いなの?」


 ディーオの顔が見る見る暗くなる。


「別に嫌いとかではなくてな……」
「あっネズミ」


 ディーオはオムライスを持ったまま席を立つ。
 勢いよく立つから椅子が転がり、その音で周りの客が私たちを見た。
 軽く咳払いすると、椅子を直して座りだす。


「冗談はよせ」
「いや、冗談じゃなくて……まぁいいか」


 小さい子ネズミが確かに走って行ったのを見た。
 ディーオが慌てて立つからその音で逃げたのだ。


「少し苦手なだけだ」
「耳でもかじられたとか?」
「ん? 何の話だ」
「いや、耳をかじられて嫌いになったって人の話聞いた事があって」
「それはない。帰りにでも話そう……早く食べろ」


 ふむ、早く食べてすぐに帰るつもりなのね。
 しかしまぁ……三十近くもなってネズミが怖いとか。いやだめね年齢は関係ないわよね。
 別にからかうネタが出来たとか思ったけど、ディーオ本気で怒ると面倒そうだからなぁ。

 ドン。


「ん?」


 テーブルに酒のビンが置かれた。
 横をみるとチヨ婆だ。


「料理を褒めてもらった礼ださね、飲みなヒッヒッヒ。 貴族様の口に合うかはしらないけどねヒッヒッヒ」
「まじで? あっりがとうー」


 赤ワインのビンをもって、途方にくれる。
 ワイングラスが無いからだ。


「ヒッヒッヒ、そんな高価な物はこの店にはないよ」
「なるほど」


 ラッパのみね。ディーオがおいっ! と声をかけたと同時に私は飲んでいた。
 口の中に広がる甘酸っぱい味と胃の中が焼けそうなほどの度数。


「ぷっは、美味しい!」
「だろうともさヒッヒッヒ、城に搬入する奴をもらって来たのさヒッヒッヒ」


 半分ほど飲んだビンをディーオにも渡す。
 これほど美味しいワインも珍しい。

「美味しいわよ」
「…………飲めと?」
「いや、別に飲みたくないならいいけど……」


 飲まない事を不思議に思っていると、またチヨ婆の声が聞こえてきた。


「ヒッヒッヒ、ディーオの貴族様は間接キッチュにドキドキしてヒッヒッヒッヒ」


 チヨ婆をみると、お腹を押さえて笑っている。
 その笑いは伝染されて、酒場の他の客も含み笑いをして、私達を見てくる。
 ディーオの顔が不機嫌になってテーブルを叩く。


「エルン君、先に帰るぞ」
「ちょっと、私はまだ食べてるって言うの。護衛もかねて一緒にいてよ」


 誰も知り合いのいない場所で食べてもねぇ。
 チヨ婆も悪気はないみたいだし、ディーオからは見えてないけど、私にやりすぎたって顔で両手合わせてるし。

 他の客も、悪かったな。とか、色男が羨ましいんだ。など、私達を褒めてくる。


「ほら、料理も食べかけで帰るのは失礼だしー」
「そう……いや、そうだな」


 まったく、子供っぽいんだから。


「何か言ったか?」
「何も?」


 それからも、鳥のから揚げや新しいワイン。さらにはコップも出てきた。
 お客の半数以上は入れ替わっても私達は店に居た。

 私達の周りには酒ビンが並べられていく。
 ディーオが飲みすぎだろ。と、言って来るけど、私としては出されたのを飲んでいるだけだ。


「大丈夫よ、前みたいにはならないから」
「なってたまるかっ! チヨ婆聞き耳を立てるな」
「ヒッヒッヒッヒー嬢ちゃん、これものみな」
「ありがとう」


 その後も飲んで飲んで、チヨ婆が店の酒全部のんちまったヒッヒッヒー。と、笑うまで居た。
 二人で銀貨二枚というわけには流石に私もしなく、白金貨三枚ほどを置いて店をでる。
 くれるなら貰おうかねーというチヨ婆に私は好感を持ってしまった。


「いやー飲んだ飲んだ」
「だろうな、他の客なんて飲む物が無いから帰ったぐらいだろ」
「ネチネチうるさいー。で、なんでネズミ嫌いなの?」
「またそれか、いいだろう後悔はするなよ」


 真剣な顔で私に迫ってくる。
 私もその問いにうなずくと歩きながら話してくれた。


 ◇◇◇


「聞かなきゃ良かったわ」
「聞きたいといったのは君だ」


 その内容というのは、ディーオが小さい時にネズミ踏んで潰れたのを見てトラウマになったとか。
 そして、それをやあああっと、克服できるかもまで時間がたった時。あの店で、椅子に座ってブチってやっちゃったらしい。
 そのまま目眩で倒れ、当時の仲間であるミーナやアマンダにからかわれ、同情されたとか。

 うん、私も同情するわ。
 ぶちって感触を体感したわけね。

 なお、チヨ婆はその姿をみてお腹を抱えて笑っていたと。
 つぶらな瞳が訴えかけているのなどを事細かく説明してくれて私の気分も落ち込む。


「飲みなおしね!」
「はぁ?」
「いやだから、飲みなおすのよ。もうすぐ自宅でしょ?」


 意味が解らないという顔しているディーオを引っ張り私達は家へと帰った。
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